こじらせ委員長と省エネ男子

みずしま

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5.溺愛されることになれていません

5-7

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 今日で、夏休みも終わり。

 俺は朝から、最後の夏期講習に出かけた。玖堂は吉沢に誘われて、プールに出かけている。クラスの男子数人が集まって夏の思い出を作るらしい。

 ホワイトボードを使いながら、講師が問題の解き方を説明している。その様子をぼんやりと眺めた。

 今頃、玖堂はプールにいる。

 クラスの男子数人が集まると言っていたが、本当だろうか。途中でクラスの一軍女子が合流したりする可能性もあるのではないか。

 はしゃぐクラスメイトを想像すると、気分が沈んだ。

 あれから玖堂とは、ちょっとぎくしゃくしている。俺が一方的に、そう思っているだけかもしれないけど……。

 なんとか夏期講習の日程を終え、トボトボと歩いて帰路につく。

 アパートに戻ると夕方になっていた。とはいえ、夏なのでまだまだ明るい。

 部屋に入り、教科書の整理をしていたらインターホンが鳴った。もしかして……。

 俺はダッシュで玄関に向かった。そして、扉を開けると。

 そこにいたのは、期待していた人物ではなかった。

「なんだ、洸か……」

 あからさまにがっかりする俺を見て、クソ兄貴が文句を言う。

「なんだよーー! せっかく引き取りに来てやったのに~~」

「……いつも思うんだけど。前もって連絡とかしてくれない?」

 留守にしている可能性もあるわけだし。

「えぇーー、ムリだよ。だって俺って気分屋だし。連絡した次の瞬間には、行く気が失せる可能性があるもん」

 ヘラヘラしながら、俺を押しのけるようにして部屋に入ってくる。

「それで? 俺が預けた箱は?」

 洸が、きょろきょろと部屋の中を見回す。

「預けたんじゃなくて、置いていったの間違いだろ」

 そう言って、俺は押し入れの奥から箱を取り出した。

「使った?」

 呑気な顔で洸が訊く。俺はブチッと切れた。

「使ってねぇ……!」

 押し入れに仕舞ったきり、取り出してもいない。存在を忘れたいくらいだった。

「なんだ、そっか」

「早く帰れよ」

 もう用事は済んだはず。

 シッシッと手で追い払う仕草をすると、洸が「えぇーー!」と大げさに嘆いた。

「もう夕方じゃん」

「だから?」

「夕飯の時間じゃん!」

「だから、それがどうしたんだよ」

 どう考えても夕食をタカるつもりだろうが、俺は知らんふりをした。

 絶対に洸の分まで作りたくない。

「シゴデキの同期がさ、出て行っちゃったんだよ~~」

 ウィークリーマンションの契約をして、無事に引っ越して行ったそうだ。

「ふうん」

「それで、コンビニとかテイクアウトとかしてたんだけど。なんか味気なくて。一人で食事する虚しさといったら……」

 洸が、しくしくと泣きマネをする。

 しかし残念ながら、俺には通じない。なぜなら洸の性格がクソなことを知っているから。

「俺を追い出したくせに、今さらそんなことを言われてもな」

 冷たい視線を送ってやったが、神経が図太いことに定評がある洸なので効果はなし。それどころか、背後から俺に抱き着いてきた。

「ケチケチしないでさーー、ちょっとくらい良いじゃん。な?」

 甘えた声で、俺に懇願してくる。 
 
「絶対にイヤだね」

「なーー、響ってば~~」

「離せよ、暑苦しい」

 押し問答をしながら、俺は玄関に向かった。へばりついている洸をなんとか引き剥がして、外に追い出す作戦だ。

「マジで、いい加減にしろって……!」

「つれないなーー、響くんは。すっかりひねくれちゃって。昔はあんなにかわいかったのに」

 悪かったな! ひねくれてて!

 イライラしながら、玄関のドアノブを掴もうとしたとき。

 カチャリ、と音を立てて扉が開いた。

「あ、玖堂……?」

 目の前に立っていたのは、なんと玖堂だった。

 プールから帰ってきたらしい。

 洸に伸し掛かられたまま、俺は「おかえり」と言ったのだが。

 玖堂は、驚いた顔で固まっている。

 しばらくすると我に返ったようで、俺の背中に乗っている人物を凝視した。かなり剣呑な雰囲気だ。睨んでいるといっても良いくらいの目つきだった。

「誰……?」

 玖堂の低い声に、ビクリとなる。今までに聞いたことのない声だ。

 俺の反応のいち早く気づいたらしい洸が、サッと距離をとった。離れてくれたのは良かったのだが、その拍子に洸がよろけた。玄関の段差に足をとられたのだ。

「わわっ……!」

 ドジでクソな兄貴は壁に激突した。勢いのまま、手に持っていた箱の中身が散らばる。

「あっ……!」

 洸が、軽く「落ちたな」くらいの反応を見せる。一方の俺はというと。

 あぁ~~~~~~!!!(絶叫)だ。

 床に散らばったいかがわしいモノを見ながら、俺は真っ青になった。

 見られた。絶対に見られたくなかった相手に見られた。

 タイミングが悪すぎる。というか、なんでこんなところで転ぶんだよ! クソ兄貴め~~~~! 

 怒りで顔が真っ赤になる。

 青くなったり赤くなったりと、俺は顔色の変化に忙しい。

 玖堂のほうは、表情がなく顔色は真っ白だった。

「これは?」

 散らばったモノに視線をやりながら、玖堂が問う。

「見て分かる通りのおもちゃだよ~~」

 ヘラヘラと笑いながら、洸が答える。

「ところで、君は誰なの? あ、もしかして、響のクラスメイト?」

 クソ兄貴が、玖堂を指さす。

 玖堂の眉がピクリと動いた。

「そうですけど。宮下のこと、呼び捨てなんですか……?」

 うわ、めちゃ怖い。玖堂って、こんな怖い顔もできるんだ……。

 俺は密かにビビッていた。

「普通に、呼び捨てにしてるよ。というか、このアパートの住人だったりする?」

 洸の問いに、玖堂は鋭い眼光を向けたままうなずいた。

「そっかーーー!」

 突如として、洸がハイテンションになる。

 そして、俺の背中をバシバシと叩く。

「響~~、お前ってイケメン好きだったんだなーー!」

 あ、なんか嫌な予感がする。

「痛ぇよ」

「馴れ初め、教えて?」

 キラキラの目で見つめられる。寒気がする。やっぱりな。

「ムリ」 

 俺は端的に言って断った。

 そして、散らばったモノを拾い集めるように言い渡す。

「けち~~~! ちょっとぐらい良いじゃん」

 ぶつぶつと文句を言いながら、洸は拾い集めたものを箱に入れる。最後に手にしたのは、アレを模したモノだった。アレというのは、俺が計測したアレだ。あとは察して欲しい。

 洸は俺の肩を抱き、脇腹をアレで突いてくる。

 くそが……!

 俺は、思いっきり力を込めて拳を振り上げた。渾身のパンチをお見舞いしてやろうと思ったのだが、拳を振り下ろしても手ごたえはなかった。

 洸は玖堂に胸倉を掴まれていた。

「ちょ、く、苦しい……」

 クソ兄貴が、苦しそうに顔を歪めている。いい気味だ。

「宮下に、なにしてるんだよ」

 唸るように玖堂が言うと、洸が「お、俺も……」と声を出す。

「俺も、宮下だし」

「え……?」

 一瞬、玖堂の力が緩んだ。

 その隙を見逃さず、洸は玖堂の腕を振りほどく。

「響……! いくら長身イケメンだからって、DV男はダメだぞ……!」

 呼吸を整えながら、洸が俺に忠告する。

「お兄ちゃんは許しません……!」

「いや『お兄ちゃん』とかやめて。マジできもいんだよ」

「きもいとか言うなよ! だいたい響は口の利き方がなってない~~」

 俺と洸が言い合いをしていると、玖堂が困惑した様子で「お兄ちゃん……?」とつぶいやいた。

「実は、そうなんだ。似てないと思うけど……」

 俺は仕方なく、洸が自分の兄であることを打ち明けた。

「よく言われるけど、実の兄弟だよ~~。名前は洸。年は八歳違いで~~」

 ヘラヘラと洸が説明する。そして最後に、じっと玖堂を見据えた。

「ところで、君って本当にDV男じゃないんだよな? もし、うちの子にひどいことしたらマジで許さねぇぞ」

 洸が圧をかける。たまにしか発揮しない「兄の顔」を見せている。なんだかんだ言いながら、弟である俺のことは守ってくれるつもりなのだ。まぁ、玖堂はDV男なんかじゃないし、完全に誤解なんだけど。

 ちょっと感動していた俺だったけど、改めて洸を見てその感動は一気に去った。

 アレを握ったままなのだ。

 なんという滑稽な姿なのだろう。俺の感動を返してくれ。

「あの、玖堂は暴力なんて振るわないから……」

 とりあえず誤解は解きたい。

「へぇ、玖堂くんっていうのか~~」

 アレを持ったまま、洸が「下の名前は?」と問う。

「玖堂碧斗です」

 自己紹介をしながら、ぺこり、と玖堂が頭を下げる。

「そうか、うむ。弟のことを頼んだぞ」

 急に洸が偉そうな態度を見せる。

「あ、ありがとうございます」

「ところで、玖堂くん」

「はい」

「馴れ初めは?」

「え、はい……?」

 玖堂が困惑している。当然だ。

 まったく、懲りない男め……。

 俺は、背後から洸にパンチをお見舞いした。今度は手ごたえがあった。足元がふらついたところで蹴りを入れて、すかさず部屋から追い出す。

 洸のシューズも玄関の外に投げ捨て、勢いよく扉を閉めた。

 もちろん、玖堂は部屋の中に引き入れている。

「ぼ、暴力男……!」

 扉の向こうから、洸が叫んだ。

「うるさい、変態! クソばか兄貴!」

 俺は口汚く罵った。洸が変態なのは事実だ。

 いかがわしいモノを弟に押し付けた事実は消えない。自分でもいうのもなんだか、俺はまだピチピチの高校生なのだ。

 純真無垢(?)でいたいけな男子高校生の部屋に持ち込んで良い代物ではない。

「玖堂くん! 弟に暴力を振るわれたら、俺に言うんだよ! そして、馴れ初めを聞かせて……!」

 諦めの悪いクソ兄貴が、まだなにか喚いている。

「黙れ! 早く帰れ!」

 扉を一枚挟んで、俺も負けじと応戦した。だいたいの事態を飲み込んだらしい玖堂は、ひたすら苦笑いしていた。 
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