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聖女たち同士でこっそりドンパチやっていたものの、それなりに平和にすごしていたある日。その日はやってきた。
「あちゃー、こうなっちゃいましたか」
「おい、これはどういうことだ」
王太子の誕生日パーティーで、誰がファーストダンスの相手をつとめるのかを「治癒」の聖女と、「結界」の聖女と、「武運」の聖女で揉めた結果、決闘が始まってしまったのである。聖女同士の力のぶつけ合い、そして会場の別の場所では、それぞれの一族による乱闘も発生していた。
「聖女というのは、誰かを想う気持ちが強い加護を発動させるんです。だからその分、想いが叶わないと闇落ちしちゃうみたいで。あ、ちなみに闇落ちした元聖女の成れの果てが魔王さまです」
「加護どころか呪いではないか。諸刃の剣すぎる。なぜにそのような大事なことが王族に伝わっておらんのだ」
「定期的に伝えるらしいですけれど、定期的にその情報が失われるらしいですよ」
「馬鹿が」
「この場合、お馬鹿さんなのはすぐに忘れちゃう王族ですね。もしくは、無節操に加護を大盤振る舞いする神々かも」
「……そうだな」
普段なら「不敬だぞ」と怒鳴る王太子だが、今回はぐうの音も出ないらしい。三人の聖女たちのドンパチがさらに激しくなってきた。ぐらぐらと城が揺れる。結界の聖女がその力を反転させたなら、城が崩壊するのも時間の問題かもしれない。
「殿下、このまま彼女たちのことを放置するつもりですか?」
「馬鹿か! 放置できるわけないだろうが!」
「殿下は、立っている者は親でも使うとよくおっしゃっていたので、聖女が闇落ちしようが手駒として利用するのかな~と」
「そこまで己の能力を過信しておらんわ!」
「だったら、婚約者を早く決めていればよかったじゃないですか? 聖女たちの力を王家のために使うために、婚約者候補全員に気のある素振りなんか見せてるからこんなことになるんですよ。あ、私には超絶冷たかったですけどね。酷い! この女たらし!」
「お前、俺がどういう思いで理想の王子サマをやっているか、少しは慮れ!」
「ええええ、無理ですう。殿下、私には塩対応だし~。もう、私も闇落ちしちゃおうかな~」
「勘弁してくれ」
疲れたように床にへたりこんだ王太子に向かって、アンネマリーは手を差し出した。
「殿下、彼女たちを止めますよ。ただし、その後に発生するもろもろの事象に対して一切の苦情は受け付けません!」
「……お前、あいつらを止めるとか、恐ろしくないのか。加護の力はあいつらの方が上だろう? 馬鹿は危険を感知する機能も失ってしまったのか」
「本当に殿下は失礼ですね。何を失っても好きぴを守ろうと思うくらいには、私はちゃんと聖女ですよ!」
「そうか。ならば、お前は下がっていろ。数分はなんとかもたせる。その間に逃げてくれ。お前の身体の丈夫さなら、バルコニーから落ちても死にはしない」
「殿下、カッコいいのに超失礼! 素直にときめけない心が切なくて、吐血しそう! でも好き! 殿下、愛してる!」
「はっ、俺もお前のことが嫌いじゃなかったよ」
「もう、最後まで素直じゃないんだから♡ でも、いいですよ。萌えの力が十分チャージできましたから」
「は?」
そこに突然、きらきらと星空のような光が降り注いだ。唐突に流れ始めたきらきらしい耳慣れない音楽に、王太子は戸惑う。その上、この状況に気が付いているのは、自分ひとりらしいのだ。動揺する彼に声をかけたのは、謎のもふもふとした生き物だった。
「あちゃー、こうなっちゃいましたか」
「おい、これはどういうことだ」
王太子の誕生日パーティーで、誰がファーストダンスの相手をつとめるのかを「治癒」の聖女と、「結界」の聖女と、「武運」の聖女で揉めた結果、決闘が始まってしまったのである。聖女同士の力のぶつけ合い、そして会場の別の場所では、それぞれの一族による乱闘も発生していた。
「聖女というのは、誰かを想う気持ちが強い加護を発動させるんです。だからその分、想いが叶わないと闇落ちしちゃうみたいで。あ、ちなみに闇落ちした元聖女の成れの果てが魔王さまです」
「加護どころか呪いではないか。諸刃の剣すぎる。なぜにそのような大事なことが王族に伝わっておらんのだ」
「定期的に伝えるらしいですけれど、定期的にその情報が失われるらしいですよ」
「馬鹿が」
「この場合、お馬鹿さんなのはすぐに忘れちゃう王族ですね。もしくは、無節操に加護を大盤振る舞いする神々かも」
「……そうだな」
普段なら「不敬だぞ」と怒鳴る王太子だが、今回はぐうの音も出ないらしい。三人の聖女たちのドンパチがさらに激しくなってきた。ぐらぐらと城が揺れる。結界の聖女がその力を反転させたなら、城が崩壊するのも時間の問題かもしれない。
「殿下、このまま彼女たちのことを放置するつもりですか?」
「馬鹿か! 放置できるわけないだろうが!」
「殿下は、立っている者は親でも使うとよくおっしゃっていたので、聖女が闇落ちしようが手駒として利用するのかな~と」
「そこまで己の能力を過信しておらんわ!」
「だったら、婚約者を早く決めていればよかったじゃないですか? 聖女たちの力を王家のために使うために、婚約者候補全員に気のある素振りなんか見せてるからこんなことになるんですよ。あ、私には超絶冷たかったですけどね。酷い! この女たらし!」
「お前、俺がどういう思いで理想の王子サマをやっているか、少しは慮れ!」
「ええええ、無理ですう。殿下、私には塩対応だし~。もう、私も闇落ちしちゃおうかな~」
「勘弁してくれ」
疲れたように床にへたりこんだ王太子に向かって、アンネマリーは手を差し出した。
「殿下、彼女たちを止めますよ。ただし、その後に発生するもろもろの事象に対して一切の苦情は受け付けません!」
「……お前、あいつらを止めるとか、恐ろしくないのか。加護の力はあいつらの方が上だろう? 馬鹿は危険を感知する機能も失ってしまったのか」
「本当に殿下は失礼ですね。何を失っても好きぴを守ろうと思うくらいには、私はちゃんと聖女ですよ!」
「そうか。ならば、お前は下がっていろ。数分はなんとかもたせる。その間に逃げてくれ。お前の身体の丈夫さなら、バルコニーから落ちても死にはしない」
「殿下、カッコいいのに超失礼! 素直にときめけない心が切なくて、吐血しそう! でも好き! 殿下、愛してる!」
「はっ、俺もお前のことが嫌いじゃなかったよ」
「もう、最後まで素直じゃないんだから♡ でも、いいですよ。萌えの力が十分チャージできましたから」
「は?」
そこに突然、きらきらと星空のような光が降り注いだ。唐突に流れ始めたきらきらしい耳慣れない音楽に、王太子は戸惑う。その上、この状況に気が付いているのは、自分ひとりらしいのだ。動揺する彼に声をかけたのは、謎のもふもふとした生き物だった。
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