【本編、番外編完結】血の繋がらない叔父にひたすら片思いしていたいのに、婚約者で幼馴染なアイツが放っておいてくれません

恩田璃星

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全速力で走ってきたのか、真由先輩は私の体に縋り付き、息も切れ切れに懇願した。

「お願い…!椎名くんに、言わないで!!言ったら、光越に、契約を切られちゃうんでしょう!?」

その可能性は、ある。
でもー

さっき告解室で懺悔して一時的に気が晴れたみたいだけど、遼平くんは根が生真面目な人だ。
かと言って、自分から洗いざらい打ち明けられるほど強くはない。
私が黙ったままでいれば、きっと近いうちに罪の意識に耐えられなくなる。
そうなれば、いくら光越との契約があっても、eternoの存続は厳しい。

それに、光越側も既に締結した契約をそう簡単には反故にしないだろう。
契約を切られるというより、次の契約更新の可能性がゼロになると言った方が正しいかもしれない。

だから、遼平くんに早い段階で全てを清算させ、彼が今の契約が終わるまでを猶予期間と捉え、経営体制の立て直しを図ることができれば、ダメージを最小限に抑えられるはず。

何よりも、私を傷つけまいと光城にこき使われている晴臣を一秒でも早く解放しなければ。

「さっきも言いましたけど…それはできません。ごめんなさい」

深々と頭を下げ、私の両腕を掴む真由先輩の手をそっと引き剥がし、再び駅を目指し歩き始めた。

eternoには真由先輩がいる。
松本さんに、渡さん、他にも沢山。
遼平くんが永美ちゃんと作ったものを、一緒に守ろうとしてくれている人がいる。

だからきっと、大丈夫。

振り返らずに、そんなことを考えていたら。

「お願いだから二度もあの人から永美さんを奪わないで!!」

突如背後から追い縋ってきた真由先輩に、私は車道に向かって体のバランスを崩した。

「蓮見ちゃん!!」

真由先輩の悲鳴を聞いたのと同時。

こちらに向かって走ってくる白い車を目にしたのを最後に、舞台の幕が降りたように視界が暗転した。

*********

「…せ…千歳…っ」

晴臣が呼んでる。
耳は聞こえているのに、体が動かない。
目も開かない。

感覚があるのは、左手だけ。
晴臣がきつく握っているのか、そこだけ妙に温かい。

「冷たい態度とってごめん…自分で決めたことだったけど、苦しくて。俺と一緒に住むのも、結婚も、全部、手塚アイツの為と思ったら…どうしようもなく腹が立って、悔しくて…惨めで…。謝るから…頼むから早く目を開けてくれ…」

ああ、なんだ。
光城にこき使われているだけじゃなくて、本当に私のこと避けてたのか…。

ぼんやりとそんなことを考えている間にも、触れ合っている場所から晴臣の気持ちが流れ込んできて、徐々に体の強張りが解れていく。

ここに居るのが晴臣だと分かりきっていても、ようやく目が開き、その姿が見えると、自分でも驚くほどほっとした。

「…晴臣」

「…千歳!意識戻ったのか!?俺のこと分かるか?」

頷こうとする私を、晴臣が慌てて止める。

「動くな!お前、車に撥ねられて頭蓋骨骨折してるんだ!!すぐ担当医連れてくるから、大人しく待ってろ!!」

ナースコール押せばいいのに…という突っ込みを受け入れる間もなく、晴臣は病室を出ていってしまった。
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