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本編
15.魔物
しおりを挟むこの世界にもだいぶ馴染んできたと思う今日この頃。マロンとナッツとおしゃべりしながら朝食を食べ、フォンターナのいる泉へ向かい、霊力の特訓をする。日が暮れてきたら、特訓を切り上げて大木の家に帰り、ゆっくり眠る。たまに特訓をお休みして、キツネさんとタヌキさんに出会った、ルビネの広場を見に行ったりする。今日も平和で、動物たちは争わずにルビネを分け合ってる。僕も甘いルビネを少しつまんで、森の中を探索しに出かける。相変わらず、広い森は終わりが見えないけれど、観察しながら飛んでいると、沢山の種類の生き物に出会えてなかなか楽しい。
今日はルビネの広場に行く日。フォンターナとの特訓で取得した気配察知をしながら、フラッと広場に来てルビネをつまむ。食べながらのんびり日向ぼっこをしていたが、気配察知に異様な気配が引っかかって、羽をピンッと広げた。
「⋯⋯なんだ、これ。なんか、気持ち悪い気配だ。⋯⋯ん? こっちに来てる!?」
猛スピードで広場に向かって来る、異様な気配を放つモノ。そして、それから逃げるように前に居る2つの気配。異常を察知した僕は、向かって来る気配の方へ飛んで行く。近づくにつれ、ドドドドッというけたたましい足音と、大きな土埃が見える。やがて、異様な気配の正体が見えた。
「⋯⋯! でかい、イノシシ?」
3メートルはあるかという大きさで、目が真っ赤に光り、毛は黒いイノシシだった。鼻息荒く突進してきていて、目の前で走って逃げている2匹の動物を追っている。
「え!? キツネさんとタヌキさん!?」
2匹の姿が見えたと思ったら、それはルビネの広場で出会ったキツネさんとタヌキさんだった。逃げながら、必死に助けを求めて鳴き声を上げていた。
『誰か! 助けてくれ! 誰かいないか!!』
『助けてー!! アタシたち、死んじゃうわ!!』
ふたりの悲痛な声に、僕は居ても立ってもいられなくなり、霊力を使って、蔓の結界をイノシシの目の前に広げた。イノシシはそれに怯み、咄嗟に速度を落としたが、それでは止まれずドカンッ! とぶつかった。それに合わせて、蔓の結界をスルスルと伸ばし、イノシシの体を全て包み込んで、霊力で蔓を強化する。中からドシンドシンと音がするけど、結界が破られる気配はなく、とりあえず、手を下ろしてふぅ~とため息をついた。そうだ、ふたりは大丈夫かな!? と慌てて確認すると、僕の足元にいて、安心した。
『またまた世話になっちまったな! ありがとよ、妖精様!』
『本当にありがとう! もうだめかと思ったわ』
「どういたしまして。ところで、どうして追われていたの?」
『アイツは魔物だからな。理由もなく暴れてるんだ』
『アタシたち、気づいたら追われていたのよ』
魔物。その単語は久々に聞いた。少し前マロンが魔物に傷を負わされて、僕が助けたんだったな。
「そうだ、怪我はない?」
『何ともないぜ!』
『心配してくれてありがと』
「よかった。⋯⋯あ、そういえば、これどうしよう⋯⋯」
未だにドシンドシンと揺れる蔓の結界。魔物は諦めていないのか、ずっと結界を破ろうとしている。倒した方がいいよね⋯⋯。でも、今まで自分の手で動物の命を奪ったことなんか一度もないから、抵抗がかなりある。
「⋯⋯そういえば、魔物は魔力が原因で凶暴化してたんだったな?」
魔力が動物には毒だから、体に異常をきたして凶暴化している、と教えられた。なら、魔力の代わりに霊力を流し込めば、静まるんじゃないか? 僕なら、生物に干渉することができるから、もしかしたらできるかもしれない。できないからと止めるより、とにかくやってみなきゃ分かんないからね!
蔓の隙間から魔物に霊力を流し、魔力を外に出そうと試みる。すると、何かに抵抗を受けて、霊力の流れが重く感じた。もしかして、これが魔力か? 魔力を押し出すように、込める霊力の量を増やしていく。もっと、もっと、魔力を外に出す。少しでも残らないように。
しばらく流して、ようやく霊力の流れに抵抗を感じなくなった。中から異様な気配もなくなり、動きも止まって落ち着いたようだ。霊力を止め、蔓を少しずつ解いていく。中が見えてくると、そこにいたのは黒いつぶらな瞳をしたウリボウだった。
「か、かわっ! っ! いやいや、今はそんな場合じゃない⋯⋯」
一瞬悶えかけて、すぐに正気を取り戻した。ゆっくりゆっくりウリボウに近づくが、襲われる気配は無く、キュルンとこちらを見つめていた。⋯⋯ただただかわいい。あれがさっきのでかいイノシシだったとは信じられないほどだ。
「よしよし、もう大丈夫だからねー。あーゴワゴワした硬い毛も最高!」
キツネさんとタヌキさんが呆気に取られたようにこっちを見ているのにも気づかす、僕はウリボウの毛を堪能していた。
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