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中編
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無事にベルナール様との結婚式が終わりオルレイアン伯爵家の屋敷に来ていた。
今日から僕の家となる場所だ。ベルナール様が用意してくれた自室は広くて豪華だった。
湯浴みを終え、夜着に着替えた。
「今日は一生の思い出になった日だったな」
契約結婚とはいえベルナール様と結婚式を挙げられたこと。キスをされたこと。全部忘れたくない。
思い出しただけでときめきが抑えられない。
それに今日は初夜だ。もしかしたら、なんて淡い期待も抱いている。
ベッドの上でゴロゴロしていると扉がノックされる音が聞こえた。
こんな時間に誰だろう、執事が何か伝え忘れたことでもあったのかな。
そっと扉を開けるとベルナール様が立っていいた。
「べ、ベルナール様!?」
まさか本人がいるとは思わず大きな声を出してしまった。
失礼な態度をとってしまった僕にベルナール様は優しく微笑んでくれた。
「夜分遅くに訪ねてきてしまってすまない。今日の結婚式で緊張しているようだったから、体調を崩していないかと様子を見にきたんだ」
かっこいい上に気遣い上手なベルナール様。ますます好きになってしまう。
「体調は大丈夫です。今日は素晴らしい式をありがとうございました」
「ああ、私も素晴らしい式ができて嬉しかったよ。イヴの綺麗な姿も見れたからね」
すごい包容力、すごい大人フェロモン。言葉が嬉しくて胸がキューンとしてしまう。クラっとしてそのまま倒れてしまいそう。
待って、僕。こんなところで倒れてはいられない。なんてったって今夜は初夜。夜遅くに訪ねてきてくださったからにはきっとそれも意識してくださったに違いない。
緊張するばかりじゃ駄目だ。僕からもアピールしないと。
「あ、あのベルナール様、今夜は.....その、あの」
なんて言葉にすればいいのかわからない。初夜ってどうやって誘えばいいの? お誘いをするのってこんなに恥ずかしいんだ。
どうすればいいのかわからなくなってとっさにベルナール様の服の裾を握ってしまった。
「......イヴ?」
戸惑っているようなベルナール様の声。でもやってしまったからにはもう後には引けない。
勇気を出せ、イヴ・ランヌ。
「今日はそのベルナール様との初めての夜なので......もう少し一緒にいたいです」
「イヴ......」
ベルナール様の声が困っているように聞こえた。顔を上げて表情をうかがうと眉を下げていることがわかった。
どうしよう、失敗しちゃった。
これは契約結婚で、互いを思い合っての結婚ではないこと。僕だけが一方的に恋心を抱いていることを失念していた。
ベルナール様と結婚式ができて浮かれていたのだ。
これは白い結婚だ。......そのはずなのに思い上がってしまっていた。
「すみません、ベルナール様。ベルナール様の言うとおり僕、疲れているのかもしれません。おやすみなさい、いい夜を」
「ああ、おやすみ。いい夜を」
ベルナール様は僕の頭をそっと撫でて部屋へ戻っていった。見送った後ベッドの中に潜り込む。
急にお誘いなんてしてはしたないと思われたかな。そもそもベルナール様と部屋がわかれている時点で察するべきだったんだ。
ベルナール様は僕に対してなんの感情も抱いていない。でもとても良い方だから僕に優しくしてくれるんだ。
思い上がってはいけない。これは契約結婚。
もしかしたら将来ベルナール様に本当に愛おしいと思う人が現れて契約を破棄したいと思う日が来るかもしれない。僕はその時が来たら潔く了承することができるだろうか。
いや、できるできないの問題じゃない。そうしなくちゃいけないんだ。
これからはできるだけベルナール様と関わらないようにしよう。この恋心がいつか暴走してしまわないように。
......
ベルナール様との結婚式の日から僕は彼を避け続ける日々を送っている。幸いにもベルナール様は忙しい方なのでそれなりに上手くかわせていると思う。
そしてベルナール様の配慮により結婚後も王宮で文官として働けるためより避けることが可能だった。
普段は王宮で夜遅くまで仕事をし、休みの日には部屋に引きこもる。引きこもると言っても遅くまで仕事をしていた疲れを寝て癒しているだけなので特に大変ではなかった。
ある日の休日、昼前に目を覚まして使用人とともに支度を整えていると執事のディーさんがやってきた。
「失礼いたします、イヴ様」
「大丈夫です、ディーさん。何か緊急の御用ですか?」
「そうではないのですが、最近のイヴ様はお疲れのご様子なので、暖かい日の光を浴びてリラックスされるのがよろしいのではないかと。幸いにも今は春、庭園には花々が咲いております。一度お散歩されてみるのはいかがですか」
窓の外を見てみると確かに花がたくさん咲いていた。風に揺られている姿は綺麗だと思った。
「そうですね。最近は忙しかったので気分転換に外に出てみます」
「かしこまりました」
思い返せば仕事以外で外に出るのは久しぶりだった。自分がそう行動していたから、あたり前なのだが。
庭園にはのんびりとした空気が流れている。ゆっくりと足を動かしながら花を眺めたのはいつぶりだろう。
散策をしていると一つの足音が近づいてきた。
「イヴ、少しいいかな」
「ベルナール様......」
ベルナール様が僕の方へ歩いてくる。長い黒髪を一つにまとめていて、歩くたびにさらりと揺れる。庭園の雰囲気とピッタリと合っていてまるで絵本の中の王子様みたいだ。
かっこいい。やっぱり好き。
でも近づきすぎちゃいけない。これは契約結婚だから。
「ディーに頼んでイヴに庭園に来てもらったんだ。騙し討ちのようになってすまない。最近仕事を夜遅くまで頑張っていると聞いたよ。仕事熱心なのはいいことだけどもっと自分の時間も大切にしてほしい」
「お気遣い嬉しいです。でも仕事は僕が好きでしていることなので」
本当はベルナール様との接触を避けるためにわざと仕事を詰めているだなんて言えない。
「ごめん、言い方が悪かった。私はただイヴにずっと部屋にいては気が滅入ってしまうだろうから、少し気を抜いて欲しかっただけなんだ」
申し訳なさそうな声色でベルナール様は誤った。
「いいえ! 僕も最近は根を詰めすぎていたのでこれからは気をつけます」
お飾りの妻にも優しくしてくれるベルナール様。かっこよすぎる。
存在自体が眩しすぎて直視できない。
「う~~」
疲れた体にベルナール様の思いやりが染みた。
嬉しい、大好き。気持ちが暴れて叫び出したくなる。
突然顔を両手で覆って唸り始めた僕を見て彼は慌てた。
「大丈夫か、イヴ。体調が悪いのか」
「大丈夫です」
好きな人に心配をかけたくない。パッと顔を上げるとベルナール様と目があった。こうしてしっかりと顔を見るのは結婚式ぶりだ。
僕が急に動いたことで彼は驚いた顔をしていた。
今まで見たことがない新発見の顔だ。王宮に来ていたベルナール様を陰から見ていた時には知らなかった。
「そうか、ならよかった。俺と一緒に散歩に行かないか、綺麗な花が庭園に咲いているんだ」
僕の様子を見て大丈夫だと判断したらしい彼はそう言って手を差し伸べてくれた。
何その仕草、本物の王子様みたい。僕にとっては王子様だけど。
でも差し出された手を僕は拒んだ。
「すみません。僕はこれから用事があるので」
本当はベルナール様の手を取ってしまいたい。でも我慢しなくちゃ。この想いに蓋をしなくては。
この結婚は契約だ。僕がどんなに彼を好きでも僕達が通じ合うことはない。
だから駄目だ。
そうしたら彼は少し残念そうにした。
「わかった。また次の機会があれば誘うよ」
そう言った時の微笑が綺麗で本当に素敵だと僕は思った。
物語の王子様とはベルナール様のような人のことを言うんだと思う。強くて優しい僕の想い人。
そばにいられるだけで十分だ。
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