どうかこの偽りがいつまでも続きますように…

矢野りと

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28.なにかが違う…〜ガイアロス視点〜②

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婚約者の願いを叶えたいと思っていたのに、心のなかで叫んでいた。 
 

『ガイア』と呼んでもいいのはルーシーじゃないっ!!
 それはあの女だけが…。

あとに続く言葉は辛うじて抑えられた。
いったい私はなにを言おうとしたんだ……。
口に手を当て震える唇をルーシーから隠す。

「ガイア…、ロス様…」
 
その声音はいつもより明るい。それは私の返事を期待しているからだろう。

「…それはやめてほしい」
「…………」

彼女はなにも言ってこない。
だが今にも泣きそうな顔をしている。
こんな顔をさせるなんて婚約者として失格だ。

「違う!ルーシーにそう呼ばれるのが嫌なわけではないんだ。ただ……、ただその呼び方は嫌な思い出に繋がって。すまない、違う願いならなんでも叶えてあげるから」

必死になってそう言うと彼女は目に涙を浮かべたまま無理に笑っていた。

「…他に願いはありません。ガイアロス様」

彼女は傷ついていた。
それが分かっていながら、私は彼女に『願いができたら教えてくれ』とだけ言ってこの話を終わらせた。




その後もルーシーは変わることなく、私に尽くし続けてくれる。
『愛しています』と告げるが、私からの言葉を求めはしない。ただじっと待っているそんな感じだった。


そんな彼女がある日を境に変わった。
それは私の元婚約者シシリアが帰宅の挨拶のために私とルーシーとゲート伯爵夫妻がいる居間に顔を出した時からだった。

それまでのルーシーは私に『愛しています』と伝えてきてもそれだけだった。見返りを求めたりせず、愛の言葉を囁くこともない私に不満を言うこともなかった。


それなのに…大人しかった彼女は変わった。

『ガイアロス様、もっと一緒にいたいです』
『ガイアロス様、庭園にお花を見に連れて行ってくださいませ』
『ガイアロス様、私のことを愛していますか……』

彼女は見返りを求めるようになった。
私に縋って『愛していますか…』と私にも愛の言葉を求めた。



そしてある日、彼女は私に『心身ともに結ばれたい』と願った。

「ガイアロス様、愛してください、婚約者である私のことを。私の願いを叶えてくださいませ!あの時は叶えてくれませんでしたね、本当は悲しかったんですよ…」

「…っ…、待ってくれ」

正式に婚約を結んでいるのなら、婚姻前に関係を持つことも咎められることはない。
だから私と彼女が結ばれても問題はない。
だがいきなりそんなことを言われても受け入れ難い。

「ガイアロス様の婚約者は私です!
正式な婚約者で、将来のあなたの妻です!!
お願い…苦しくて仕方がないの…。願い事ができたら教えてくれって言っていたではないですかっ。
私のことも助けて……」

泣いて取り乱す彼女は抱きつき離れなかった。

私が感情の高ぶりに苦しんでいる時は彼女が支えてくれていた。
どんなに私は救われただろうか。

今は彼女が助けを求め縋りついている。
ましてや彼女は私の正式な婚約者だ。

…泣いている婚約者を突き放すことは出来ない。
政略とはいえ私の婚約者だ。



私は彼女の願いを叶えた。



安心した表情で眠る彼女が隣りにいる。
これは幸せなことのはず、間違ったことはしていない。

それなのに…なにかが違う気がするのはどうしてなのか。

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