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一歩足を踏み入れて目を見張った。
永美ちゃんの部屋だけは他の部屋と違って、小綺麗に整頓されていた。
まだ微かに永美ちゃんの匂いもして、この部屋だけ時が止まっているかのようだ。
それでも、「どれにする?」と私に問いかけながら遼平くんが持ってきたジュエリーケースには、薄っすらと埃が積もっていた。
そっと蓋を開けると、西向きの窓から差す夕日を受けて、宝石たちが悲しげにきらめく。
どれもこれも、見覚えがあるのは、きっと全部永美ちゃんのお気に入りで、よく身に着けていたものだから。
中でも一際大きなダイヤモンドリングに目が吸い寄せられた。
永美ちゃんが短い生涯で一番輝いていた瞬間が鮮やかに記憶に蘇る。
「ああ、エンゲージリング、本当は永美に持って行かせようとしたんだけどね。貴金属はダメだって言わちゃって。…これにする?」
私の視線に気づいた遼平くんが、無造作にそのリングを取り出した。
「えっ!?いや、これは絶対ダメでしょう」
「どうして?永美がいなきゃ俺にとってはただの石だよ」
「無理!困ります!!」
「いいから黙って受け取ってくれよ!!」
遼平くんは突然怒声をあげると、私の腕を掴んで乱暴にリングを嵌めようとした。
「やめて!!」
私が叫んだと同時に晴臣が部屋に飛び込んできて、遼平くんに体当たりした。
遼平くんはバランスを失い、デスクに体を強く打ち付けた。
その弾みでジュエリーケースは机上にあった細々としたものと共に落下し、激しい音をたてて床に散らばった。
座り込んだまま動かない遼平くんのガラス玉のような瞳に、その光景が映り込んでいる。
どうしよう。
遼平くんが大切にしていた永美ちゃんの部屋を、めちゃくちゃにしてしまった。
罪悪感で動くことができず、私を庇うように立つ晴臣の背後から声を震わせる。
「ご、ごめんなさい。私が大きな声なんて出したから」
「……いや、いい。これでいいんだ」
「でも…」
「もう…永美は帰ってこないって…頭では分かっているのに、ここで…何も変わらないこの部屋で待ってさえいれば、いつか帰ってくるような気がしてずっと動けなかったから。このままじゃいけないと分かっていても、自分ではどうしようもなくて。何か変われば…思い出の品が一つでも減れば、少しでも前に進めるかもしれないと思ってちーちゃんを呼んだんだ」
ゆっくりと陽が落ちるにつれ、床に散らばったままの宝石たちが輝きを失っていく。
「ごめん、永美。もう待つのは疲れた」
そう呟いて目を閉じた遼平くんの目からも光が消え、代わりに一筋の涙が頬を伝った。
永美ちゃんの部屋だけは他の部屋と違って、小綺麗に整頓されていた。
まだ微かに永美ちゃんの匂いもして、この部屋だけ時が止まっているかのようだ。
それでも、「どれにする?」と私に問いかけながら遼平くんが持ってきたジュエリーケースには、薄っすらと埃が積もっていた。
そっと蓋を開けると、西向きの窓から差す夕日を受けて、宝石たちが悲しげにきらめく。
どれもこれも、見覚えがあるのは、きっと全部永美ちゃんのお気に入りで、よく身に着けていたものだから。
中でも一際大きなダイヤモンドリングに目が吸い寄せられた。
永美ちゃんが短い生涯で一番輝いていた瞬間が鮮やかに記憶に蘇る。
「ああ、エンゲージリング、本当は永美に持って行かせようとしたんだけどね。貴金属はダメだって言わちゃって。…これにする?」
私の視線に気づいた遼平くんが、無造作にそのリングを取り出した。
「えっ!?いや、これは絶対ダメでしょう」
「どうして?永美がいなきゃ俺にとってはただの石だよ」
「無理!困ります!!」
「いいから黙って受け取ってくれよ!!」
遼平くんは突然怒声をあげると、私の腕を掴んで乱暴にリングを嵌めようとした。
「やめて!!」
私が叫んだと同時に晴臣が部屋に飛び込んできて、遼平くんに体当たりした。
遼平くんはバランスを失い、デスクに体を強く打ち付けた。
その弾みでジュエリーケースは机上にあった細々としたものと共に落下し、激しい音をたてて床に散らばった。
座り込んだまま動かない遼平くんのガラス玉のような瞳に、その光景が映り込んでいる。
どうしよう。
遼平くんが大切にしていた永美ちゃんの部屋を、めちゃくちゃにしてしまった。
罪悪感で動くことができず、私を庇うように立つ晴臣の背後から声を震わせる。
「ご、ごめんなさい。私が大きな声なんて出したから」
「……いや、いい。これでいいんだ」
「でも…」
「もう…永美は帰ってこないって…頭では分かっているのに、ここで…何も変わらないこの部屋で待ってさえいれば、いつか帰ってくるような気がしてずっと動けなかったから。このままじゃいけないと分かっていても、自分ではどうしようもなくて。何か変われば…思い出の品が一つでも減れば、少しでも前に進めるかもしれないと思ってちーちゃんを呼んだんだ」
ゆっくりと陽が落ちるにつれ、床に散らばったままの宝石たちが輝きを失っていく。
「ごめん、永美。もう待つのは疲れた」
そう呟いて目を閉じた遼平くんの目からも光が消え、代わりに一筋の涙が頬を伝った。
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