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診断結果は頭蓋骨線状骨折と、上腕骨近位端骨折。
頭の方は大げさに聞こえるけれど、脳の損傷はなく、自然に治癒するのを待つだけ。
肩の骨折も手術の必要はなく、保存療法でいくことに。
運転者が高齢で、あまりスピードを出していなかったのが幸いだったらしい。
6時間くらい意識を失っていたのは、ちょっと重めの脳震とうだったようで、大事を取って2日間入院して様子を見ることになった。
「…ってことで、ほんと、石頭で良かったー」
「うるさい。今話かけんな」
「ちょっ…私の意識が戻る前『冷たい態度とってごめん』って半泣きで謝ってなかった?」
「は?何だそれ?夢でも見てたんじゃねーのか?いいから口開けろ、ほら」
ズイッと差し出されたのは爪楊枝の刺さったりんご…と思しき物体。
「思しき」という表現からも分かるように、パッと見ではりんごとは分からないほど歪な形に切られている。
「晴臣って何でもできるのに、手先だけは異常に不器用だよね」
「うるさい。いいからさっさと食え」
口に入れると、形はともかく、甘酸っぱい味が口内に広がった。
なんだかんだ言いながら、晴臣は目が覚めた瞬間、いや、病院に駆けつけてくれたときから片時も私の側を離れずにいてくれている。
私に対する態度も昔に戻ったようで、すごく居心地がいい。
まだ頭と肩は痛むけれど、事故のゴタゴタが少し落ち着いたところで晴臣に言わなければいけないことがあったことを思い出した。
「あのね、晴臣」
切り出したところで、病室のドアがノックされた。
二人してそちらの方を向き、磨りガラス越しに映るシルエットを確認した途端、病室に緊張が走る。
「手塚です。…入ってもいいかな?」
嘘?
何で遼平くんがここに!?
何しに来たの!!?
ちょうど今、晴臣に全てを知ってしまったことを話そうとしていたところだったのに。
タイミングが悪すぎる。
もしかして、真由先輩から聞いて、私が晴臣に話すのを阻止するために来たとか?
どうしよう!?
どうしたらいいの!!?
一人パニックに陥っている私に気づいていないはずのない晴臣が「どーぞ」と返事をしてしまった。
いつもなら塩を撒いて追い返しかねないのに。
今日に限って、何でー!?
「失礼します」
丁寧を通り越して、他人行儀な挨拶をして入室してきた遼平くんの姿を一目見た私は、絶句した。
左の頬に、車に轢かれた私より重症なんじゃないかと思うほど大きな青あざができていて、本当に知らない人のようだ。
そして、私が何があったのか尋ねるより先に、遼平くんは深く頭を下げた。
「どう謝っても謝りきれないけど…本当にごめん…!」
状況が全く掴めず、オロオロするばかりの私に、晴臣が口を挟んだ。
「その顔やったの、俺」
「ちょ…何でそんなこと!?」
「千歳が事故に遭ったって連絡受けて病院に来たら、この男が居たから…千歳が自分で車に飛び込んだのかと思って…気づいてたらぶん殴ってた」
「そんなことするわけ…!」
「でも、あり得ない話でもないよな。千歳、全部聞いちゃったんだろう?」
頭の方は大げさに聞こえるけれど、脳の損傷はなく、自然に治癒するのを待つだけ。
肩の骨折も手術の必要はなく、保存療法でいくことに。
運転者が高齢で、あまりスピードを出していなかったのが幸いだったらしい。
6時間くらい意識を失っていたのは、ちょっと重めの脳震とうだったようで、大事を取って2日間入院して様子を見ることになった。
「…ってことで、ほんと、石頭で良かったー」
「うるさい。今話かけんな」
「ちょっ…私の意識が戻る前『冷たい態度とってごめん』って半泣きで謝ってなかった?」
「は?何だそれ?夢でも見てたんじゃねーのか?いいから口開けろ、ほら」
ズイッと差し出されたのは爪楊枝の刺さったりんご…と思しき物体。
「思しき」という表現からも分かるように、パッと見ではりんごとは分からないほど歪な形に切られている。
「晴臣って何でもできるのに、手先だけは異常に不器用だよね」
「うるさい。いいからさっさと食え」
口に入れると、形はともかく、甘酸っぱい味が口内に広がった。
なんだかんだ言いながら、晴臣は目が覚めた瞬間、いや、病院に駆けつけてくれたときから片時も私の側を離れずにいてくれている。
私に対する態度も昔に戻ったようで、すごく居心地がいい。
まだ頭と肩は痛むけれど、事故のゴタゴタが少し落ち着いたところで晴臣に言わなければいけないことがあったことを思い出した。
「あのね、晴臣」
切り出したところで、病室のドアがノックされた。
二人してそちらの方を向き、磨りガラス越しに映るシルエットを確認した途端、病室に緊張が走る。
「手塚です。…入ってもいいかな?」
嘘?
何で遼平くんがここに!?
何しに来たの!!?
ちょうど今、晴臣に全てを知ってしまったことを話そうとしていたところだったのに。
タイミングが悪すぎる。
もしかして、真由先輩から聞いて、私が晴臣に話すのを阻止するために来たとか?
どうしよう!?
どうしたらいいの!!?
一人パニックに陥っている私に気づいていないはずのない晴臣が「どーぞ」と返事をしてしまった。
いつもなら塩を撒いて追い返しかねないのに。
今日に限って、何でー!?
「失礼します」
丁寧を通り越して、他人行儀な挨拶をして入室してきた遼平くんの姿を一目見た私は、絶句した。
左の頬に、車に轢かれた私より重症なんじゃないかと思うほど大きな青あざができていて、本当に知らない人のようだ。
そして、私が何があったのか尋ねるより先に、遼平くんは深く頭を下げた。
「どう謝っても謝りきれないけど…本当にごめん…!」
状況が全く掴めず、オロオロするばかりの私に、晴臣が口を挟んだ。
「その顔やったの、俺」
「ちょ…何でそんなこと!?」
「千歳が事故に遭ったって連絡受けて病院に来たら、この男が居たから…千歳が自分で車に飛び込んだのかと思って…気づいてたらぶん殴ってた」
「そんなことするわけ…!」
「でも、あり得ない話でもないよな。千歳、全部聞いちゃったんだろう?」
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※他サイトからの転載(2018/11に書き上げたものです)
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