6 / 45
1.こじらせていることは自覚してます
1-6
しおりを挟む
そう考えると、花屋というのは自分にとってかなり縁遠い場所だ。
「花屋に行ける身分になりたい……」
非モテの悲しいつぶやきが、俺の口から漏れる。
「……彼女は」
玖堂が、遠慮がちに俺に訊く。
「いるわけないだろ」
「……は、母の日」
「それは、先々週に終わっただろ」
「そうだった」
まったく、いい加減な店員だ。
「そういえば、玖堂の特技って何?」
俺の問いに、玖堂はうなずく。
「ちからもち」
「は?」
力持ち。それが玖堂の特技らしい。
「それが、花屋の何の関係があるんだよ」
まったく結びつかない。しかし、花屋は意外にも体力勝負らしい。
大きめの鉢とか、水が入ったバケツ。重いものを持つことが多いようなのだ。
「なるほど」
玖堂が働いている姿は、残念ながら俺には想像できない。省エネモードの彼しか知らないから。
「たとえ、母の日に間に合ってたとしても。やっぱり俺は、花屋に行くことはないかな……」
海外で暮らしている母親の顔を思い浮かべながら、俺はぽつりとつぶやいた。
玖堂が、スッと背筋を伸ばした。足を組むのをやめ、きちんとした姿勢で座り直す。
「あ、もしかして、何か複雑な事情があると思ってる?」
それで、深刻な話が始まるとでも思ったのだろうか。
「なんか、聞く体勢になってもらったところ悪いんだけど……。うちの両親は、お気楽に海外生活を満喫してるよ。海の向こうにいるから、花を買っても意味がないってこと」
父親の海外転勤に、母親も同行していることを説明する。
「一緒だ」
「そう、一緒に行ってる」
「ちがう」
「え?」
「うちの両親も、海外生活中」
なんと、玖堂の家もうちと同じ事情らしい。途端に親近感がわく。
玖堂は一人っ子のようだ。クソ兄貴を持つ俺とは、その部分では少し違っている。
「親が海外にいて、一人暮らしで。それで隣同士に住んでるって、なんかすごい偶然だな……!」
「そうだな」
ちょっとテンションが上がっている俺に対して、玖堂はどこまでもクールだ。表情ひとつ変えない。
玖堂は立ち上がり、テーブルの引き出しを開ける。
ガサガサと中をあさって、やがて銀色に光るものを俺に手渡してきた。
「何、これ」
「鍵」
いや、それは見れば分かるけれども。
「どこの」
「ここの部屋。目覚まし係には必要かとおもって」
いやいや。いくらなんでもあり得ない。合鍵を渡すとか、ちょっと不用心が過ぎませんか?
「俺のこと、信用してるんだ?」
「もちろん」
本当かよ。
「委員長だし」
……なるほど。
「寝込みを襲うかもよ」
ちょっと脅かすつもりで、俺は玖堂を見据えた。
「問題ない」
玖堂は怯むことなく、平然と言った。
「え、何で?」
もしかして、俺ってそんなに弱そう?
「やり返せる」
あ、やっぱり。弱いと思われてるのか。まぁ、確かに体格差あるもんな。
やり返されている映像が浮かんで、俺は「うわ」と思った。玖堂に押し倒されている自分。玖堂に見下ろされている風景。
今、俺が座っているソファからベッドの一部が見えている。その分、ちょっと生々しかった。
……いや、なんという想像をしているのだ。
自分に呆れながら、俺は立ち上がった。
「じゃあ、また明日。朝になったら迎えに来るから」
「うん」
右手に握った鍵を握りしめる。
玖堂は、俺を部屋の外まで見送ってくれた。表情は「無」に近いが、手を振っている。かなり動作はゆっくりだけれども。
ひら……、ひら……、という感じで、いかにも玖堂らしい手の振り方だった。省エネモードだな、と思いながら、俺も手を振り返した。
「花屋に行ける身分になりたい……」
非モテの悲しいつぶやきが、俺の口から漏れる。
「……彼女は」
玖堂が、遠慮がちに俺に訊く。
「いるわけないだろ」
「……は、母の日」
「それは、先々週に終わっただろ」
「そうだった」
まったく、いい加減な店員だ。
「そういえば、玖堂の特技って何?」
俺の問いに、玖堂はうなずく。
「ちからもち」
「は?」
力持ち。それが玖堂の特技らしい。
「それが、花屋の何の関係があるんだよ」
まったく結びつかない。しかし、花屋は意外にも体力勝負らしい。
大きめの鉢とか、水が入ったバケツ。重いものを持つことが多いようなのだ。
「なるほど」
玖堂が働いている姿は、残念ながら俺には想像できない。省エネモードの彼しか知らないから。
「たとえ、母の日に間に合ってたとしても。やっぱり俺は、花屋に行くことはないかな……」
海外で暮らしている母親の顔を思い浮かべながら、俺はぽつりとつぶやいた。
玖堂が、スッと背筋を伸ばした。足を組むのをやめ、きちんとした姿勢で座り直す。
「あ、もしかして、何か複雑な事情があると思ってる?」
それで、深刻な話が始まるとでも思ったのだろうか。
「なんか、聞く体勢になってもらったところ悪いんだけど……。うちの両親は、お気楽に海外生活を満喫してるよ。海の向こうにいるから、花を買っても意味がないってこと」
父親の海外転勤に、母親も同行していることを説明する。
「一緒だ」
「そう、一緒に行ってる」
「ちがう」
「え?」
「うちの両親も、海外生活中」
なんと、玖堂の家もうちと同じ事情らしい。途端に親近感がわく。
玖堂は一人っ子のようだ。クソ兄貴を持つ俺とは、その部分では少し違っている。
「親が海外にいて、一人暮らしで。それで隣同士に住んでるって、なんかすごい偶然だな……!」
「そうだな」
ちょっとテンションが上がっている俺に対して、玖堂はどこまでもクールだ。表情ひとつ変えない。
玖堂は立ち上がり、テーブルの引き出しを開ける。
ガサガサと中をあさって、やがて銀色に光るものを俺に手渡してきた。
「何、これ」
「鍵」
いや、それは見れば分かるけれども。
「どこの」
「ここの部屋。目覚まし係には必要かとおもって」
いやいや。いくらなんでもあり得ない。合鍵を渡すとか、ちょっと不用心が過ぎませんか?
「俺のこと、信用してるんだ?」
「もちろん」
本当かよ。
「委員長だし」
……なるほど。
「寝込みを襲うかもよ」
ちょっと脅かすつもりで、俺は玖堂を見据えた。
「問題ない」
玖堂は怯むことなく、平然と言った。
「え、何で?」
もしかして、俺ってそんなに弱そう?
「やり返せる」
あ、やっぱり。弱いと思われてるのか。まぁ、確かに体格差あるもんな。
やり返されている映像が浮かんで、俺は「うわ」と思った。玖堂に押し倒されている自分。玖堂に見下ろされている風景。
今、俺が座っているソファからベッドの一部が見えている。その分、ちょっと生々しかった。
……いや、なんという想像をしているのだ。
自分に呆れながら、俺は立ち上がった。
「じゃあ、また明日。朝になったら迎えに来るから」
「うん」
右手に握った鍵を握りしめる。
玖堂は、俺を部屋の外まで見送ってくれた。表情は「無」に近いが、手を振っている。かなり動作はゆっくりだけれども。
ひら……、ひら……、という感じで、いかにも玖堂らしい手の振り方だった。省エネモードだな、と思いながら、俺も手を振り返した。
28
あなたにおすすめの小説
【完結】君の笑顔を信じたい
加賀ユカリ
BL
恋愛に臆病な受けが、後輩攻めに一途に愛される話。
高校三年生である高森浩太(たかもり こうた)は、自身の忘れ物をきっかけに後輩である瀬川蓮(せがわ れん)と知り合うようになる。
浩太は中学時代、同じ部活の男先輩への失恋により、「自分はもう恋愛なんてしない」と恋愛に臆病になる。一方、後輩である蓮は事あるごとに浩太を積極的に遊びに誘う。
浩太が遠まわしにいくら断っても諦めない蓮に、浩太は次第に自身の恋心を隠せなくなっていく──
攻め:瀬川蓮。高校二年生。爽やかな笑顔の持ち主。
受け:高森浩太。高校三年生。日々勉強に追われる受験生。
・最終話まで執筆済みです(全36話)
・19時更新
無口なきみの声を聞かせて ~地味で冴えない転校生の正体が大人気メンズアイドルであることを俺だけが知っている~
槿 資紀
BL
人と少し着眼点がズレていることが密かなコンプレックスである、真面目な高校生、白沢カイリは、クラスの誰も、不自然なくらい気にしない地味な転校生、久瀬瑞葵の正体が、大人気アイドルグループ「ラヴィ」のメインボーカル、ミズキであることに気付く。特徴的で魅力的な声を持つミズキは、頑ななほどに無口を貫いていて、カイリは度々、そんな彼が困っているところをそれとなく助ける毎日を送っていた。
ひょんなことから、そんなミズキに勉強を教えることになったカイリは、それをきっかけに、ミズキとの仲を深めていく。休日も遊びに行くような仲になるも、どうしても、地味な転校生・久瀬の正体に、自分だけは気付いていることが打ち明けられなくて――――。
透きとおる泉
小貝川リン子
BL
生まれる前に父を亡くした泉。母の再婚により、透という弟ができる。同い年ながらも、透の兄として振る舞う泉。二人は仲の良い兄弟だった。
ある年の夏、家族でキャンプに出かける。そこで起きたとある事故により、泉と透は心身に深い傷を負う。互いに相手に対して責任を感じる二人。そのことが原因の一端となり、大喧嘩をしてしまう。それ以降、まともに口も利いていない。
高校生になった今でも、兄弟仲は冷え切ったままだ。
殿堂入りした愛なのに
たっぷりチョコ
BL
全寮の中高一貫校に通う、鈴村駆(すずむらかける)
今日からはれて高等部に進学する。
入学式最中、眠い目をこすりながら壇上に上がる特待生を見るなり衝撃が走る。
一生想い続ける。自分に誓った小学校の頃の初恋が今、目の前にーーー。
両片思いの一途すぎる話。BLです。
バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる
衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。
男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。
すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。
選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。
二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。
元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。
【完結】君の手を取り、紡ぐ言葉は
綾瀬
BL
図書委員の佐倉遥希は、クラスの人気者である葉山綾に密かに想いを寄せていた。しかし、イケメンでスポーツ万能な彼と、地味で取り柄のない自分は住む世界が違うと感じ、遠くから眺める日々を過ごしていた。
ある放課後、遥希は葉山が数学の課題に苦戦しているのを見かける。戸惑いながらも思い切って声をかけると、葉山は「気になる人にバカだと思われるのが恥ずかしい」と打ち明ける。「気になる人」その一言に胸を高鳴らせながら、二人の勉強会が始まることになった。
成績優秀な遥希と、勉強が苦手な葉山。正反対の二人だが、共に過ごす時間の中で少しずつ距離を縮めていく。
不器用な二人の淡くも甘酸っぱい恋の行方を描く、学園青春ラブストーリー。
【爽やか人気者溺愛攻め×勉強だけが取り柄の天然鈍感平凡受け】
オレに触らないでくれ
mahiro
BL
見た目は可愛くて綺麗なのに動作が男っぽい、宮永煌成(みやなが こうせい)という男に一目惚れした。
見た目に反して声は低いし、細い手足なのかと思いきや筋肉がしっかりとついていた。
宮永の側には幼なじみだという宗方大雅(むなかた たいが)という男が常におり、第三者が近寄りがたい雰囲気が漂っていた。
高校に入学して環境が変わってもそれは変わらなくて。
『漫画みたいな恋がしたい!』という執筆中の作品の登場人物目線のお話です。所々リンクするところが出てくると思います。
真面目学級委員がファッティ男子を徹底管理した結果⁉
小池 月
BL
☆ファッティ高校生男子<酒井俊>×几帳面しっかり者高校男子<風見凛太朗>のダイエットBL☆
晴青高校二年五組の風見凛太朗は、初めて任された学級委員の仕事を責任を持ってこなすために日々頑張っている。
そんなある日、ホームルームで「若者のメタボ」を注意喚起するプリントが配られた。するとクラス内に「これって酒井の事じゃん」と嘲笑が起きる。
クラスで一番のメタボ男子(ファッティ男子)である酒井俊は気にした風でもないが、これがイジメに発展するのではないかと心配する凛太朗は、彼のダイエットを手伝う決意をする。だが、どうやら酒井が太っているのには事情がありーー。
高校生活の貴重なひと時の中に、自分を変える出会いがある。輝く高校青春BL☆
青春BLカップ参加作品です!ぜひお読みくださいませ(^^♪
お気に入り登録・感想・イイネ・投票(BETボタンをポチ)などの応援をいただけると大変嬉しいです。
9/7番外編完結しました☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる