【本編、番外編完結】血の繋がらない叔父にひたすら片思いしていたいのに、婚約者で幼馴染なアイツが放っておいてくれません

３ー5

「本当は、千歳の初恋が終わって、俺のこと見るようになるまで待ってから言うつもりだった。だから、『今』の千歳の答えは要らない」

有無を言わせない熱い眼差しに圧倒され、これ以上何も言えなくなってしまった。
だから、もう私の口を塞ぐ必要はないのに、晴臣が三度みたび唇を重ねようと顔の角度を変えてきた。

「ちょっ！いちいちキスしないで！！」

胸のあたりを押し返すと、掌にまた晴臣の鼓動が伝わって来る。
慌てて手を離し、庇うように口元を抑えると、晴臣は不服そうに眉をひそめた。

「２０年近く我慢してきたんだ。ちょっとくらいいいだろ」

「にっ！？」

２０年も全く気付かれることなく、私相手の側に―。
これぞ私が理想とする恋の形。
その極意を聞きたいくらいだけど、絶対教えてくれないだろうな。

つい遼平くんのことを考えていると、衝撃的な言葉で晴臣の方に意識を戻された。

「それと、金曜の夜のはファーストキスじゃない」

「えっ？」

「千歳のファーストキスは、俺の４歳の誕生日のとき。もちろん相手は俺」

「そ、そんなの覚えてないし。ノーカウントでしょ！」

「千歳は覚えてなくても、俺は覚えてる」

本当に記憶があるらしく、当時のことを思い出しているのか、いつも仏頂面の晴臣の頬が心なしか緩んでいる。

「…ってことで、千歳の『初めて』は全部俺がもらうから」

「ぜ…全部？」

まさかと思いつつ、顔をひきつらせながら尋ねると、晴臣はまるで昔からの決定事項のように言い切った。

「そう、全部。ファーストキスはとっくに貰ってるから、後は初めての告白と、キスより先」

「先ぃっ！？」

ということはー

「当たり前だろ。心も体も千歳の全部が欲しい。千歳がいいなら今すぐにでも」

いくら処女でもとっくに２０歳は超えている。
晴臣が言っていることの意味が分からないわけではない。
まさかあんな仏頂面の下で、そんな事を考えていたなんて。

「な、何か晴臣キャラ変わってない！？」

「何が？俺が欲しいものはどんなことをしてでも手に入れる性格ってこと、千歳が一番よく知ってるだろ」

どんなことをしてでも…？

そのフレーズに記憶がフラッシュバックする。

そう言えば。
あの時だ。
誕生日ケーキのイチゴを私が食べた時。
晴臣は私の口の中のイチゴを直接奪い返したんだ。
それも、晴臣の口で。

あまりの衝撃に、二度と晴臣の好物は横取りしないと固い誓いを立てて安心し、なぜそう思ったのかは今の今まで忘れてしまっていた。

あれが、私のファーストキス。

脳裏に最初のキスから最新のキスまでの記憶が蘇り、恐怖ではない何かでゾクリと背中が震えた。

遼平くんはあまりにも遠すぎて、そんな関係になることを想像したことすらないのに、ほんの一瞬、晴臣とそ・う・な・る・自分を想像してしまったのだ。