こじらせ委員長と省エネ男子

みずしま

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5.溺愛されることになれていません

5-6

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 いかがわしいモノが入った箱は、とりあえず押し入れの奥に仕舞った。

 本当は預かりたくなんてなかった。一日も早く引き取りに来て欲しいと願ったが、数日が経っても兄からの音沙汰はなかった。

 しびれを切らして、こちらから連絡すると「まだ同期が家にいるから」との理由で引き取りを拒否する。

「くそが……!」

 勉強机に突っ伏しながら、俺は兄に悪態をついた。

 塾の課題に集中できない。午前中は勉強が捗るゴールデンタイムなのに。

 なるべく意識しないようにと心がけたが、気づくと視線が押し入れのほうに向かっている。落ち着かない。

 もしも玖堂が部屋に来て、押し入れを開けたりしたら……。

 想像するだけで血の気が引く。俺の持ち物だと疑われるだろう。そうなったら、変態野郎というレッテルを貼られてしまう。

「いや、落ち着け。大丈夫だ。玖堂は無断で押し入れをあさったりしない……」

 そう自分に言い聞かせ、冷静になろうと試みる。 

 静まり返った部屋。

 玖堂の部屋からも生活音は聞こえてこない。バイトに行っているのだ。

「それにしても、まさか自分がネグレクトされてたとは……」

 想像もしていなかった事実だ。「ネグレクト」というワードは昨今よく耳にするようになったが、自分がそれに当てはまるとは思っていなかった。正直なところ、今でもピンときていない。

 特にショックは感じておらず、洸にも言ったのだが夢をみる理由が分かって腑に落ちたというか。「そうだったのか!」と納得したというか。すっきりした感じがしている。

 でも……。

 俺はこの話を玖堂にはしていなかった。タイミングが掴めずに、話しそびれている。毎日のようにメッセージを送り合ったり、顔を見たりしているんだけど……。

「玖堂のところは、なんというか『普通』っぽいし……」

 同じく両親が海外暮らしをしている玖堂家。違うのは、定期的に連絡があるということだ。

 ビデオ通話をしている場面に出くわしたことが何度かある。玖堂は、いつものぽや~~んとした感じで「元気にやってるよ~~」と画面越しに手を振っていた。

「それに比べて……」

 俺には、両親からの連絡はない。それが当たり前だと思っていたが、今になって考えてみれば「普通」からは大きく逸脱している。そもそも、最後に会話をしたのがいつだったのか思い出せない。

 非常識な両親であることには違いないが、その状況を不思議に思わなかった自分も、ちょっとおかしい気がする。

「だから、言えないんだろうな……」

 玖堂が、どんな反応をするのか。

 想像したら、とても怖かった。





 夏休みも後半に入った。

 例の箱は、未だに俺の手元にある。洸には引き取り要請をしているが、のらりくらりと躱されていた。

 塾から戻った夕方。玖堂の部屋のソファに身を沈め、俺は静かにキレていた。

 スマートフォンを握りしめながら、画面を睨む。洸から届いたメッセージには、快適な生活を送る様子が記されていた。『同期のメシがマジで美味い!』らしい。

 火事で住むところを失った同期に、恩を着せているようなのだ。

 なにかと便利に使っているようで、料理を作らせたり、掃除をさせたりしていると洸は自慢気に語る。自分の兄ながら、その性悪さにはほとほと呆れる。

『洸のクソな性格は、その同期のひとにバレてないのか?』

 俺がメッセージを送信すると、すぐに返信があった。

『全然大丈夫! むしろ張り切ってる!』

 なぜだ。意味が分からない。

『どうせ、洸が脅してるんだろ? やらないと追い出すとか言って』

『そんなことしないよ。めちゃくちゃ褒めてる。おだてまくって、いい気分にさせてる。そうすると自主的にあれこれするようになるんだよ~~』

 なんという性悪。

 俺がため息を吐くと、隣にいた玖堂が「どうしたの?」と訊いてきた。

「べ、別に……」

 ぎくしゃくとしながら、俺は咄嗟にスマートフォンを隠した。

 玖堂には、未だに言えていない。時間が経つにつれ、どう切り出せば良いのか分からなくなってしまった。

 視線を彷徨わせていると、玖堂が足を組み替えた。

「最近、よくスマートフォン触ってるよね」

 じいっと見られて、俺は居心地が悪くなる。

「そ、そうか……?」

 ぎこちなく笑いながら、俺はなんとか誤魔化そうと試みる。

「誰からのメッセージ? 最近、頻繁に誰かとやり取りしてるよね」

 ズバリと言い当てられ、俺は言葉に詰まった。

 別にやましいことはない。例の箱を取りに来るよう、洸に催促のメッセージを送っているだけなのだ。そして、見事に躱されているだけ。

 口ごもりながら、俺は「友だちだよ」と嘘の言い訳をする。

「頻繁にやり取りするような友だち、宮下にはいないでしょ」

 見事な指摘だ。その通りなんだけど、さすがに失礼が過ぎるのではないか。

 思わずムッとして、玖堂に言い返した。

「俺にだって、そういう友だちはいるから」

「どこの誰? いつ親しくなったの?」

 矢継ぎ早に質問され、答えに窮する。

「そ、それは……。そう、塾! 夏期講座で出来た友だち」

 架空の友人を作り上げ、玖堂に説明する。

「……男?」

「う、うん」

 俺はうなずいた。残念というかなんというか、塾で親しい友人はできなかった。

 世間話をしたり、挨拶をしたりといった程度の関係なら構築できたのだが。

 夏期講座に来ている生徒は、俺以上の勉強ガチ勢ばかりだった。休み時間でも教科書とにらめっこをしているので、話しかけずらいのだ。

 そういうわけで、連絡先を交換するという場面は、今のところ一度も訪れていない。

 玖堂は、かなり俺を疑っている様子だった。

 しかし、俺は潔白だ。やましいことなんてこれっぽっちもしていない。「親しい友人ができた」と、嘘をついたことについては、悪かったなと思うけれども……。 
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