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1.こじらせていることは自覚してます
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学校から自宅に戻った俺は、スクールバックをソファに放り投げた。
……ダルい。「目覚まし係」とか、めちゃくちゃ気が重い。
しかし、そこは良い子として定評のある俺。にっこりと笑顔を作って、隣室に向かった。一応、玖堂に事の説明をしておこうと思ったのだ。
インターフォンを鳴らすと、しばらくの間があってから玄関の扉が開いた。
「……なに」
相変わらずテンションの低い玖堂が、部屋の中から顔を出す。
「あ、えっと。担任から聞いてる……?」
俺の問いに、玖堂は「何の話?」と首をかしげた。
「さっき、放課後にさ。青山から呼び出されたんだけど」
俺が話し始めると、玖堂がちょっと大きく扉を開けた。そして……。
「部屋、はいる?」
話が長引きそうだと判断したのだろうか。玖堂は、俺を部屋に招き入れた。
ちらりと見る限り、間取りは俺の部屋とまったく同じだった。所在なさげに立っていると、ソファに座るよう玖堂が促してくれる。
俺の隣に玖堂が腰を下ろし、ゆっくりと足を組む。すらりとした足の長さを見て、軽くイラッとした。シンプルに嫉妬だ。
スタイルが鬼だな……! と口惜しい気持ちになる。
改めて、今日の放課後に青山から呼び出しをくらったことを説明した。そして、「目覚まし係」とやらに任命されたことを告げる。
玖堂は、俺の説明を無言で聞いていた。そして、最後に一言。
「……宮下も、たいへんだな」
まるで他人事のような物言いに、むかっとした。
張本人のくせに、なーーにが「たいへんだな」だよ! 全部テメーのせいだろうがよ。ぎりぎりと奥歯を噛み締めながら、俺は作り笑顔を保つ。
「そもそも、この話。玖堂は担任から聞いてたのか?」
もしかして、玖堂が「ちょうど隣に便利屋の委員長が住んでるので、目覚まし係として使ってください」とか言ってないよな? そんな余計な進言してないよな?
俺が確認すると、玖堂はゆっくりと首を横に振った。
「きいてないけど」
どうやら、玖堂は何も知らなかったようだ。
勝手に「目覚まし係」の話を進めるのは、いかがなものかと思った。俺だったら、自分の与り知らぬところでそんな計画が進んでいたら、すごくイヤだ。
というか、この説明すら俺任せなんかい……!
お調子者の担任の顔を思い出して、俺はさらにイライラが募った。
「あのさ、玖堂は朝が苦手だって聞いたんだけど」
「うん」
「なんで、起きれないんだ? もしかして、何かの病気とか……?」
そういう疾患があることを、いつだったか聞いた覚えがある。
十分な血流が身体や脳に届かないことで、立ちくらみやめまいといった身体症状が現れるらしいのだ。それで、朝起きることができないのでは……?
俺は、慎重にその辺りを確認しようと思ったのだが。
「べつに。ねるのがおそいから」
玖堂が、のんびりした口調で答える。
寝るのが遅いから、朝になっても起きられない……? つまり、それってただの夜更かしじゃん。
「あ、そう」
どうやら気遣いは無用だったらしい。
省エネモードゆえ、玖堂の口調はおっとりだ。全てがひらがなに聞こえる。俺は、なんだか気が抜けた。
「……じゃあ、とりあえず明日から起こしに来るから」
ちらりと玖堂のほうを見る。
玖堂は、抑揚のない声で「わかった」と言った。
「そういえばさ……」
「なに」
「今日は、誰も来てないんだな」
玖堂の部屋は、しんと静まり返っている。
「うん」
「まさかとは思うけど、飲酒とかしてないよな?」
クラス委員として、そこは確認しておかなければ。虚偽の申告は許さない。
俺は、ずいっと玖堂に顔を近づけた。これでも圧をかけているつもりだ。モブ顔なので、効果はないかもしれないが。
「俺は飲んでない」
気だるげな雰囲気の玖堂が、身の潔白を訴える。
俺はじいっと彼の目を見た。視線が合う。至近距離だ。ブラウンの瞳がきれいだと思った。あ、ダメだ。負けそう。美しさの圧がすごい。
「まぁ、信じるよ」
俺はぶっきらぼうに言って、玖堂から視線を外した。
玖堂の部屋に来ているのは、大学生の男女らしい。飲食は持ち寄りか宅配。玖堂は部屋を提供するかわりに、タダで飲み食いできるようだ。
「生活費は、両親からもらってるけど……」
「タダで飲み食いできる分、節約になるから?」
「そう」
「ふうん」
まさかの節約。羽目を外して遊びたいだけかと思っていたが、どうやら違うようだ。
「でもさ、それで夜に寝るのが遅くなるのはダメじゃん。玖堂は高校生なんだから、一応は真面目に学校に通わないと」
委員長キャラとして、俺はビシッと正論を叩きつけた。
「そうだな」
あ、納得してくれた?
「でも、夜遅くなるのは遊んでるからじゃなくて。バイトしてるからだ」
「え、バイト?」
そりゃ、うちの学校はアルバイトOKだけども。
「そう。特技をいかしてる」
特技ってなんだ……? 玖堂の特技……。やたら外見が麗しいという特徴しか、すぐには思い浮かばない。
「モデルとか?」
「いや、そんなわけない」
玖堂が苦笑いする。ちょっと口元を緩める程度だけど。笑うと、ちょっと可愛いかも……。いや、そうじゃなくて。
夜のバイト。美しい容姿。ふいに、いかがわしいバイトで金銭を得ているのではないか? という疑念が湧いた。
「ど、どんなバイトだ……?」
俺は、ごくりと唾を飲みながら問う。
「花屋」
玖堂は、あっさりと答えた。花屋。めちゃくちゃ健全だ。
いや、もしかして、花を売るとかそういう……? 隠語的なやつだろうか。
「いかがわしい花屋じゃないだろうな?」
俺は玖堂に詰め寄った。高校生が、いかがわしい商売で稼いではいけない。
「……この世に、いかがわしい花屋なんてあるのか?」
玖堂が不思議そうな顔で俺を見る。綺麗なブラウンの瞳に、曇りは一切ない。
「いや、うん。何でもない」
どうやら、玖堂はごく普通の花屋で勤務しているようだ。
「割と大きいフラワーショップで、系列店がいくつかある。駅前にあるから、立地も良い店だ」
「へえ」
「くる?」
「どこに。誰が」
「宮下が、俺の働いてるフラワーショップに」
足を組み替えながら、玖堂が俺を誘う。
俺は即刻、断った。
「花屋に用はない」
誠に残念ではあるが、俺には花を贈る相手がいないのだ。
……ダルい。「目覚まし係」とか、めちゃくちゃ気が重い。
しかし、そこは良い子として定評のある俺。にっこりと笑顔を作って、隣室に向かった。一応、玖堂に事の説明をしておこうと思ったのだ。
インターフォンを鳴らすと、しばらくの間があってから玄関の扉が開いた。
「……なに」
相変わらずテンションの低い玖堂が、部屋の中から顔を出す。
「あ、えっと。担任から聞いてる……?」
俺の問いに、玖堂は「何の話?」と首をかしげた。
「さっき、放課後にさ。青山から呼び出されたんだけど」
俺が話し始めると、玖堂がちょっと大きく扉を開けた。そして……。
「部屋、はいる?」
話が長引きそうだと判断したのだろうか。玖堂は、俺を部屋に招き入れた。
ちらりと見る限り、間取りは俺の部屋とまったく同じだった。所在なさげに立っていると、ソファに座るよう玖堂が促してくれる。
俺の隣に玖堂が腰を下ろし、ゆっくりと足を組む。すらりとした足の長さを見て、軽くイラッとした。シンプルに嫉妬だ。
スタイルが鬼だな……! と口惜しい気持ちになる。
改めて、今日の放課後に青山から呼び出しをくらったことを説明した。そして、「目覚まし係」とやらに任命されたことを告げる。
玖堂は、俺の説明を無言で聞いていた。そして、最後に一言。
「……宮下も、たいへんだな」
まるで他人事のような物言いに、むかっとした。
張本人のくせに、なーーにが「たいへんだな」だよ! 全部テメーのせいだろうがよ。ぎりぎりと奥歯を噛み締めながら、俺は作り笑顔を保つ。
「そもそも、この話。玖堂は担任から聞いてたのか?」
もしかして、玖堂が「ちょうど隣に便利屋の委員長が住んでるので、目覚まし係として使ってください」とか言ってないよな? そんな余計な進言してないよな?
俺が確認すると、玖堂はゆっくりと首を横に振った。
「きいてないけど」
どうやら、玖堂は何も知らなかったようだ。
勝手に「目覚まし係」の話を進めるのは、いかがなものかと思った。俺だったら、自分の与り知らぬところでそんな計画が進んでいたら、すごくイヤだ。
というか、この説明すら俺任せなんかい……!
お調子者の担任の顔を思い出して、俺はさらにイライラが募った。
「あのさ、玖堂は朝が苦手だって聞いたんだけど」
「うん」
「なんで、起きれないんだ? もしかして、何かの病気とか……?」
そういう疾患があることを、いつだったか聞いた覚えがある。
十分な血流が身体や脳に届かないことで、立ちくらみやめまいといった身体症状が現れるらしいのだ。それで、朝起きることができないのでは……?
俺は、慎重にその辺りを確認しようと思ったのだが。
「べつに。ねるのがおそいから」
玖堂が、のんびりした口調で答える。
寝るのが遅いから、朝になっても起きられない……? つまり、それってただの夜更かしじゃん。
「あ、そう」
どうやら気遣いは無用だったらしい。
省エネモードゆえ、玖堂の口調はおっとりだ。全てがひらがなに聞こえる。俺は、なんだか気が抜けた。
「……じゃあ、とりあえず明日から起こしに来るから」
ちらりと玖堂のほうを見る。
玖堂は、抑揚のない声で「わかった」と言った。
「そういえばさ……」
「なに」
「今日は、誰も来てないんだな」
玖堂の部屋は、しんと静まり返っている。
「うん」
「まさかとは思うけど、飲酒とかしてないよな?」
クラス委員として、そこは確認しておかなければ。虚偽の申告は許さない。
俺は、ずいっと玖堂に顔を近づけた。これでも圧をかけているつもりだ。モブ顔なので、効果はないかもしれないが。
「俺は飲んでない」
気だるげな雰囲気の玖堂が、身の潔白を訴える。
俺はじいっと彼の目を見た。視線が合う。至近距離だ。ブラウンの瞳がきれいだと思った。あ、ダメだ。負けそう。美しさの圧がすごい。
「まぁ、信じるよ」
俺はぶっきらぼうに言って、玖堂から視線を外した。
玖堂の部屋に来ているのは、大学生の男女らしい。飲食は持ち寄りか宅配。玖堂は部屋を提供するかわりに、タダで飲み食いできるようだ。
「生活費は、両親からもらってるけど……」
「タダで飲み食いできる分、節約になるから?」
「そう」
「ふうん」
まさかの節約。羽目を外して遊びたいだけかと思っていたが、どうやら違うようだ。
「でもさ、それで夜に寝るのが遅くなるのはダメじゃん。玖堂は高校生なんだから、一応は真面目に学校に通わないと」
委員長キャラとして、俺はビシッと正論を叩きつけた。
「そうだな」
あ、納得してくれた?
「でも、夜遅くなるのは遊んでるからじゃなくて。バイトしてるからだ」
「え、バイト?」
そりゃ、うちの学校はアルバイトOKだけども。
「そう。特技をいかしてる」
特技ってなんだ……? 玖堂の特技……。やたら外見が麗しいという特徴しか、すぐには思い浮かばない。
「モデルとか?」
「いや、そんなわけない」
玖堂が苦笑いする。ちょっと口元を緩める程度だけど。笑うと、ちょっと可愛いかも……。いや、そうじゃなくて。
夜のバイト。美しい容姿。ふいに、いかがわしいバイトで金銭を得ているのではないか? という疑念が湧いた。
「ど、どんなバイトだ……?」
俺は、ごくりと唾を飲みながら問う。
「花屋」
玖堂は、あっさりと答えた。花屋。めちゃくちゃ健全だ。
いや、もしかして、花を売るとかそういう……? 隠語的なやつだろうか。
「いかがわしい花屋じゃないだろうな?」
俺は玖堂に詰め寄った。高校生が、いかがわしい商売で稼いではいけない。
「……この世に、いかがわしい花屋なんてあるのか?」
玖堂が不思議そうな顔で俺を見る。綺麗なブラウンの瞳に、曇りは一切ない。
「いや、うん。何でもない」
どうやら、玖堂はごく普通の花屋で勤務しているようだ。
「割と大きいフラワーショップで、系列店がいくつかある。駅前にあるから、立地も良い店だ」
「へえ」
「くる?」
「どこに。誰が」
「宮下が、俺の働いてるフラワーショップに」
足を組み替えながら、玖堂が俺を誘う。
俺は即刻、断った。
「花屋に用はない」
誠に残念ではあるが、俺には花を贈る相手がいないのだ。
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