こじらせ委員長と省エネ男子

みずしま

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5.溺愛されることになれていません

5-9

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「宮下は、そこに座ってて」

 玖堂に促され、俺は大人しくベッドに腰かけた。涙は止まらず、ときどきしゃくりあげるように喉が鳴る。

「あ、あった」

 玖堂が、収納ボックスからハンドタオルを取り出した。 

 俺の隣に腰を下ろし、玖堂がやさしく涙を拭ってくれる。どれくらいそうしていたのか、少しずつ俺は落ち着きを取り戻した。

 カーテンの外は、もうすっかり暗くなっていた。

「宮下、お腹すいてる?」

 玖堂に問われ、俺は首を振った。食欲がない。とてもじゃないけど、食べられないと思う。

「じゃあ、今日はもうこのまま寝よう」

 ベッドをポンポンと軽く叩きながら、玖堂がやさしく笑う。

「……玖堂は」

 自分でも、びっくりするくらい声が潤んでいた。

「俺?」

「うん」

 ここにいて欲しい。そばにいて欲しい。

「帰らないよ」

 俺の気持ちが伝わったのだろうか。俺は安堵しながら、ベッドに横たわった。

 玖堂とは手をつないだままだった。でも、足りない。心許ない感じがして、俺はベッドの端に移動した。モゾモゾと動く俺を見て、玖堂が「どうしたの」と不思議そうな顔をする。

 ベッドはシングルなので、壁際にいかないと場所を確保できない。

 場所というのは、もちろん玖堂が寝るためのスペースだ。

「玖堂も、一緒に寝よう?」

 たぶん、ぎゅうっと抱き着いたらこの不安な気持ちは消えると思う。

 俺が掛け布団を持ち上げると、玖堂が困った顔になった。

「……いいの?」

「うん」

 俺がうなずくと、根負けしたように玖堂は体を横たえた。すかさず玖堂に抱き着く。

「どうしたの」

「……何が」

「今日の宮下は、甘えん坊だね」

 俺の髪をやさしく梳きながら、玖堂が言う。

「……こんな俺でもいい?」

 玖堂の胸に顔をうずめたまま、俺は訊いた。 

「もちろん」

 その返答にホッとする。

 玖堂からは、かすかにプールの匂いがした。夏の匂いだと思った。たぶんこれから先、夏に関わるすべての事象が、この夜を思い出すトリガーになる。

 髪を梳いていた玖堂の手が止まった。

 こめかみに、やさしいキスを落とされる。

 そこから、体中に余韻が広がっていく。俺は、顔を上げて玖堂を見た。

 気づいたら、くちびるが重なっていた。

「やっぱり……」

「うん?」

「プールの匂いがする」

「シャワー浴びたんだけどな」

 囁くように会話をした。至近距離だから、このトーンで十分なのだ。

「プールを見る度に、思い出すんだろうな」

「何を」 

「キスしたこと」

 俺がそう言うと、強い力で抱きしめられた。

「これから、色んなものを食べる度にキスしよう」

「なんだよ、それ」

 意味が分からない。

「だって、そうしたら思い出すでしょ? 唐揚げを食べても、目玉焼きを食べても、宮下は俺のことを思い出す」

「……まぁ、そうだな」  

「何かの間違いで、離れ離れになるかもしれないだろう? 万が一、そうなったとしても安心だ。俺はいつだって宮下に思い出してもらえる。……絶対、逃がさないけどね」

 玖堂が、怖ろしいことを口にする。特に、最後の言葉には情念がこもっていた。

「急に、ヤンデレ要素を増やすなよ」

 心臓に悪い。愛が重すぎる。

 いや、これくらいで良いのかもしれない。

 俺は、本当は淋しくて、いつだって愛されたいと思っているから。

「……俺たぶん、ぐちゃぐちゃに愛されないと死ぬ。そういう性質っぽい」

「だったら、宮下は不死身だ」

 玖堂が言い切る。

「え、俺って死なないの?」

「うん。どろどろのぐちゃぐちゃに愛されてるから、俺に」

 ……どろどろの、ぐちゃぐちゃ。

 想像したら、しびれるくらいに幸せだった。

 幸せなのに、堰を切ったように涙があふれだす。こぼれ落ちる涙が、目尻からこめかみに伝う。

 いつの間にか、仰向けになっている俺を玖堂が見下ろしていた。

 玖堂の目には、明らかな熱があった。捕食者の目をしている。やっぱり玖堂はライオンだったなと、ぼんやりした頭で考える。

 自分が、今からどうなるかも分かっている。

 知らないけど、分かる。

「……俺、小さいかも」

 唐突に、懸念事項が頭をよぎった。

 愛が重い玖堂なので、そんなことで俺を嫌ったりしないだろう。そう思いつつ、俺は正直に申告した。

「何が?」

「……アレが」

「そうなの?」

「たぶん、いや、分からないけど……」

 真っ赤な顔で視線を逸らす俺に、玖堂が悪い顔をする。

 あ、こんな顔もするんだと思った。心臓がうるさいくらいにドキドキしている。

「確かめていい?」

 もう、声を出すことはできなかった。緊張と、色んな感情が決壊して。  

 俺は、ただうなずくことしかできなかった。
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