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第二章北方四島の絆
閑話6聡明な皇女の支え
しおりを挟む「エラ、体調は良いようですね」
「はい、お母様」
雪が降り、庭園の景色を見ながらも微笑むのはルーティン帝国の皇女エセリラは穏やかな表情を浮かべていた。
「二週間前まで生死の境を遡っていたのが嘘のようです。医師からは峠を越えたと」
「ご心配をかけました」
高熱で苦しみ起き上がる事もできなかったエセリラは危険な状態だった。
その上、薬を飲むにも何も口にできずにいたので打つ手がなかった。
「新しい寝具と芳香を香炉の代わりに変えてからです」
傍付きの侍女が言うには、以前まで出入りしていた医師が治療に良いと言われていた香炉用意していたが、甘ったるくジューリアは好まなかった。
そんな中、フィルベルトから送られた贈り物の中に芳香の一式が入っていた。
ラベンダーはエセリラが一番安心できる物だった。
「ラベンダーの香りが私を守ってくれたのでしょうね」
「本当に良かった」
病は気からというが、心が動けば体も動くと言われてる。
フィルベルトの思いはエセリラの支えとなった。
「お母様、私は生きてはいけないと思ってました」
「エラ!何を…」
「こんな体で、皇女としての役目も果たせません。故に声が聞こえるのです」
ベッドで寝ていると時折聞こえてくる。
耳を塞いでも、目を閉じても誰かがエセリラを責める声が聞こえ、恐ろしかった。
「私が死ねば帝国に新たな皇太子を迎えられる。私が死ねば…そんな声が」
「そんな事…」
「解ってます。でも恐ろしくて…苦しくて」
精神的にも限界だった。
手を伸ばしても誰もこの手を掴んでくれない。
「だけどラベンダーの香りが連れ戻してくれました。そしてフィルベルト様が夢に」
「え?」
「幼い頃の約束を思い出したんです」
まだ歩けた頃。
体は丈夫ではなかったが、同じく国を背負う立場だったフィルベルトと約束をしていた。
「私は…もうダメだと投げやりになっていたのです」
「エラ…」
役立たずの皇女と影口を叩かれ何の責任も果たせないお荷物。
ならばこのまま死んだ方が良いと思ったが熱で苦しむ中、優しいラベンダーが悪夢から救ってくれた。
「それにこの寝具…すごく寝心地が良くて」
「お体にも良く、この細長い抱き枕で皇女様の褥瘡が軽減されましたわ」
ずっと寝たきりだったエセリラは自身で寝返りを打つ事が出来なかった悩みも減ったのだ。
「お母様、私は生きても良いでしょうか」
「何を言うんです。当たり前です」
エセリラの病気が治ったわけではない。
最悪の状況から抜け出したわけではない、病気を治せる医者も治療法も見つかっていないが、エセリラ自身が病気と闘う決意を示した事が何よりの救いだった。
「それでこそ私の娘…直ぐにメルセウス伯爵を呼びなさい!」
愛する娘が再び生きたいと思えるようになった。
それだけでも感謝すべき事だった。
「スランタニア王国に手紙を、そしてエレンフリーク領にお礼を」
「かしこまりました」
既にフィルベルトはルーティン帝国の皇女を救った恩人と認定されていたのだった。
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