こじらせ委員長と省エネ男子

みずしま

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1.こじらせていることは自覚してます

1-6

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 そう考えると、花屋というのは自分にとってかなり縁遠い場所だ。

「花屋に行ける身分になりたい……」

 非モテの悲しいつぶやきが、俺の口から漏れる。

「……彼女は」

 玖堂が、遠慮がちに俺に訊く。

「いるわけないだろ」

「……は、母の日」

「それは、先々週に終わっただろ」

「そうだった」

 まったく、いい加減な店員だ。

「そういえば、玖堂の特技って何?」

 俺の問いに、玖堂はうなずく。

「ちからもち」

「は?」

 力持ち。それが玖堂の特技らしい。

「それが、花屋の何の関係があるんだよ」

 まったく結びつかない。しかし、花屋は意外にも体力勝負らしい。

 大きめの鉢とか、水が入ったバケツ。重いものを持つことが多いようなのだ。

「なるほど」

 玖堂が働いている姿は、残念ながら俺には想像できない。省エネモードの彼しか知らないから。

「たとえ、母の日に間に合ってたとしても。やっぱり俺は、花屋に行くことはないかな……」

 海外で暮らしている母親の顔を思い浮かべながら、俺はぽつりとつぶやいた。

 玖堂が、スッと背筋を伸ばした。足を組むのをやめ、きちんとした姿勢で座り直す。

「あ、もしかして、何か複雑な事情があると思ってる?」

 それで、深刻な話が始まるとでも思ったのだろうか。

「なんか、聞く体勢になってもらったところ悪いんだけど……。うちの両親は、お気楽に海外生活を満喫してるよ。海の向こうにいるから、花を買っても意味がないってこと」

 父親の海外転勤に、母親も同行していることを説明する。

「一緒だ」

「そう、一緒に行ってる」

「ちがう」

「え?」

「うちの両親も、海外生活中」

 なんと、玖堂の家もうちと同じ事情らしい。途端に親近感がわく。

 玖堂は一人っ子のようだ。クソ兄貴を持つ俺とは、その部分では少し違っている。

「親が海外にいて、一人暮らしで。それで隣同士に住んでるって、なんかすごい偶然だな……!」

「そうだな」

 ちょっとテンションが上がっている俺に対して、玖堂はどこまでもクールだ。表情ひとつ変えない。

 玖堂は立ち上がり、テーブルの引き出しを開ける。

 ガサガサと中をあさって、やがて銀色に光るものを俺に手渡してきた。

「何、これ」

「鍵」

 いや、それは見れば分かるけれども。

「どこの」

「ここの部屋。目覚まし係には必要かとおもって」

 いやいや。いくらなんでもあり得ない。合鍵を渡すとか、ちょっと不用心が過ぎませんか?

「俺のこと、信用してるんだ?」

「もちろん」

 本当かよ。

「委員長だし」

 ……なるほど。

「寝込みを襲うかもよ」

 ちょっと脅かすつもりで、俺は玖堂を見据えた。

「問題ない」

 玖堂は怯むことなく、平然と言った。

「え、何で?」

 もしかして、俺ってそんなに弱そう? 

「やり返せる」

 あ、やっぱり。弱いと思われてるのか。まぁ、確かに体格差あるもんな。

 やり返されている映像が浮かんで、俺は「うわ」と思った。玖堂に押し倒されている自分。玖堂に見下ろされている風景。

 今、俺が座っているソファからベッドの一部が見えている。その分、ちょっと生々しかった。

 ……いや、なんという想像をしているのだ。

 自分に呆れながら、俺は立ち上がった。

「じゃあ、また明日。朝になったら迎えに来るから」

「うん」

 右手に握った鍵を握りしめる。

 玖堂は、俺を部屋の外まで見送ってくれた。表情は「無」に近いが、手を振っている。かなり動作はゆっくりだけれども。

 ひら……、ひら……、という感じで、いかにも玖堂らしい手の振り方だった。省エネモードだな、と思いながら、俺も手を振り返した。
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