【本編、番外編完結】血の繋がらない叔父にひたすら片思いしていたいのに、婚約者で幼馴染なアイツが放っておいてくれません

１ー２

遼平くんは、父の年の離れた妹（私にとっては叔母）である永美えみちゃんの旦那さんだ。

いや、正確には、旦那さんだ・っ・た・。

あれは私がまだ中学生のころ。
永美ちゃんは、誰もが羨む幸せな花嫁になった後、程なくして交通事故で亡くなってしまったのだ。
最愛の夫、遼平くんを一人遺して。

優しくて、綺麗で、仕事もできる永美ちゃんは、私にとって憧れの存在であり、姉のような存在でもあった。

それが、あんなことになるなんて。

あまりに突然の出来事に、どれだけ時間が経っても、信じられなくて。
葬儀のときに、ちゃんとお別れしたのに。
変わり果てた永美ちゃんの姿を、この目で確かめて、きちんと見送ったのに。

それでもあれは別人で、また、ひょっこり現れて「ちーちゃん」と微笑みかけてくれるような気がしていた。

遼平くんから、「永美の形見を、ちーちゃんにも持っていて欲しい」と言われ、彼の家を訪れたあの日まで。

どうしても一人で行く勇気が出ず、家の近くでブラブラしていた晴臣を捕まえて、二人の家だった場所へ向かった。
永美ちゃんが亡くなる前、一度だけ訪れたことのあったそのマンションは、以前とはまるで違う空間のように荒れ果てており、家全体の空気が淀んでいた。

そして、私達を出迎えてくれた遼平くんの姿にも同じくらい驚かされた。
永美ちゃんといるときは、清潔感の塊みたいな人だったのに。
髪はボサボサ、髭はボーボー、シャツはヨレヨレ。
ちょっとした不審者レベル。

晴臣を連れてきておいて良かったと、心底思った。

遼平くんは、散らかったダイニングテーブルに無理やりスペースを作ると、そこにインスタントのブラックコーヒーを二つ並べ、晴臣を椅子に座らせた。

「ちーちゃんはこっちにおいで」

今の遼平くんと二人になるのが少し不安で、ちらりと晴臣の方を窺うかがっても、目も合わない。
仕方なく、のろのろと遼平くんの後に続いた。