幸せな番が微笑みながら願うこと

矢野りと

文字の大きさ
20 / 85

20.壊れた番②

しおりを挟む
一人になった私は考える。

獣人の特徴が増したことによって本能に囚われ番を追い求めてやまない。それが今の私だ。

けれども竜王様はどうだろうか…。
同じ気持ちでいるのだろうか、それとも違うのだろうか…。

……分からない。

彼はただの獣人ではない、その血は純血なうえ至高の存在といわれている竜人だ。
一般の獣人とはきっと違うのだろう。
だから本能を強靭な心で押さえることも可能なのかもしれない。


 もしや番は彼にとって枷なのだろうか?
 本当はを望んでいない…?

 本能に導かれ私をここに連れて来た後に後悔したのだろうか…。
 だからここに来ない…一度も…来ない。


獣人は番と巡り合ったら『本能=心』のはずだが、何事にも絶対などない。
もし本能に理性が打ち勝ったとしたら…どうなるの?

ガクガクッ……。
恐ろしい考えに身体が震えてしまう。
 

私が辿り着いた答えは『番の拒絶』だった。
そう考えればすべてが納得がいった。

・会いに来ない竜王。
・何不自由ない生活だが、手紙の一枚も送られてこない現実。
・他人行儀な家族。きっと私が竜王様から嫌われているのを知って疎ましく思った結果だろう。
・後宮の継続。

すべての事象が導き出した答えにぴったりと繋がっていく。


もしかしたら間違っているかもと、縋る思いで何度も何度も考え直すが、辿り着く答えは変わらなかった。

『竜王様にははいらない。
彼の幸せの為にはは必要ない』

自分で出した正解に打ちのめされる。
どんなに厭われていても、番である竜王様を想う気持ちは変わらない。それどころか増している。

それは抗えない獣人の本能なのかもしれないが、この想いは私にとって真実だ。

でも竜王様の気持ちを知った今は『竜王を幸せにすること』に全力を注がなければと心が教えてくれる。

番の幸せこそが私の幸せ。

真剣に番の幸せを考えていると、ふいに鏡に映ったあの子が話し掛けて来た。

『アン、ミツケタミタイダネ。シアワセダト、オモウコト』

『ええ…、見つけたけど、具体的にどうすればいいかは分からなくて…』

『クスクス。アン、ウソハヨクナイヨ。
モウワカッテイルジャナイ。リュウオウガノゾムコトハ、アレシカ、ナイデショウ』

勿体ぶった言い方をされイラッとする。
苛立ちを隠さずに鏡を睨むと、鏡の中にいるはずのあの子の声と私の声がなぜか重なって聞こえてくる。


 スキデモナイ番が永遠にソバにいたら竜王様はシアワセニナレナイワ。
 フフフ、ワカッテイるでしょう~♪
 分からナイフリはモウ止めましょう、アン。

 彼はきっと貴女のシをヨロコぶわ。
 分かるでしょウ?
 考えるまでもないカンタンなことだわ。
 クスクス、ククッ……。

 ねぇ、竜王を幸せにできるのはアナタだけよ。
 解放してあげましょうよ~。
 
 ふふ、言ってやったわ。
 あーすっきりした、あっはっは…はっは……。


耳をいくら塞いでも頭の中に笑い声が響いてくる。

鏡のなかにいるあの子のほうを見るとそこにあの子はいなかった。
狂ったように笑っている私自身の姿が映っているだけ。

 えっ…、わ、わた…し…。
 あれ…は、わた…。

戸惑っているはずなのに、鏡に映る私は醜く笑っている。


あっは…っはっは…。
うふふ、あはは…、…うっうう…ぅくっ…。


狂気に満ちた笑いと嗚咽が止まらない。
なぜか涙まで流れている。

 …絶対にしてみせるわ、絶対に。
 だってそれが『私が幸せだと思うこと』だから。

 あっはっは…、あっはっは。
 これでみんな幸せよ。
 彼はきっと笑ってくれるわ…。


私とあの子が一つに重なる、番を幸せにできる完璧な私になれたのだ。
もう朧気となっている番の笑った顔を思い出しながら、自分が番を幸せ出来る幸福感に酔いしれていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者に愛する人が出来たので、身を引く事にしました

Blue
恋愛
 幼い頃から家族ぐるみで仲が良かったサーラとトンマーゾ。彼が学園に通うようになってしばらくして、彼から告白されて婚約者になった。サーラも彼を好きだと自覚してからは、穏やかに付き合いを続けていたのだが、そんな幸せは壊れてしまう事になる。

【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。 彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。 自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。 「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」 異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。 異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸
恋愛
 フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。  すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。  メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。  しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。  それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。  そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。  変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな
恋愛
 大好きだった人。 一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。  なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。  もう誰も信じられない。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!

ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。 自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。 しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。 「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」 「は?」 母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。 「もう縁を切ろう」 「マリー」 家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。 義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。 対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。 「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」 都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。 「お兄様にお任せします」 実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。

私も貴方を愛さない〜今更愛していたと言われても困ります

せいめ
恋愛
『小説年間アクセスランキング2023』で10位をいただきました。  読んでくださった方々に心から感謝しております。ありがとうございました。 「私は君を愛することはないだろう。  しかし、この結婚は王命だ。不本意だが、君とは白い結婚にはできない。貴族の義務として今宵は君を抱く。  これを終えたら君は領地で好きに生活すればいい」  結婚初夜、旦那様は私に冷たく言い放つ。  この人は何を言っているのかしら?  そんなことは言われなくても分かっている。  私は誰かを愛することも、愛されることも許されないのだから。  私も貴方を愛さない……  侯爵令嬢だった私は、ある日、記憶喪失になっていた。  そんな私に冷たい家族。その中で唯一優しくしてくれる義理の妹。  記憶喪失の自分に何があったのかよく分からないまま私は王命で婚約者を決められ、強引に結婚させられることになってしまった。  この結婚に何の希望も持ってはいけないことは知っている。  それに、婚約期間から冷たかった旦那様に私は何の期待もしていない。  そんな私は初夜を迎えることになる。  その初夜の後、私の運命が大きく動き出すことも知らずに……    よくある記憶喪失の話です。  誤字脱字、申し訳ありません。  ご都合主義です。  

処理中です...