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5.溺愛されることになれていません
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玖堂と二人きりになってから、俺は「あんな兄でゴメン」と詫びた。
「騒々しいというか、馴れ馴れしいというか……」
「いや、俺もお兄さんの胸倉を掴んじゃったし。失礼なことしちゃったな」
玖堂が、気まずそうな顔をしている。
例の箱を預かっていた経緯も説明した。それを今日、引き取りに来たということも。
「強引に押し付けられて。早く取りに来いって催促してたんだけど……」
「もしかして、それで頻繁にメッセージのやり取りをしてたの?」
「……うん。嘘ついて、ゴメン」
塾で特別に親しくなった相手はいない。そう玖堂に打ち明ける。
玖堂が大きく息を吐いた。
「実は、めちゃくちゃ嫉妬してた」
「うん」
「塾に行って偵察しようかと思った」
「え?」
急に話が不穏な方向に向く。
「宮下を尾行して、塾まで行って。様子を窺おうかと思ったんだけど」
「は?」
「バレたら嫌われそうだし。やめた」
もう少しで実行するところだったらしい。マジのストーカー案件じゃんかよ。だけど……。
「……嫌わないと思う」
「そうなの?」
玖堂が、ちょっと驚いた顔になる。
「たぶん、嫌いにはならない。怒るとは思うけど」
俺をストーキングする玖堂を想像したら、ドン引きしたけれど嫌いにはならなかった。
「残念。だったら尾行すればよかった」
そう言って、冗談っぽく笑う。
俺は冷蔵庫を開けて、スポーツドリンクを取り出した。
玖堂に手渡しながら、「言い出しにくかったんだ」と言って視線を逸らした。
「預かってる物があれだったら、仕方ないよ。言いにくいのは分かる」
玖堂が苦笑いしながら、俺に理解を示す。
「そうじゃなくて……」
俺は、ゆっくりと首を振った。
玖堂の目を見る。言いかけて、逸らす。
何度か繰り返した。そして、俺はようやく覚悟を決めた。
兄から聞いた話。
いつの間にか、過去の記憶をすり替えていたこと。
両親のこと。自分の幼少期。
ときどきみる夢の話。
今まで言えなかったことを玖堂に打ち明けた。
玖堂は、最後まで俺の話に耳を傾けていた。
「そうか……」
「うん」
「なんだか、分かった気がする」
玖堂が、静かに言った。
「宮下が、いつも『褒められたい』と思う理由」
ドキン、と心臓が跳ねた。少しだけ怖い。
俺は、玖堂になにを突き付けられるんだろう。
「宮下は、ずっと愛されたかったんだよね」
玖堂の言葉は、あっけなく俺の心臓を貫いた。
「褒められたくて、そのために一生懸命に頑張るのは、愛情が欲しいからだ」
やさしい声が、俺の柔らかい場所を抉る。
痛い。でも、玖堂が相手だから許してしまう。
「そう、かもしれない……。ていうか、たぶん、そう……」
自分でも気づいていない部分を暴かれるのは、不思議な感覚だった。
考えてみれば、簡単なことだった。
褒められたい。注目されたい。俺のことを見て欲しい。
ずっと、得られなかったもの。
「俺は、ただ愛されたかった」
「うん」
「でも、ダメだった」
「……うん」
「もらえなかったんだ」
気づいたら、涙が溢れていた。
苦しい。恥ずかしい。俺は愛されない子どもだった。惨めな子どもだった。
そのことを玖堂に知られてしまった。
「玖堂には、知られたくなかった……。俺が、愛されなかったこと。玖堂は、普通だから……」
両親に愛されているから。
スポーツドリンクをダイニングテーブルに置き、玖堂が俺に手を伸ばす。
玖堂の両手が、俺の顔を包み込んだ。親指で、溢れる涙を拭う。
「俺は、玖堂が思ってるような人間じゃないかもしれない」
「宮下は、宮下だろ?」
そう言って、玖堂が微笑む。
俺は、駄々っ子のように首を振った。
「面倒見の良いお母さんタイプじゃなくて、淋しがり屋かも……」
語尾が震えた。嫌われたくない。好きなままでいて欲しい。ずっと一緒にいて欲しい。
玖堂が、いくら拭っても涙が溢れてくる。
「ハンカチか、タオルある?」
玖堂が、苦笑いしながら俺に問う。
俺は、こくんとうなずいた。
「どこ?」
「寝室の押し入れ」
押し入れの中に、透明の収納ボックスがある。
衣装ケースとして利用しているのだ。ハンカチやタオルもそこに仕舞っている。
玖堂が寝室に向かった。
自分から離れていく。
「俺のこと、ひとりにしないで……」
ぐずぐずと洟をすすると、玖堂が困った顔をしながら戻ってきた。
「ちょっと、取りに行くだけだよ」
「……分かってる。けど、涙が出るんだよ」
「じゃあ、一緒に行こう」
そう言って、玖堂は俺の手を握った。
「騒々しいというか、馴れ馴れしいというか……」
「いや、俺もお兄さんの胸倉を掴んじゃったし。失礼なことしちゃったな」
玖堂が、気まずそうな顔をしている。
例の箱を預かっていた経緯も説明した。それを今日、引き取りに来たということも。
「強引に押し付けられて。早く取りに来いって催促してたんだけど……」
「もしかして、それで頻繁にメッセージのやり取りをしてたの?」
「……うん。嘘ついて、ゴメン」
塾で特別に親しくなった相手はいない。そう玖堂に打ち明ける。
玖堂が大きく息を吐いた。
「実は、めちゃくちゃ嫉妬してた」
「うん」
「塾に行って偵察しようかと思った」
「え?」
急に話が不穏な方向に向く。
「宮下を尾行して、塾まで行って。様子を窺おうかと思ったんだけど」
「は?」
「バレたら嫌われそうだし。やめた」
もう少しで実行するところだったらしい。マジのストーカー案件じゃんかよ。だけど……。
「……嫌わないと思う」
「そうなの?」
玖堂が、ちょっと驚いた顔になる。
「たぶん、嫌いにはならない。怒るとは思うけど」
俺をストーキングする玖堂を想像したら、ドン引きしたけれど嫌いにはならなかった。
「残念。だったら尾行すればよかった」
そう言って、冗談っぽく笑う。
俺は冷蔵庫を開けて、スポーツドリンクを取り出した。
玖堂に手渡しながら、「言い出しにくかったんだ」と言って視線を逸らした。
「預かってる物があれだったら、仕方ないよ。言いにくいのは分かる」
玖堂が苦笑いしながら、俺に理解を示す。
「そうじゃなくて……」
俺は、ゆっくりと首を振った。
玖堂の目を見る。言いかけて、逸らす。
何度か繰り返した。そして、俺はようやく覚悟を決めた。
兄から聞いた話。
いつの間にか、過去の記憶をすり替えていたこと。
両親のこと。自分の幼少期。
ときどきみる夢の話。
今まで言えなかったことを玖堂に打ち明けた。
玖堂は、最後まで俺の話に耳を傾けていた。
「そうか……」
「うん」
「なんだか、分かった気がする」
玖堂が、静かに言った。
「宮下が、いつも『褒められたい』と思う理由」
ドキン、と心臓が跳ねた。少しだけ怖い。
俺は、玖堂になにを突き付けられるんだろう。
「宮下は、ずっと愛されたかったんだよね」
玖堂の言葉は、あっけなく俺の心臓を貫いた。
「褒められたくて、そのために一生懸命に頑張るのは、愛情が欲しいからだ」
やさしい声が、俺の柔らかい場所を抉る。
痛い。でも、玖堂が相手だから許してしまう。
「そう、かもしれない……。ていうか、たぶん、そう……」
自分でも気づいていない部分を暴かれるのは、不思議な感覚だった。
考えてみれば、簡単なことだった。
褒められたい。注目されたい。俺のことを見て欲しい。
ずっと、得られなかったもの。
「俺は、ただ愛されたかった」
「うん」
「でも、ダメだった」
「……うん」
「もらえなかったんだ」
気づいたら、涙が溢れていた。
苦しい。恥ずかしい。俺は愛されない子どもだった。惨めな子どもだった。
そのことを玖堂に知られてしまった。
「玖堂には、知られたくなかった……。俺が、愛されなかったこと。玖堂は、普通だから……」
両親に愛されているから。
スポーツドリンクをダイニングテーブルに置き、玖堂が俺に手を伸ばす。
玖堂の両手が、俺の顔を包み込んだ。親指で、溢れる涙を拭う。
「俺は、玖堂が思ってるような人間じゃないかもしれない」
「宮下は、宮下だろ?」
そう言って、玖堂が微笑む。
俺は、駄々っ子のように首を振った。
「面倒見の良いお母さんタイプじゃなくて、淋しがり屋かも……」
語尾が震えた。嫌われたくない。好きなままでいて欲しい。ずっと一緒にいて欲しい。
玖堂が、いくら拭っても涙が溢れてくる。
「ハンカチか、タオルある?」
玖堂が、苦笑いしながら俺に問う。
俺は、こくんとうなずいた。
「どこ?」
「寝室の押し入れ」
押し入れの中に、透明の収納ボックスがある。
衣装ケースとして利用しているのだ。ハンカチやタオルもそこに仕舞っている。
玖堂が寝室に向かった。
自分から離れていく。
「俺のこと、ひとりにしないで……」
ぐずぐずと洟をすすると、玖堂が困った顔をしながら戻ってきた。
「ちょっと、取りに行くだけだよ」
「……分かってる。けど、涙が出るんだよ」
「じゃあ、一緒に行こう」
そう言って、玖堂は俺の手を握った。
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