公爵令嬢エイプリルは嘘がお嫌い〜断罪を告げてきた王太子様の嘘を暴いて差し上げましょう〜

星井ゆの花(星里有乃)

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 偽フェナス王太子が自身が本物である証拠として、パーティー会場の参加者に見せつけてきたのは、国認定の身分証明書カードだった。

『この者は、真のフェナカイト国王太子であり、極めて優秀な神聖魔法の使い手であることをここに証明する』

 輝きの国フェナカイトは数年に一度、身分証明書の更新を行っていて、国民はその殆どが認定の身分証明書カードを所有している。特に、高レベル魔法の使い手となると魔法使用の免許証とも兼用であるため、欠かせないアイテムとなっていた。
 また、カードは指紋認証や波動認証機能も備わっており、極めて社会的信用の高いアイテムと言える。

『そういえば、国が発行している身分証明書カードは、特殊な魔法がかけられていて偽造はかなり難しいはずよ』
『と言うことは、あの突然現れた美少年は本物のフェナス王太子ではなく、やっぱりいつもの王太子が本物なのかしら?』
『だがあの聖なる高波動は、フェナカイト王家の一族のものにしか出せないものだと思うぞ。オレは後から出てきた少年の方が、本物のフェナス王太子だと思う』

 通常では絶対に偽造することが出来ないそれを見せることで、偽と呼ばれているフェナス王太子は自分が本物であることを証明しようとしていた。
 しかしながら、エイプリル嬢を庇うように現れた美少年から発せられる高波動オーラは、魔力を感じ取るチカラが備わっている者なら一目でわかるほど特別で、偽フェナス王太子のそれを遥かに上回っていた。


「ふっふん! 一体、何を言い出すのかと思ったら、土壇場でお姉様が虚言をするなんてね。しかも、そんな妙な男まで連れて」
「おや……昔は僕に懐いて下さっていたのに随分とお冷たいんですね、イミテ嬢。それとも貴女が、偽造身分証明書を作り僕の影武者である男にそれを授けた張本人だから、僕を遠ざけるのでしょうか? 貴女自身が、この国の王妃になるための秘策として」
「なっなんですってぇ! そのふざけた口を早く閉じないと、今この場で殺すわよ! 殺してっ殺せっ……早くっ誰かっ!」

 偽の王太子の正体は影武者。
 さらに、偽造の身分証明書を作ったのは、次期王妃の座を異母姉から奪うために画策していたイミテ本人。
 情報を公開されたことに切れたイミテ嬢は、急いで本物のフェナス王太子を亡き者にしようとする。が、思い当たる節が王宮関係者にはあるのか、取り押さえられたのはイミテと偽王太子の方だった。

「なっ何をするんだ! まさか、この国に雇用されているお前たちまで、オレとイミテを疑うのか?」
「きゃあっ! 離してよ」
「申し訳ございません。王宮警察の指示により、貴方がた二人を身分証明書偽造罪及び詐欺罪の疑惑で拘束いたします」

 ガチャン!

「いやぁっ離してっ。こんなはずじゃあ……なんでっどうしてなのっ」
「お前ら、酷い目に遭うぞっ。どうなっているか分かっているのか」
「話は、イミテ嬢の魔女裁判で聴くことにします。さあ、大人しくしたほうが身のためですよ」

 強力な魔法を施された手錠をかけられ、偽フェナス王太子とイミテ嬢の二人は、そのまま地下牢へと連行された。


 * * *




『皆さん、今回の情報はまだ確定ではありませんのでどうか内密にお願いします』
『それぞれの地域に合わせて、ボディガードがお送りしますので、集団帰宅にご協力ください』

 波乱に満ちた新年度記念パーティーは、偽フェナス王太子とイミテ嬢の地下牢連行という形で幕をおろす。王宮関係者は混乱を収めながら、他の来賓や参加者達を宿泊施設や自宅に無事に帰れるように手配した。

『ご内密に……と言われても、外国からの来賓や貴族が集まるパーティーでこれだけの情報が暴露されたら、緘口令には意味がないと思うけど』
『それでも表向きは緘口令を敷くんでしょう。嗚呼、今まで憧れていたフェナス王太子様が偽物でショックだったけど、本物の王太子様はオーラが違っていたなぁ』
『本当……今までに見たことのないくらいの高波動で、あれがオーラがあるってやつなのね。びっくりしたわ』

 それぞれ、いろいろな感想を口々にしながら会場を後にする。
 閉会後、パーティー会場に残ったのは、事情を良く知るエイプリル嬢と本物のフェナス王太子、そしてこの事件を担当することになった王宮警察の警部だ。

「エイプリル嬢、フェナス王太子。今から、少しでもいいのでお時間を頂けますか? どうしてこのような事件が発生したのか、事情を聴きたいのです」
「もちろんですわ。ここまでの道のり……本当に長かった」
「今まで、僕を支えてくれてありがとう……エイプリル。後少しだ……」

 心の奥底から安心したという表情で微笑むエイプリル嬢と、彼女の肩をそっと抱き寄せる本物のフェナス王太子は警部の目から見てもお似合いで。まるで、お伽話の王子とお姫様がそのまま現れたのかと見惚れるほどだった。
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