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 輝きの国の異名を持つフェナカイト国は、大陸随一の魔法国家だ。宇宙に選ばれた者にしか使いこなせない【神聖魔法】を代々受け継いだフェナカイト王家が、この国を先導しているおかげで将来は安泰と思われていた。

 次の国王は長男のフェナス王太子とされており、絵に描いたような銀髪碧眼の美青年。輝きの国フェナカイトの次代国王に相応しいオーラを全身から解き放っており、その凄まじ過ぎる魔力の高波動は見る者の心を奪う……それはそれは麗しい王太子であった。

『嗚呼、女として生まれたからには一生に一度だけでもいいから、フェナス王太子に愛を囁かれてみたいわ』

 若い娘達は皆、フェナス王太子の胸に一度でも抱かれるのを夢みたが、彼には名家カコクセナイト公爵家に許嫁がいた。

 彼女の名は公爵令嬢エイプリル・カコクセナイト。まるで造り物の着せ替え人形のような可愛らしい背格好で、アメジストカラーの髪に金色の瞳が印象的な美少女だ。


『許嫁のエイプリル嬢が羨ましい……きっと前世でとても大きな徳を積まれたのね』
『悔しいけれどエイプリル様は、あの名家カコクセナイト公爵家の長女。きっと新年度最初のパーティーは二人の結婚発表パーティーなんでしょう』


 * * *


 新年度最初のフェナカイト国主催のダンスパーティーは、本来であればフェナス王太子と公爵令嬢エイプリルの結婚発表のはずだった。
 だが、フェナス王太子はあろうことかエイプリルの異母妹イミテの肩を抱いてパーティー会場に現れた。
 そして、本来の許嫁であるはずの令嬢エイプリルを冷酷な眼差しで見下ろし、残酷な処罰を言い渡した。

「公爵令嬢エイプリル・カコクセナイト、今日をもって婚約は破棄、魔女裁判の刑に処す! 貴様がかつてこの国を滅ぼした魔王ゲーサイトの生まれ変わりで、異母妹イミテを卑劣な手でイジメ抜く悪女だということはオレはよく知っている」
「うふふ……お姉様、年貢の納め時ですわね。子供の頃から散々私のことを虐め抜いてきたお姉様が処刑台に立つ日を心待ちにしていますわ」

 この決断にパーティーの出席者達はどよめき、動揺と共に噂話が一瞬で飛び交った。

『えっ。どういうこと? エイプリル様って、異母妹イミテさんのことを虐めていたの?』
『……今日は四月一日、エイプリル・フールよ。きっとタチの悪い冗談に違いないわよねぇ……』
『イミテさんって、なんて言うか虚言症で有名だし。フェナス王太子様だって、それくらいは認識していらっしゃるはず』

 フェナス王太子の新たな婚約者イミテは、もっともらしい嘘をつく虚言症として名を馳せており、特に憎き異母姉の誕生日であるエイプリル・フールを狙ってあらゆる嘘をついていた。その度に公爵令嬢エイプリルは嫌な思いをし、日付が変わったのちに異母妹イミテが渋々謝るのが定着している。
 だが、今回ばかりはエイプリル・フールのジョークではなく、本気で公爵令嬢エイプリルを断罪するつもりのようだ。

「フェナス王太子様の命令だ! 公爵令嬢エイプリル、貴様を地下牢に連行する」

 か弱いエイプリル嬢の細い腕を衛兵達が掴み、無理矢理でも地下牢に連れ出そうとしている。怖くて震えているのか、エイプリル嬢は美しい顔を伏せて俯いたまま、抵抗すら見せない。

「くっ……なんだ、この小娘。こんな細身の身体でまったく動きやしねぇ……こうなったらもっと強く」
「ぐっぐわぁああ! 身体が突然痺れて……」

 だが、どんなに衛兵がエイプリル嬢の腕を引っ張ってもエイプリルはびくとも動かない。それどころか、彼女を無理矢理でも地下牢へ連れ出そうとしていた衛兵達が次々と悲鳴をあげて倒れていく。

「ちっ! たかだか女一人に何をやっているんだっ。ええい、そこで突っ立っているお前達、早くエイプリルを地下牢へ」
「はっ! フェナス王太子様」

 異変に気づいたフェナス王太子が、別の衛兵にも号令をかけて、再びエイプリル嬢を捉えようとするがまたもや失敗。

「ぷっ……ふふふ、あははっ! フェナス王太子様ですって。まだ貴方達、そこのボンクラ男が本物の王子だって信じているのね。あー……笑いすぎてお腹が痛い、こう言うのが片腹痛いと言うのかしら?」

 王子は本物ではないという大胆なエイプリル嬢の発言に、パーティーの参加者達が一瞬で凍りつく。流石に不利益な発言なのか、フェナス王太子が衛兵を押し退けて自らエイプリルの腕を細い掴みにかかった。

「何がおかしい、気でも狂れたかエイプリル! それも、このオレをボンクラ男だと? この嘘つき女め。オレには、王子の身分を証明する国認定の出生証明書があるんだぞっ」
「ふっ……わたくし、嘘は嫌いですの。虚言症の馬鹿な異母妹と、婚約者のクズに振り回される毎日で気が狂いそうだったのは事実ですが。それも今日でおしまい、エイプリル・フールの嘘は午前中まで。午後になったら本当のことを言うのが、このイベントのルールですわ。ですから、本当のことを言わなくては……その王子は偽物だって」
「はぁ? お姉様、一体何をおっしゃって……? いやだわ、本当に気が狂ってしまったのかしら! ねぇ誰か、この異常者を早く地下牢に、いえこのまま殺しちゃってちょうだいな!」

 虚言症の異母妹イミテも、自分の虚言は棚に上げて、エイプリル嬢の発言は信じられないという態度だ。しかし、残りの衛兵も王宮関係者も、目を逸らしてこれ以上関わろうとしない。

「教えてあげますわ、馬鹿な愚民どもに。その王子の証明書は偽造のもので、本物の王子は他にいるって!」
「ふっふざけるなぁああああっ。このアマ、殺してやるっ。ちっ……誰だ貴様、邪魔をするなっ!」

 怒りのあまり攻撃魔法でエイプリル嬢を殺そうとするフェナス王太子だったが、来場者の一人がエイプリル嬢とフェナス王太子の間に入りガード魔法を使ったおかげで、エイプリルの身は守られた。

「ふざけてはいませんよ、偽フェナス王太子。奪われた僕の王太子の座を取り返させてもらいますね」

 ふわりと微笑む姿は、天使と見紛うばかりの輝きで思わず流れを傍観していた女性達からため息が漏れる。

 エイプリル嬢を助け出した美少年こそが、本物のフェナス王太子だと言うことは、その全身から溢れ出す高波動魔力の輝きから誰もが認めざるを得なかった。
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