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最後には意志の強い方が勝つのかもしれませんね(2)

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 僕達が執務室に入った時には惨事一歩手前、という感でした。
 獣人の二人は青年――何故かあの時の青年ではありませんでしたが――の首にナイフを突きつけいますし。
 ご令息は言葉では止めていらっしゃるですけど、目は完全に「やってしまえ」とおっしゃっています。
 残って獣人達を止めようとしていた騎士達は……ええ、壁の所にいますけど生きてはいるようですし大丈夫でしょう。
 呼吸はしているみたいですし。
 はっきり言って、この部屋が血塗れになる一歩手前と言った惨状に僕は溜息を隠せません。
 令嬢が一体どのような方法で誘拐されたかは分かりません。
 ですけれど、あの獣人達は冒険者として名が高く、それ以上に嘗て裏社会で一流の名をほしいままにした存在です。
 そんな彼等が手が出せず令嬢は誘拐されたのです。
 これは完全に相手の方が一枚上手だったということなのでしょう。
 
 それにしては自分が逃げるそぶりが全く見られないことが気になりますね。今だって死ぬか生きるかの瀬戸際でしょうに。

 感じられるのは諦め? ですかね?
 それらを感じ取っているのか獣人達とご令息の機嫌はすこぶる悪いですし、つられるように殿下達の機嫌も低下していっています。
 あ、テルミーミアス?
 ここで飛び出して切りかからないで下さいよ?
 現状、令嬢の居場所を知っているのは彼だけなんですから。
 多分令息が止めた理由もそんな所でしょう。
 ではなければ、目で「やってしまえ」なんて訴えかけないでしょうし。

「アールホルン殿。すまないが二人に剣を引くように頼めないか? ――情報を聞き出したい」

 案に人道的な意味ではないとあっさり言いながらもヴァイディーウス殿下はアールホルン様にそう頼みました。
 殿下もキースダーリエ様の事を気に入っていますからね。
 推定ですが誘拐犯にかける情はないということでしょう。
 そもそも相手は公爵令嬢。
 相当の理由がなければ誘拐犯は死罪に相当します。
 助力をした者も同じ処罰を受ける可能性が高いのです。
 つまりナイフを突きつけられている青年が何も知らない被害者ではない限り末路は同じということです。
 そのことにご本人が気づいているかは知りませんが。
 アールホルン殿もそんな殿下の内心に気づいているのか頷き、獣人二人に「情報を聞き出したいから、一度剣を引いてくれないか?」とこれまた一言多い感じで頼みました。
 恐怖を煽る意味でもあるかもしれませんが、青年の表情に変化はありません。
 言っていることの内容に気づいていないとは思えませんが。
 全く変わらない諦めの表情に僅かながら違和感を感じます。
 ナイフを引いた獣人を他所に殿下が青年に話しかけました。

「貴方はフェツィーアヒト家当主ですね?」
「……既に元、になっております。今は家と縁を切っておりますので、ただのツヴァイドと呼び下さい、尊い方」

 殿下の問いかけに青年――ツヴァイド――は立ち上がると深々と頭を下げました。
 その洗練された動きを見れば、彼が貴族であることは一目瞭然です。

「そうですか。では答えて下さい。――キースダーリエ嬢は何処にいるのですか?」

 嘘を言う事を決して許さないという圧をヴァイディーウス殿下から感じます。
 この方は普段、それを殆ど表に出すこと致しませんが、こういった姿を拝見すると、この方もまた陛下の御子であると思い知らされます。
 嘘を、いえ、答えねば切り捨てることも辞さない殿下に気づいているでしょうに。
 ツヴァイドの表情は何処までも凪います。……まるで本当に全てを諦めてしまったかのように。
 
「少女を連れ去ったのはヴァーズィンです。ここと“ある場所”を繋ぐ魔法陣を床に仕込み、それを発動させ少女を連れ去りました。ただ、一回限りの使い捨てですので皆さんが使用することは出来ません」
「その名は確か、この教団の教主の名でしたね? つまりこの教団がキースダーリエ嬢を誘拐したと、そういうことですか?」
「いいえ。教団は関係ありません。少女を欲していたのはヴァーズィンだけですから」
「……教団はあくまで関係ない、と?」
「はい。ヴァーズィンは教団を立ち上げましたが目的は他にありました。その目的は少女を神子とすることです。信じられないことだとは思いますが、ヴァーズィンは本気でそのためにこの教団を造りました。私とヴァーズィン、そして護衛の彼以外はこの教団がたった一人の少女のために造られた事を知りません。彼等はヴァーズィンの教えに心惹かれ集まっただけの善良な人々なのです」

 診療所の方もそうです、と締めくくったツヴァイドの言葉に僕は僅かに眉を顰める。
 殿下も気づいているでしょう。
 この青年は先程から令嬢の事をあくまで「少女」と言い続けているのです。
 そこに宿る僅かな悪意。
 隠しているのか、いないのか……ツヴァイドは令嬢を「恨んでいる」。
 獣人達が再びナイフを抜き去り、ツヴァイドを睨みつけました。
  
「全てを知っているのは貴方と教主、そしてナルーディアスだけだと?」
「ナルーディアス? ああ、彼の本来の名はそんな名前だったのですね」
「知らなかったのですか?」
「ええ。きっとヴァーズィンも知らないと思います。彼とヴァーズィンとの関係はあくまで「契約」によるものでしたから」

 あっさりと言い切るツヴァイドに殿下は「彼は殺されました。教主に」と告げたがツヴァイドは「そうですか」としか言いませんでした。
 その様子に、本当に彼等は仲間とも呼べる関係ですら無かったのだと知れる。
 死を悼む様子も見せないツヴァイドにテルミーミアスは口を挟みたそうですが、インテッセレーノに止められています。
 流石に殿下の質問を遮る訳にはいきませんから当然の行動ですかね。
 ロアベーツィア殿下も兄君の言葉を遮る気はないのか、こういった場では兄君に任せているのか口を挟む様子はありません。
 ですが、険しい表情のままツヴァイドを見ていらした。

「貴方と教主の関係は何なんだい?」

 ヴァイディーウス殿下は問いに初めてツヴァイドの表情が変わりました。
 宿っている感情は……懐かしさと悲しみ、そして苦しさでしょうか?

「学園に入る前からの友人……であったと私自身は思っております」
「だから手を貸した、とでも?」
「…………分かりません」

 絞り出すような小さな声の答えには眉を顰めるしかありません。
 殿下の質問の答えは「是」か「否」の二択しかありません。
 それともこの青年は自分が悪事に加担した理由も分からない程に愚鈍なのでしょうか?
 それか、ツヴァイドも又契約しただけの駒ということもあるかもしれませんが。

 いえ、それにしてはヴァーズィンとやらのしようとしていることや目的に詳しすぎますね。少なくともあの青年が何をしたいのか、何のためにこんなことをでしかしたのか、それを知っている素振りが伺えます。ならば決して「ただの駒」ではないはずです。

 僕と同じ疑問を誰しもが抱ているのでしょう。
 全員の疑惑の目がツヴァイドに集まりました。

「一応言っておきますが、言い逃れならば、もう遅いと思いますよ? 少なくとも貴方が関係者であることは間違いないのだから」
「ええ。分かっております。言い逃れをすることも致しません。私は私の意志でヴァーズィンに加担しました」

 ツヴァイドは大きく溜息をついた。
 その表情は疲れ切った老人のように気力無く、そして儚いものでした。

「ですが、申し訳御座いません。私には加担した理由を述べることは出来ません。……もしかしたら両親への不満だったかもしれません。いえ、ラーズシュタイン家に対する嫉妬心だったかもしれません。それともああなるまでヴァーズィンを放置していたことへの罪悪感だったのかもしれません。今までもずっと自分に問いかけていました。一体私はどんな理由で、こんな大それたことに加担し続けたのか? と」

 顔を上げるツヴァイド。
 表情に狂気は感じられず、だがどこかおかしさだけが感じられます。

「今でも答えは出ません。どれもが理由に相応しく、けれど私の真の理由足り得ない。ただ、そうですね。考えるだけ考えた今は一つだけ言えることがあります」

 その言葉はこちら側にとっては決して許せない理由でした。

「私は少女を許せない。彼女さえ“普通”ならばこんなことは起こらなかったのだから」

 「ただの逆恨みになりますが」とツヴァイドが言い切った瞬間青と赤の風が吹いた。
 と、同時に甲高い音が部屋に響き渡る。
 ツヴァイドの言葉に激怒した獣人二人が彼の首を狙い、それを間一髪の所でテルミーミアスとインテッセレーノが止めた。
 それでも力は獣人の方が上です。
 ツヴァイドの喉に出来た赤い線から細い紅い筋が流れ出るのが見えます。
 そこで拮抗していることじたいが凄いと思いますが、体勢的にもテルミーミアス達が不利であることには変わりありません。
 ですが、そんな獣人を止めて下さる方がいらっしゃいました。

「ルビーン、ザフィーア。まだダーリエの居場所は聞いていないからこらえてくれないかな?」
「……ッチ!」「…………」

 アールホルン様のどこまでも冷え切った制止の言葉に二人の獣人は再びナイフを引いてくださいました。
 ですが、もしも目で人が殺せるならツヴァイドはもう死んでいたことでしょう。
 それほどまでに獣人達はツヴァイドに鋭い視線をくれてやっていました。

「キースダーリエ嬢が許せない、とは?」

 先程のアールホルン様に負けず劣らず、いやそれ以上に冷たい声音でヴァイディーウス殿下が問いかけました。
 ツヴァイドは流れる血を脱ぐこともせず再び口を開きました。

「ヴァーズィンも昔はあんた男ではありませんでした。彼は自分には出来ない方法で人を従わせる人間を尊敬する傾向にありましたが、今代の陛下は素晴らしい御方であり、陛下の統治下である限りヴァーズィンは優秀な文官であり続けるはずだったのです」

 どうやらヴァーズィンは城の文官だったようですね。

 そういえばこの教団の教主になる前の前歴がありませんでしたね。あれは意図的に消されたものでしたか。

 ならば、それなりに優秀な文官ではあったのでしょう。

「そんなヴァーズィンが豹変したのはあの“謁見の時”なのです。あれが起こらなければヴァーズィンは未だ王城にいました。それもとびきり優秀な文官として」
「謁見の時とは……もしかしてキースダーリエ嬢が謁見した時のことを言っているのですか?」

 僕はその場には居ませんでしたが、後で話を聞く限りでもあれはかなり異例だったと言うほかありません。
 ただ、その後直ぐに陛下と王妃の離縁と王妃の幽閉が決まったことで話題に上がらなくなりましたが。
 あの時、何が起こったのか。
 それを知るのはこの場においてはツヴァイドと殿下達以外にはいません。
 我々の視線が今度は殿下達へと向かいました。
 ヴァイディーウス殿下は当時を回顧しているのか、難しい顔をしていらっしゃいました。

「確かにキースダーリエ嬢の謁見は異例続きでした。ですが、あの件でキースダーリエ嬢は何の非礼も犯していません。むしろ彼女は被害者でした」
「ええ。確かにそう言えます。あの場にいた誰もが少女に非があったとは言わないでしょう。そんな輩は余程目が曇っていると私も思います」

 そもそも社交界デビューもしていない歳の令嬢が謁見することじたいが異例なのです。
 しかも非公式とは言えず、王族や領地持ちの貴族が揃って参加したのだから、明らかな意図が透けて見える謁見だったのでしょう。
 一体誰が仕組んだ事であり、誰が得をしたのかは僕に知ることは出来ませんが、まさかあの時の謁見が事件の発端だったとは思いもしませんでした。
 
 いえ、それも正確ではありませんね。本人も逆恨みとはっきり言っていますし。

 事件を起こした方が悪いのは当然です。
 しかも当事者ですらキースダーリエ様には何の非も無かったのだとおっしゃっているのですから。
 ただツヴァイドにとってはあの謁見を機に友が様変わりし、その原因を令嬢に押し付けた、ということなのかもしれません。

「ですが、少女が“普通”ならばこんなことは起こりませんでした。そう。少女が普通ではないがために、今回のことは起こったのです。ヴァーズィンをあのような可笑しな人間に導いたのはあの普通ではない少女だ! だから私はあの少女が憎いのです! 彼女が普通ではないがために私達は不幸になったのですから!」

 ツヴァイドが初めて声を荒げました。

「そうだ。普通から逸脱してしまえば不幸を招く。普通でなければいけないのに。あの少女は普通を逸脱し、それを周囲に振りまいている。あの少女は不幸を招く存在だ。現に少女に関わり皆不幸になっているじゃないか!!」

 何かに対する激しい怒りに反発、そして慟哭が込められた叫びが部屋に木霊しました。
 ですが彼の心からの叫びに僕は白けた目を向けることしか出来ませんでした。
 逆恨みと自覚しているから良いという訳ではありません。
 この青年は様々な事を考える頭も時間もあったというのに一番楽な方に逃げたのでしょう。
 それが分かった途端、冷めてしまいました。
 先程まで彼の人となりをもう少し探ろうと思っていましたが、その情熱が一気に冷えたのを感じます。
 
 所詮、この青年はこの程度の輩、ということですね。面白くもなんもない落ちがついたものですね。

 これならば尋問でも拷問でもしてさっさとキースダーリエ様の居場所を吐かせた方が余程良い。
 ですがそう感じたのは僕だけだったらしく、他の者は皆一様に厳しい顔でツヴァイドを見ました。
 怒気が僕まで届いています。
 かなり、それも複数の怒りに壁に寄りかかり気絶していた騎士の小さな呻き声が聞こえました。

「貴殿が何を知り、何を感じたかは存じませんが」

 テルミーミアスが殿下の前に立つと青年を睨みつける。
 驚いてインテッセレーノを見ましたが、彼もまた怒りの表情で青年を睨みつけていました。

「自分はキースダーリエ様の御言葉にこの身を救われました。きっと彼女は自分を救うつもりなどなかったと思います。あの苛烈とも言える言葉の数々も彼女の本心であり、誰かを慮るものではなかったと今では分かります」

 テルミーミアスはどこまでも真っすぐな眸で青年を射抜く。

「自分が勝手に彼女の言葉に救われただけです。ですが、もしキースダーリエ様が「普通」でいらっしゃれば、自分が救われることはなかった。普通ではないキースダーリエ様に救われ幸福を貰った人間とていることはお忘れなきよう。――あの方は不幸を招く存在では決して無い!!」

 ドンと机に拳を叩きつけるテルミーミアスの背を殿下は呆れたような、ですが確かに笑って見ていました。
 それに僕もテルミーミアスの言い分に思わず吹き出してしまう。

 キースダーリエ様を庇う発言であるのは良いのですがね。そこは「普通ではない」という所を否定すべきでは?

 確かに彼女と少しでも接することがあれば、彼女が決して規格内に収まる方ではないのは分かりますけどね。
 インテッセレーノも笑ってはいますがテルミーミアスの言葉を訂正する様子はありません。
 ここにキースダーリエ様が居れば大層嘆かれたことでしょう。
 勿論自分に対する言葉とここに居る方々の反応を見て。

 いえ、あの方はむしろ面白がるかもしれませんね。落ち込む姿も思い浮かぶ気がしますが。

 テルミーミアスの言葉の圧にか、それとも内容にかは分かりませんが呆然している青年にヴァイディーウス殿下が一歩前にお出になりました。

「テルミーミアス。君がキースダーリエ様を尊敬しているのは分かるけれど、一応私が話している最中であることを忘れないでくれ」
「はっ!? も、申し訳御座いません!」
「いや、構わないよ。怒りを感じたのは私も一緒だからね。……さて、キースダーリエ嬢が少々風変りな令嬢であることは事実です」

 ヴァイディーウス殿下はキースダーリエ様を思い浮かべていらっしゃるのか、ふんわりと微笑みました。
 ですが、直ぐにそれをおさめると鋭い眼差しで青年を射抜いた。

「ですが、そんな彼女だからこそ私は今こうしてこの場に立っていられるのです。彼女がもし貴方の言うように「普通」の令嬢ならば私はこの世に既に無い存在となっているか、そうではなくとも五体満足ではいられなかったことでしょう」
「おれ……いや、わたしもだ。わたしはいまだに母親に枷をかけられ兄上とこうして共にいることもできなかったはずだ」

 襲撃を受けた際、共にいらっしゃたのが普通の令嬢であるキースダーリエ様だとしたら? 
 いえ、その前に普通の令嬢だったらここまで殿下達と共にいることはなかったでしょう。
 つまりあの襲撃の場にすらいなかったということになるはずです。
 そうなってしまえば、あの時にヴァイディーウス殿下が。
 いえ、それどころか殿下を二人共失う可能性すらあったのです。
 令嬢が「普通」ではなかったが故に一体どれだけの人が救われたことか。
 
「僕も救われた一人かな。ダーリエが普通だったら、僕は今も自分を嫌いなままだっただろうから」
「マァ、オレ達は当然まだあそこにいただろーしナァ。そうなりゃ今頃どこで野垂れ死んでいたことやラ」
「同意」

 話に割って入ることのない小さな呟きが後ろから聞こえてきました。
 僕自身はどうなのでしょうか?
 もしかしたら狂わされた側かもしれません。
 ですが、現状を嫌っているか? と言われても「否」と答えることができます。
 むしろ観察しがいのある存在ばかりに囲まれて嬉しい限りです。
 自分の悪癖を考えれば、狂わされた結果、ここにいるのだとしても僕は原因に礼を言ってしまいそうですね。
 
 僕達が次々に否定したせいでしょうか?
 青年は完全に言葉を失いました。

「私達はね。皆、貴方の言う「普通」じゃないキースダーリエ嬢に救われ、共にいることを選んだんだ。不幸なんてとんでもない。むしろ幸運をもらったと思っているよ。だからね――……」

 ヴァイディーウス殿下は微笑んでいらっしゃる。
 だが目は氷のように冷たく、声音もどこまでも冷たかった。

「――……貴方の勝手な言い分も逆恨みの言葉も聞きたくはないんだ。自己保身の言い訳など、もう充分だから、さっさとキース嬢の居場所を吐いてもらえるかな?」

 言葉のナイフが青年を深く切りつけたのが見ていて分かりました。
 断罪ですらありません。
 自分の存在すら価値の無いものだと言い切られて青年は呻き声を上げて俯いた。
 数秒のことだったでしょうか?
 顔を上げた青年の目には何も映っていませんでした。
 諦観すら浮かばぬ眸。
 完全に心が壊れたのかもしれませんね。
 ですが、どうでも良いことです。

「そこの棚の向こうに隠し扉があります。その先に永続的な魔法陣が設置してある部屋が存在しています。ヴァーズィンと少女はそこに」
「そうですか」

 テルミーミアスとインテッセレーノが棚を動かすと、確かに扉が現れました。
 鍵は……かかっていないようです。
 罠もないことを確認するとインテッセレーノがこちらを向き頷きました。
 それを見て殿下達が扉へと向かいます。

「こたびの事は私一人が加担致しました。領民には何の罪も御座いません」
「分かっています。貴方の家族にも大きな咎はいかないよう取り計らいます」

 殿下は振り返ることなく答えると階段を降りていきました。

「そうですか。……家族は大丈夫なのですね。――――」

 殿の僕は青年が小さく何かを言ったことに気づきましたが、何を言ったのかまでは聞こえませんでした。
 ちらっと振り返ると青年は感情のこもらない眸で写真か何かを見ていることだけは分かりました。
 何の写真を? 何のために?
 一瞬だけそんなことが過りましたが、それも直ぐに霧散し、僕は扉を閉めると殿下達の後を追い階段に足を踏み入れたのです。

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