こじらせ委員長と省エネ男子

みずしま

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1.こじらせていることは自覚してます

1-5

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 学校から自宅に戻った俺は、スクールバックをソファに放り投げた。

 ……ダルい。「目覚まし係」とか、めちゃくちゃ気が重い。

 しかし、そこは良い子として定評のある俺。にっこりと笑顔を作って、隣室に向かった。一応、玖堂に事の説明をしておこうと思ったのだ。

 インターフォンを鳴らすと、しばらくの間があってから玄関の扉が開いた。

「……なに」

 相変わらずテンションの低い玖堂が、部屋の中から顔を出す。

「あ、えっと。担任から聞いてる……?」

 俺の問いに、玖堂は「何の話?」と首をかしげた。

「さっき、放課後にさ。青山から呼び出されたんだけど」

 俺が話し始めると、玖堂がちょっと大きく扉を開けた。そして……。

「部屋、はいる?」

 話が長引きそうだと判断したのだろうか。玖堂は、俺を部屋に招き入れた。

 ちらりと見る限り、間取りは俺の部屋とまったく同じだった。所在なさげに立っていると、ソファに座るよう玖堂が促してくれる。

 俺の隣に玖堂が腰を下ろし、ゆっくりと足を組む。すらりとした足の長さを見て、軽くイラッとした。シンプルに嫉妬だ。

 スタイルが鬼だな……! と口惜しい気持ちになる。

 改めて、今日の放課後に青山から呼び出しをくらったことを説明した。そして、「目覚まし係」とやらに任命されたことを告げる。

 玖堂は、俺の説明を無言で聞いていた。そして、最後に一言。

「……宮下も、たいへんだな」

 まるで他人事のような物言いに、むかっとした。

 張本人のくせに、なーーにが「たいへんだな」だよ! 全部テメーのせいだろうがよ。ぎりぎりと奥歯を噛み締めながら、俺は作り笑顔を保つ。

「そもそも、この話。玖堂は担任から聞いてたのか?」

 もしかして、玖堂が「ちょうど隣に便利屋の委員長が住んでるので、目覚まし係として使ってください」とか言ってないよな? そんな余計な進言してないよな?

 俺が確認すると、玖堂はゆっくりと首を横に振った。

「きいてないけど」

 どうやら、玖堂は何も知らなかったようだ。

 勝手に「目覚まし係」の話を進めるのは、いかがなものかと思った。俺だったら、自分の与り知らぬところでそんな計画が進んでいたら、すごくイヤだ。

 というか、この説明すら俺任せなんかい……!

 お調子者の担任の顔を思い出して、俺はさらにイライラが募った。

「あのさ、玖堂は朝が苦手だって聞いたんだけど」

「うん」

「なんで、起きれないんだ? もしかして、何かの病気とか……?」

 そういう疾患があることを、いつだったか聞いた覚えがある。

 十分な血流が身体や脳に届かないことで、立ちくらみやめまいといった身体症状が現れるらしいのだ。それで、朝起きることができないのでは……?

 俺は、慎重にその辺りを確認しようと思ったのだが。

「べつに。ねるのがおそいから」

 玖堂が、のんびりした口調で答える。

 寝るのが遅いから、朝になっても起きられない……? つまり、それってただの夜更かしじゃん。

「あ、そう」

 どうやら気遣いは無用だったらしい。

 省エネモードゆえ、玖堂の口調はおっとりだ。全てがひらがなに聞こえる。俺は、なんだか気が抜けた。

「……じゃあ、とりあえず明日から起こしに来るから」

 ちらりと玖堂のほうを見る。

 玖堂は、抑揚のない声で「わかった」と言った。

「そういえばさ……」

「なに」

「今日は、誰も来てないんだな」

 玖堂の部屋は、しんと静まり返っている。

「うん」

「まさかとは思うけど、飲酒とかしてないよな?」

 クラス委員として、そこは確認しておかなければ。虚偽の申告は許さない。

 俺は、ずいっと玖堂に顔を近づけた。これでも圧をかけているつもりだ。モブ顔なので、効果はないかもしれないが。

「俺は飲んでない」

 気だるげな雰囲気の玖堂が、身の潔白を訴える。

 俺はじいっと彼の目を見た。視線が合う。至近距離だ。ブラウンの瞳がきれいだと思った。あ、ダメだ。負けそう。美しさの圧がすごい。

「まぁ、信じるよ」

 俺はぶっきらぼうに言って、玖堂から視線を外した。

 玖堂の部屋に来ているのは、大学生の男女らしい。飲食は持ち寄りか宅配。玖堂は部屋を提供するかわりに、タダで飲み食いできるようだ。

「生活費は、両親からもらってるけど……」

「タダで飲み食いできる分、節約になるから?」

「そう」

「ふうん」

 まさかの節約。羽目を外して遊びたいだけかと思っていたが、どうやら違うようだ。

「でもさ、それで夜に寝るのが遅くなるのはダメじゃん。玖堂は高校生なんだから、一応は真面目に学校に通わないと」

 委員長キャラとして、俺はビシッと正論を叩きつけた。

「そうだな」

 あ、納得してくれた?

「でも、夜遅くなるのは遊んでるからじゃなくて。バイトしてるからだ」

「え、バイト?」

 そりゃ、うちの学校はアルバイトOKだけども。

「そう。特技をいかしてる」

 特技ってなんだ……? 玖堂の特技……。やたら外見が麗しいという特徴しか、すぐには思い浮かばない。

「モデルとか?」

「いや、そんなわけない」

 玖堂が苦笑いする。ちょっと口元を緩める程度だけど。笑うと、ちょっと可愛いかも……。いや、そうじゃなくて。

 夜のバイト。美しい容姿。ふいに、いかがわしいバイトで金銭を得ているのではないか? という疑念が湧いた。

「ど、どんなバイトだ……?」

 俺は、ごくりと唾を飲みながら問う。

「花屋」

 玖堂は、あっさりと答えた。花屋。めちゃくちゃ健全だ。

 いや、もしかして、花を売るとかそういう……? 隠語的なやつだろうか。

「いかがわしい花屋じゃないだろうな?」

 俺は玖堂に詰め寄った。高校生が、いかがわしい商売で稼いではいけない。

「……この世に、いかがわしい花屋なんてあるのか?」

 玖堂が不思議そうな顔で俺を見る。綺麗なブラウンの瞳に、曇りは一切ない。

「いや、うん。何でもない」

 どうやら、玖堂はごく普通の花屋で勤務しているようだ。

「割と大きいフラワーショップで、系列店がいくつかある。駅前にあるから、立地も良い店だ」

「へえ」

「くる?」

「どこに。誰が」

「宮下が、俺の働いてるフラワーショップに」

 足を組み替えながら、玖堂が俺を誘う。

 俺は即刻、断った。

「花屋に用はない」

 誠に残念ではあるが、俺には花を贈る相手がいないのだ。
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