どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)

水神瑠架

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これが普通の初対面?

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 先生は錬金術師だと聞いていたけど、本当なのだろうか?
 そんな事を思わず考えてしまう程、先生は魔法について詳しかった。
 何でそれを知っているかというと……徹底的に座学を教え込まれたからだったりする。
 え? 私って錬金術師になりたいんだよね? ってレベルで魔法についての基礎を叩き込まれた。
 まぁお陰で魔法の危険性もスキルの危険性もよーく分かったんだけどね。
 とは言え流石にそろそろ錬金術の勉強がしたいです。
 ここまで徹底的に座学を教え込まれるって私が本当の意味で子供だったら嫌気が指して魔法嫌いになると思うんだけど。
 それともどの家でもこれくらいが普通なのかな?
 だとしたらこの世界の子供は相当我慢強いか精神年齢が成熟していると思う。
 ……下手すれば『地球』での経験値ってあってないが如し、って事になるかも。
 
「(と、油断していたらダメなんだよね。本当に気をつけないと楽観的に考えちゃうし。これって私の悪い癖だよなぁ)」

 誰にも迷惑を掛けない内に直したい所なんだけど、簡単に直れば癖とは言わない所がなんとも言えない所だわぁ。
 
 そんな現実逃避のようなどうでも良い事を考えながら勉強の準備をしていると先生が「今日は外でやる」と言って外に出て行ってしまった。
 
「……え?」

 一言簡潔に過ぎる先生の言葉に私は慌てて机の上を片付け外に出る。
 必要な道具などは言われてないから要らないはず。
 と言うことで身一つで外に出ると先生が見慣れない杖を持って立っていた。

「座学ばかりで嫌気が指したのだろう? 実技を行う準備も済んだし、今日からは実技も含めての講義となる」
「……そんなに態度に出ておりましたか? 申し訳御座いません。先生の采配に文句は御座いませんからワタクシはまだ座学でも大丈夫ですよ?」

 いやぁ、正直実技も必要だと思うんだけどさ。
 ただ先生が此処まではこなす必要があると判断しているのなら生徒である私は従うのみだと思う。
 実際無茶な事を強要されてる訳じゃないし。
 それよりもそんなに嫌気がさした顔でもしていたのかと思うとそっちの方が申し訳ないんだけど。
 と、考えていたら先生に「違うから安心しろ」と言われた。
 
「態度には全く出ていない。それに実技に入る前に必要な部分は既に過ぎている。今教えている所は本来実技と平行する所だ」
「……何か理由が御座いまして?」

 この世界の子供は我慢強いなぁとか思って居た私が馬鹿みたいじゃありませんか? それ。
 いや、ただの現実逃避ですけどね、そんな事考えていたのは。
 ただ普通の子供なら魔法に嫌気が指すような事をやらせたのに理由がないとは言わせないよ、って事である。
 そんな私のなんとも言えない表情に先生はため息を吐いた。
 ……おや? もしかして先生にとっても不本意だったのかな?
 此処で先生に正当性があれば躊躇いも無く先生は説明する。
 どれだけ容赦無かったとしても飾ること無く、言葉を連ねるはずだ。
 けど講義のカリキュラムなんて先生に一任されているのだろうに、本当にどんな理由があるんだろう?

「座学とは大抵の子供が疎むモノだ。最初は物珍しく聞いていたとしても段々飽きてくる。特に基礎とはつまらない説明の繰り返しだからな。だから子供が飽きて気も漫ろになった頃に実技も取り入れて魔法を教えていくのが普通だ。……だが、お前は全く態度に出ず、されど授業を聞いていない訳ではない状態だった」

 途中で突然質問をしてもスラスラ答えていたからな、と言う先生に「あーあの突然の質問はそういう事か」と納得するしかない。
 確かに間延びした感じはしたけど、飽きる事でも無かったと思うんだけど。
 基礎は重要、基礎という土台がキチンとしていなければ崩れやすい建物しか出来ない。
 応用なんてモノは基礎を納めた人が言い出すモノであり基礎もろくに学んでいない人が言い出して良い事じゃない。
 例え、此の世界ではイメージ優先で魔法を行使出来るのだとしても【詠唱】を唱える事での安全性は無碍にしてはいけない。
 そんな事を教える座学も又魔法を使う事で必須であると思う。
 そう思っていたから至極真面目に聞いていたんだけど。
 まさか飽きるのを待っていたとは思わなかった。

「(年相応に放り出すなんて出来たら苦労しないんだけどさぁ)」

 外見の年相応に合わせて行動するのは、気恥ずかしい。
 今の私の言動を知っているから不審に思うだろうし。
 結局こうして先生が言い出すまでどうしようも無かったんだね。
 基礎をしっかり学ぶ事が出来たとポジティブに考えるしかない。
 じゃないとちょっと泣きそうになるから。

「もう一つは実技の講師となる人間を選出するために時間が掛かったという事だ」
「そう言えば先生は座学を教え実技は別の方と、最初に言っておりましたね」

 お父様の選考を通る方なので何も問題はないんだろうなぁ、と思ってるけど。
 あ、でも、今度の先生が魔術師ならお母様の伝手って事で女性の方の可能性もあるって事かな?!
 見る人、見る人イケメンとか美麗な男性ばかりなのでそろそろ女性と接したいです。
 あ、リアは私にとって癒やしだよ?
 私が唯一接する事が出来る女の子だもんね……例え、それが遠目に見るだけだとしても、さ。
 そろそろイケメンはお腹一杯です、ってだけで。

「(と言うよりもこの世界の顔面偏差値を知りたいんだよねぇ。私今の所美形と美人にしか会ってないし)」

 いよいよ私の顔面はこの世界では平凡なのだと思いたくなるレベルで周囲の顔面偏差値が高いです。
 
「魔術師は色々と偏っている人間が多いからな。更に実戦経験があり護身も教える事が出来る戦闘能力を保持している人間はあまり多くは無い。だから選ぶのに時間が掛かったらしい。……オーヴェの過保護も相変わらずだな」

 最後は嫌味っぽいけど、言葉程表情は厳しくない。
 こんな時先生は本当にお父様が大事なんだなぁと思う。
 まぁこういう場合は心強いと言えるんだけどね。
 先生が高名な錬金術師である事には違い無いわけだし。

「(目下私の目標は先生が問答無用で私を排除するっていう方法をとらないぐらいには交流を持つって事なんだよね)」

 進歩は? ……前途多難ですけどなにか?

「それで、あのその先生は何時から……」

 そんなしょっぱい現実はともかく、ちょっとだけ女性じゃないのかなぁって言う期待があって今の私は結構そわそわしている感じが表情に出ているのは無いかと思う。 
 そんな多分私には珍しい表情に気づいて先生は不思議そうな顔をしていた。
 
 ……とはいえ、そんな甘い幻想は一発で崩されてしまったんですけどね。

「ほんとーにパルが先生なんてやってんだな。おもしれぇ光景だぜ」
「シュティンヒパルだ。貴様といいオーヴェといい、貴様等は何時になったらその変な呼び方を変えるつもりだ?」
「シュティンヒパルなんて長ったらしい名前覚えてらんねぇよ。覚えやすくて良いじゃねぇか、パル」
「貴様、それでも冒険者か? 貴族からの依頼の時、名前を覚えられませんでした、と言うつもりか? 一発で首が飛ぶぞ」
「だいじょーぶ。人は見てるからな!」
「馬鹿者。なら私の名も普通に呼べ」
「あ、あの……」

 いつの間にか先生の横に歩いてきた男性が先生と漫才じみた会話を始めてしまった。
 軽快と言えば軽快なやり取りに口を挟む事も出来ず見ていた私だったけど、このままじゃ終わりそうにないと思い声を掛ける……内心、甘い幻想なんて現実には無いと涙しつつ。
 私の声はどうやらかろうじて聞こえていたらしく、先生と男性が此方を向いてくれた。

「おーわりぃな、ほったらかしにしちまって」
「いえ、それは構わないのですが……」

 はっきり聞くたくはないけど、聞かないといけないジレンマを感じつつ、私は恐る恐る口を開くしか無かった。

「貴方様はワタクシの実技の講師、なんですの?」
「おう! 俺はツィトーネ。宜しくな、嬢ちゃん」
「キースダーリエ嬢だ、馬鹿者」

 カラっと陽気な笑顔を浮かべて挨拶をしてきた男性――ツィトーネ様――の物言いに先生が突っ込んでいるけど、私はそれどころじゃなかった。
 甘い期待だとは分かってても女性の先生が良かったなぁ。
 なんて私の落ち込みに気づいたのかツィトーネ様は不思議そうな表情で私を見ていた。

「どうしたんだ?」
「身分にはあまり拘らないように見えたが、流石に平民が先生というのは驚くのではないか?」
「えー? オーヴェの娘なんだろ? 坊ちゃんの方は全く問題無かったぜ?」
「それか貴様の暑苦しさに辟易したのかもしれんな」
「人を筋肉ダルマみてぇに言うんじゃねぇよ」
「それで? どうしたんだ?」

 先生の容赦の無い物言いと視線に私は苦笑いを浮かべる。
 まぁ勝手に期待して勝手に期待が崩れただけなんだけどね。

「至極下らない事ですからお気になさらず」
「考えすぎで暴走されるよりはマシだ。言え」

 逃さないと言わんばかりの物言いに私が勝てるわけも無く、私は渋々話すしか無かった。

「先に謝らせて下さいませ、ツィトーネ様。……申し訳御座いません。――魔法の実技なので魔術師なのだろうと。ならばお母様の知り合いになる可能性は高いと思いまして」
「実際俺はラーヤとも友人だからな。間違って無いな」
「……ですので……その、女性の方が講師になるではないかと少しばかり期待をしてしまいまして。その……申し訳御座いません」

 なんとも言えない空気思わずもう一度謝ってしまった。
 だって妙な空気になった気がするし。
 けど「言え」って言ったの先生だし。
 いや、言葉にするといっそう下らないと思ったけどさ!
 心の中で誰にともなく言い訳をしつつ、言葉を続ける。

「ワタクシが勝手に期待してしまっただけですの。別にツィトーネ様に文句があると言う訳ではありません。ただワタクシの周囲は異様に顔の整った男性しかいないな、とか。ワタクシ、女性の顔見知りが少なすぎるな、とか。そんな下らない事を考えてしまっただけですの……本当にそんな下らない事ですので…………忘れて下さい」

 段々語尾が小さくなっていってる自覚はある。
 というか話せば話すほど墓穴を掘ってる気がする。
 多分、今私の顔は赤いはず。
 先生とツィトーネ様が無言なのが更にいたたまれないのですが。
 せめていつものようにため息でも嫌味でもいいので何か言ってくれませんか、先生?
 と、そんな自棄な気分で顔を上げると先生とツィトーネ様が思いきり驚いた顔をしていた。
 ……其処まで驚かれる事も言っていないのですが?
 言いたい事は言ってしまったので私は黙るしかないし先生方は驚いたまま何も言わないので妙な沈黙が空間を支配していた。

 なんとも言えない沈黙を破ったのはツィトーネ様の吹き出した音だった。

「アハハハハ! 確かに母親の知り合いって言ったら女の可能性が高いわな!」

 先生も頭痛を感じると言った感じで米神を抑えている。

「妙な部分で聡いのに、どうしてそんな結論になるんだ?」
「けど面白いじゃねぇか……嬢ちゃん」
「……なんですか?」
「俺が平民って所は問題無いのか?」

 ツィトーネ様の言いたい事がいまいち分かりません。
 確かに姓を持たぬのならツィトーネ様は平民なんだろうけど。
 マナーの講師じゃあるまいし身分なんて必要も無いし、むしろ何の問題が?

「質問の意味がいまいち分からないのですが。ツィトーネ様はお父様がお決めになった講師であり、先生のご友人のようですし、何の問題があるのでしょうか?」

 私は素直に思った事を言ったんだけど、ツィトーネ様の目から僅かにあった警戒? のような感情が消えた気がした。
 そう、ツィトーネ様は妙に気安い態度を取っていましたけど、私には探るような何かを目に宿していました。
 つまりツィトーネ様と先生は一種の同類と言う事なのでしょう。
 ……そんな方々と友人であるお父様も又同類なのかもしれない。
 ただ産まれた時から身内に組み込まれている私にはそれを探る方法はないんだけど。
 
 そんなツィトーネ様から警戒の感情が消えた……いえ、消える事はないだろうから、薄れただけだと思いますが、感情に変化があったように感じました。

「成程。流石オーヴェの娘って事か。……女じゃなくて悪いな」
「もう触れないで下さい」

 いたいけな子供をいじらないで下さい。
 そろそろ泣きますよ? 年甲斐も無く……外見的には年相応ですけど。

「性別はどうしようも無いがコイツはそれなりに出来る魔術剣士だ。魔法を使い戦闘能力を持つ人間となればベターな人選だろう。……そもそもコイツが女だったら気持ち悪い事この上ないぞ」
「パル、ひでぇ!」
「シュティンヒパルだと何度言えば……平民だと言う事を気にしないのならばコイツに指南を受ける事になるが、いいのか?」

 先生の言葉に私は佇まいを正し先生達と向き合う。

「ツィトーネ様、先程の無礼、心から謝罪致しますわ。申し訳御座いませんでした。――ワタクシはキースダーリエ=ディック=ラーズシュタインと申します。これからご指導ご鞭撻の程、宜しくお願い致します。」

 私の言葉に驚いたようだったけど、ツィトーネ様は直ぐに我に返ると再び陽気な笑顔を浮かべるのだった。

「俺はツィトーネ。魔法の実技と武器を使った実践を教える事になる。よろしくな、キース嬢ちゃん!」









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