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5.溺愛されることになれていません
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いかがわしいモノが入った箱は、とりあえず押し入れの奥に仕舞った。
本当は預かりたくなんてなかった。一日も早く引き取りに来て欲しいと願ったが、数日が経っても兄からの音沙汰はなかった。
しびれを切らして、こちらから連絡すると「まだ同期が家にいるから」との理由で引き取りを拒否する。
「くそが……!」
勉強机に突っ伏しながら、俺は兄に悪態をついた。
塾の課題に集中できない。午前中は勉強が捗るゴールデンタイムなのに。
なるべく意識しないようにと心がけたが、気づくと視線が押し入れのほうに向かっている。落ち着かない。
もしも玖堂が部屋に来て、押し入れを開けたりしたら……。
想像するだけで血の気が引く。俺の持ち物だと疑われるだろう。そうなったら、変態野郎というレッテルを貼られてしまう。
「いや、落ち着け。大丈夫だ。玖堂は無断で押し入れをあさったりしない……」
そう自分に言い聞かせ、冷静になろうと試みる。
静まり返った部屋。
玖堂の部屋からも生活音は聞こえてこない。バイトに行っているのだ。
「それにしても、まさか自分がネグレクトされてたとは……」
想像もしていなかった事実だ。「ネグレクト」というワードは昨今よく耳にするようになったが、自分がそれに当てはまるとは思っていなかった。正直なところ、今でもピンときていない。
特にショックは感じておらず、洸にも言ったのだが夢をみる理由が分かって腑に落ちたというか。「そうだったのか!」と納得したというか。すっきりした感じがしている。
でも……。
俺はこの話を玖堂にはしていなかった。タイミングが掴めずに、話しそびれている。毎日のようにメッセージを送り合ったり、顔を見たりしているんだけど……。
「玖堂のところは、なんというか『普通』っぽいし……」
同じく両親が海外暮らしをしている玖堂家。違うのは、定期的に連絡があるということだ。
ビデオ通話をしている場面に出くわしたことが何度かある。玖堂は、いつものぽや~~んとした感じで「元気にやってるよ~~」と画面越しに手を振っていた。
「それに比べて……」
俺には、両親からの連絡はない。それが当たり前だと思っていたが、今になって考えてみれば「普通」からは大きく逸脱している。そもそも、最後に会話をしたのがいつだったのか思い出せない。
非常識な両親であることには違いないが、その状況を不思議に思わなかった自分も、ちょっとおかしい気がする。
「だから、言えないんだろうな……」
玖堂が、どんな反応をするのか。
想像したら、とても怖かった。
✤
夏休みも後半に入った。
例の箱は、未だに俺の手元にある。洸には引き取り要請をしているが、のらりくらりと躱されていた。
塾から戻った夕方。玖堂の部屋のソファに身を沈め、俺は静かにキレていた。
スマートフォンを握りしめながら、画面を睨む。洸から届いたメッセージには、快適な生活を送る様子が記されていた。『同期のメシがマジで美味い!』らしい。
火事で住むところを失った同期に、恩を着せているようなのだ。
なにかと便利に使っているようで、料理を作らせたり、掃除をさせたりしていると洸は自慢気に語る。自分の兄ながら、その性悪さにはほとほと呆れる。
『洸のクソな性格は、その同期のひとにバレてないのか?』
俺がメッセージを送信すると、すぐに返信があった。
『全然大丈夫! むしろ張り切ってる!』
なぜだ。意味が分からない。
『どうせ、洸が脅してるんだろ? やらないと追い出すとか言って』
『そんなことしないよ。めちゃくちゃ褒めてる。おだてまくって、いい気分にさせてる。そうすると自主的にあれこれするようになるんだよ~~』
なんという性悪。
俺がため息を吐くと、隣にいた玖堂が「どうしたの?」と訊いてきた。
「べ、別に……」
ぎくしゃくとしながら、俺は咄嗟にスマートフォンを隠した。
玖堂には、未だに言えていない。時間が経つにつれ、どう切り出せば良いのか分からなくなってしまった。
視線を彷徨わせていると、玖堂が足を組み替えた。
「最近、よくスマートフォン触ってるよね」
じいっと見られて、俺は居心地が悪くなる。
「そ、そうか……?」
ぎこちなく笑いながら、俺はなんとか誤魔化そうと試みる。
「誰からのメッセージ? 最近、頻繁に誰かとやり取りしてるよね」
ズバリと言い当てられ、俺は言葉に詰まった。
別にやましいことはない。例の箱を取りに来るよう、洸に催促のメッセージを送っているだけなのだ。そして、見事に躱されているだけ。
口ごもりながら、俺は「友だちだよ」と嘘の言い訳をする。
「頻繁にやり取りするような友だち、宮下にはいないでしょ」
見事な指摘だ。その通りなんだけど、さすがに失礼が過ぎるのではないか。
思わずムッとして、玖堂に言い返した。
「俺にだって、そういう友だちはいるから」
「どこの誰? いつ親しくなったの?」
矢継ぎ早に質問され、答えに窮する。
「そ、それは……。そう、塾! 夏期講座で出来た友だち」
架空の友人を作り上げ、玖堂に説明する。
「……男?」
「う、うん」
俺はうなずいた。残念というかなんというか、塾で親しい友人はできなかった。
世間話をしたり、挨拶をしたりといった程度の関係なら構築できたのだが。
夏期講座に来ている生徒は、俺以上の勉強ガチ勢ばかりだった。休み時間でも教科書とにらめっこをしているので、話しかけずらいのだ。
そういうわけで、連絡先を交換するという場面は、今のところ一度も訪れていない。
玖堂は、かなり俺を疑っている様子だった。
しかし、俺は潔白だ。やましいことなんてこれっぽっちもしていない。「親しい友人ができた」と、嘘をついたことについては、悪かったなと思うけれども……。
本当は預かりたくなんてなかった。一日も早く引き取りに来て欲しいと願ったが、数日が経っても兄からの音沙汰はなかった。
しびれを切らして、こちらから連絡すると「まだ同期が家にいるから」との理由で引き取りを拒否する。
「くそが……!」
勉強机に突っ伏しながら、俺は兄に悪態をついた。
塾の課題に集中できない。午前中は勉強が捗るゴールデンタイムなのに。
なるべく意識しないようにと心がけたが、気づくと視線が押し入れのほうに向かっている。落ち着かない。
もしも玖堂が部屋に来て、押し入れを開けたりしたら……。
想像するだけで血の気が引く。俺の持ち物だと疑われるだろう。そうなったら、変態野郎というレッテルを貼られてしまう。
「いや、落ち着け。大丈夫だ。玖堂は無断で押し入れをあさったりしない……」
そう自分に言い聞かせ、冷静になろうと試みる。
静まり返った部屋。
玖堂の部屋からも生活音は聞こえてこない。バイトに行っているのだ。
「それにしても、まさか自分がネグレクトされてたとは……」
想像もしていなかった事実だ。「ネグレクト」というワードは昨今よく耳にするようになったが、自分がそれに当てはまるとは思っていなかった。正直なところ、今でもピンときていない。
特にショックは感じておらず、洸にも言ったのだが夢をみる理由が分かって腑に落ちたというか。「そうだったのか!」と納得したというか。すっきりした感じがしている。
でも……。
俺はこの話を玖堂にはしていなかった。タイミングが掴めずに、話しそびれている。毎日のようにメッセージを送り合ったり、顔を見たりしているんだけど……。
「玖堂のところは、なんというか『普通』っぽいし……」
同じく両親が海外暮らしをしている玖堂家。違うのは、定期的に連絡があるということだ。
ビデオ通話をしている場面に出くわしたことが何度かある。玖堂は、いつものぽや~~んとした感じで「元気にやってるよ~~」と画面越しに手を振っていた。
「それに比べて……」
俺には、両親からの連絡はない。それが当たり前だと思っていたが、今になって考えてみれば「普通」からは大きく逸脱している。そもそも、最後に会話をしたのがいつだったのか思い出せない。
非常識な両親であることには違いないが、その状況を不思議に思わなかった自分も、ちょっとおかしい気がする。
「だから、言えないんだろうな……」
玖堂が、どんな反応をするのか。
想像したら、とても怖かった。
✤
夏休みも後半に入った。
例の箱は、未だに俺の手元にある。洸には引き取り要請をしているが、のらりくらりと躱されていた。
塾から戻った夕方。玖堂の部屋のソファに身を沈め、俺は静かにキレていた。
スマートフォンを握りしめながら、画面を睨む。洸から届いたメッセージには、快適な生活を送る様子が記されていた。『同期のメシがマジで美味い!』らしい。
火事で住むところを失った同期に、恩を着せているようなのだ。
なにかと便利に使っているようで、料理を作らせたり、掃除をさせたりしていると洸は自慢気に語る。自分の兄ながら、その性悪さにはほとほと呆れる。
『洸のクソな性格は、その同期のひとにバレてないのか?』
俺がメッセージを送信すると、すぐに返信があった。
『全然大丈夫! むしろ張り切ってる!』
なぜだ。意味が分からない。
『どうせ、洸が脅してるんだろ? やらないと追い出すとか言って』
『そんなことしないよ。めちゃくちゃ褒めてる。おだてまくって、いい気分にさせてる。そうすると自主的にあれこれするようになるんだよ~~』
なんという性悪。
俺がため息を吐くと、隣にいた玖堂が「どうしたの?」と訊いてきた。
「べ、別に……」
ぎくしゃくとしながら、俺は咄嗟にスマートフォンを隠した。
玖堂には、未だに言えていない。時間が経つにつれ、どう切り出せば良いのか分からなくなってしまった。
視線を彷徨わせていると、玖堂が足を組み替えた。
「最近、よくスマートフォン触ってるよね」
じいっと見られて、俺は居心地が悪くなる。
「そ、そうか……?」
ぎこちなく笑いながら、俺はなんとか誤魔化そうと試みる。
「誰からのメッセージ? 最近、頻繁に誰かとやり取りしてるよね」
ズバリと言い当てられ、俺は言葉に詰まった。
別にやましいことはない。例の箱を取りに来るよう、洸に催促のメッセージを送っているだけなのだ。そして、見事に躱されているだけ。
口ごもりながら、俺は「友だちだよ」と嘘の言い訳をする。
「頻繁にやり取りするような友だち、宮下にはいないでしょ」
見事な指摘だ。その通りなんだけど、さすがに失礼が過ぎるのではないか。
思わずムッとして、玖堂に言い返した。
「俺にだって、そういう友だちはいるから」
「どこの誰? いつ親しくなったの?」
矢継ぎ早に質問され、答えに窮する。
「そ、それは……。そう、塾! 夏期講座で出来た友だち」
架空の友人を作り上げ、玖堂に説明する。
「……男?」
「う、うん」
俺はうなずいた。残念というかなんというか、塾で親しい友人はできなかった。
世間話をしたり、挨拶をしたりといった程度の関係なら構築できたのだが。
夏期講座に来ている生徒は、俺以上の勉強ガチ勢ばかりだった。休み時間でも教科書とにらめっこをしているので、話しかけずらいのだ。
そういうわけで、連絡先を交換するという場面は、今のところ一度も訪れていない。
玖堂は、かなり俺を疑っている様子だった。
しかし、俺は潔白だ。やましいことなんてこれっぽっちもしていない。「親しい友人ができた」と、嘘をついたことについては、悪かったなと思うけれども……。
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