どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)

水神瑠架

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最後には意志の強い方が勝つのかもしれませんね(3)

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 簡素な部屋に設置された魔法陣を踏むと一瞬景色が変わり、別の場所に無事移転されたことが分かりました。
 先に行ったテルミーミアス達が扉の前に待機したのを見送ると僕は殿下達を下がらせ剣を抜き構えた。

「物音がしないな」
「どうやら小さな建物みたいだねぇ。造りは古いけど、それなりに手入れされてるかな?」
「どうだろうな。案外、この部屋だけかもしれないぞ?」
「あーそれはあるかも?」

 軽口を叩きながらも二人の視線は扉から離れません。
 鋭い眼光と言葉の軽さの違いに内心苦笑してしまいます。

「殿下。如何しますか?
「ここで待っていてもしかたない。危険があるのは分かるが行くしかないだろうな」

 ロアベーツィア殿下の言い分に引き留めて、ここにいて下さいとは言いずらいですね。
 行動力があることも判断力があることも決して悪いことではありませんが、こういった時には少々困りものだな、と。
 そこでまるで他人事のように考えてしまい、つくづく自分もどうしようもないと内心苦笑する。
 テルミーミアスも暫し悩んでいたが、溜息をつき頷きました。
 ここまで意志を固めた殿下達がとどまってくれる説得が思いつかなかったのでしょうね。

「必ず私達の後ろにいらっしゃって下さい」
「分かっている」
「ラーズシュタインご令息様もそれでよろしいでしょうか?」
「そうだね。申し訳ないけど頼みます」

 獣人達の主はあくまで令嬢である以上令息を絶対に守るとは言い切れません。
 あくまで彼等にとって大切なのは【主】なのです。
 ですから余裕があれば令息も護って下さるとは思いますが、余裕がなければ令息よりも令嬢の安全を取ることでしょう。
 それは令息自身も分かっていらっしゃるのでしょう。
 彼は獣人達を見た後、苦笑しながらも頷きました。

「オレ等にはきかねぇのカ?」
「こちらの言うことなど聞くつもりもないのだろう?」
「まぁナ」

 過去の遺恨があるらしいテルミーミアスがは吐き捨てるように言いますが、青髪の獣人は、そんなテルミーミアスの態度を面白がってすらいるようです。
 今の言葉も笑いが多分に含まれていました。
 熱量の違いに密かに嘆息するしかありません。
 ですが、まぁ今はある程度の連携が取れれば良いですかね?

「では、行きましょう」

 テルミーミアスが先導して扉を開け放ちます。
 罠や敵がいないことを確認しながら建物の中を探索していきます。
 建物は老朽化しているようですが、手入れはある程度されているためか、崩れ落ちそうな様子も無く、思ったよりも綺麗です。
 人の気配感じません。
 罠も……今の所ないようですね。
 緊張続く中、一室づつ調べていく。
 一階を確認した後は誰もが緊張感からか気疲れを起こしていました。

「二階からも気配はねぇナ」
「そうなのかい?」
「あア。マァ、そちらさんがオレなんかの言葉を聞くならだけどナァ」

 挑発するような言葉にテルミーミアスは一瞬怒りを表に出しましたが、すぐに大きく深呼吸をし、自力で落ち着いていました。

「お前達の能力の高さは分かってるからね。それに誘拐されているのは君達の主様だ。こんな時に嘘をつくとは思わないさ」

 インテッセレーノが肩を竦めて言いました。
 獣人達はその言葉に笑みを深めるだけですが、否定しませんでした。

「では、地下か」
「先程地下に続く階段がありましたね」
「はい。……やはり行きますか?」

 最後の確認のように問うテルミーミアスに殿下達は頷きます。
 殿下達の覚悟決めた表情にテルミーミアスは溜息を隠しませんでした。

「決して自ら戦おうとはしないで下さい」
「出来るだけ気を付ける」

 殿下、貴方の曖昧な答えにテルミーミアスの眉間に皺がよっていますよ?
 僕も僕で変な所で素直なロアベーツィア殿下に内心苦笑するしかありません。
 
「くれぐれもお願い致します」

 説得を完全に諦めてもう一度だけ念押しをし、テルミーミアスはインテッセレーノと共に先頭を歩き、階段を降りていきます。
 僕は再び殿となり、階段を降りましたが。案外階段は短く、あっさりと地下についてしまいました。
 地下は一室しかないのか、それなりに大きい扉の前に全員が並び、見上げました。

「複数の気配がすんナ」
「敵、だろうな」
「どぉだろうナ? それにしちゃア、弱い気もするけどナァ」

 小声でやり取りするテルミーミアスと青の獣人に「(案外気が合うのでは?)」などと聞いたらテルミーミアスが怒りそうなことが思い浮かびます。
 ですが、そんなことを考えたのは僕だけではなかったようで、令息も二人のやり取りを聞いて驚いた表情をなさっていました。
 任務となれば切り替えが出来るのはテルミーミアスの長所かもしれませんが、流石にここまで完璧に切り替えられるとこちらが戸惑ってしまいますね。
 
 騎士としては良いことなんでしょうけどね。そういった意味ではテルミーミアスは騎士向きの性格をしているということかもしれませんね。やはり騎士を多く輩出している家の出、ということなのかもしれません。

 扉に罠がないか調べる二人の後ろ姿を見て僕は口元に浮かぶ笑みを手で隠しました。
 流石にこの場で笑うのは不謹慎だと分かってはいるのです。
 それでも自分の中にある好奇心が顔を出すのを止めることは出来ません。
 自分の中に沸き上がる好奇心を抑え、周囲を見渡すことで気を紛らせる。
 この地下空間は設計時からあったのでしょうか? 
 それとも後で付け加えられたのでしょうか?
 流石に見ただけでは分かりませんが、造りがかなりしっかりしていることだけは分かります。
 つまり、こたびの計画がかなり前から企てられていたということなのではないでしょうか?
 ですが、そうなると少々疑問が沸きます。
 一室しかない地下室や階段からすぐに到着するなど何やら悪事を働く場としては中途半端な気がするのです。
 いくら殆どの方に真の目的を話してはいないと言っても、警護の人間までいないのは何故なのでしょうか?
 
 もしかしたら首謀者にとっては今、自分がしていることすら罪とは思っていないということなのでしょうか?

 かなり突飛な考えが浮かんでしまいましたが二人が確認を終える姿を見て、自分の考えを一時的に棚上げしました。
 今、考えなければいけないことではありませんね。
 テルミーミアスが一度だけ振り返り全員の顔を見回す。
 全員が頷くのを見るとテルミーミアスは扉の前に立ち一息ついたかと思うと、何の前触れも無く扉を蹴破ると中へと飛び込んいきました。
 完全な宣戦布告です。
 
 さぁて、派手な登場となりますが、これで相手の度肝を抜けますかね?

 口元に決して友好的とは言えない笑みを浮かべると僕達も後の追い部屋に飛び込んでいった。


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