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11.記憶の喪失②〜エドワード視点〜
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自分のなま…え…?
えっ…なんで出てこないんだ。
では家は…家族は…。
いくら考えても名前も住んでいた場所も家族のことも出てこない。そもそも家族がいたのかすら自分では分からなかった。
必死になって思い出そうとするが一文字も浮かんでこない。
まるで真っ白なキャンパスから無い色を無理矢理見つけ出そうとしているみたいだ。
だが求められている答えを持たない人間はいないはず、誰だって名無しのまま生きてはいない。
それなのに名すら分からない今の俺は異常だ。
不安と混乱からか胸が苦しくなり言い表せない恐怖に襲われる。だが何が怖いのかさえ分からない。
頭を掻きむしりながら『俺は…俺は……』と何度も呟く。その先を続けられないのがこんなにも苦しいなんて。
しっかりしろっ。
早く思い出すんだ、ないはずなんてないんだから。
どうして、どうして…。
わからないんだっーーーーー!
『うあぁぁああ…』と唸るような叫び声が漏れる。
視力の欠如が何も分からない恐怖に拍車を掛け、正常な判断が奪われていく。
これが…これがいけないんだっ、こんなものっ!
目に巻かれている包帯を取れば何かが変わるのではないかと思えた。
焦る気持ちのままに包帯をむしり取ろうとすると、その俺の手は柔らかい2つの手に止められた。
「これを取っては絶対にだめですからっ!」
「離してくれっ!何も分からないんだ、自分のことなのにっ!きっとこの包帯を取って何かを見れば思い出せるはずだっ。邪魔しないでくれ!」
暴れる俺を必死で止めようとする手を乱暴に振り払った。『ドンッ』という鈍い音とともに『痛っ…』という声が聞こえる。俺が振り払ったせいで倒れてしまったのだろう。
そんなつもりはなかったのに、人を傷つけてしまったことで少しだけ冷静さを取り戻す。
「…す、すまない……」
「いいえ、大丈夫ですから気にしないでください。それよりあなた、記憶が…。マイク先生、これってどういうことですか?」
女性がそう言うと、『ふむ、これは…』と言ったあとマイクという医者は俺に様々なことを訊ねてきた。
名前・年齢・住んでいる場所・両親・家族・川に流された経緯・国王の名前・道具の名前・料理など。
なんでこんなおかしなことを聞くんだと思うようなことまで質問してくる。
だが疑問をぶつけるより、早くこの状況をどうにかしたくて真面目に答えていく。
どれくらいの時間を掛けたか分からないほど長時間話していたと思う。
そして医者が出した結論は驚きべきものだった。
「お前さんは記憶を失っているようだ。原因は分からん。激流に揉まれている時に頭を強打したせいなのか、心因性のものなのか、それとも誰かに殴られたのか…。
だがすべての記憶を失っているわけではない。こうして医者という職業は理解しているし、計算や教養や風呂や言葉や食事など生活に関わることや貴族や平民といった社会の仕組みもだいたい分かっておるようだ。
記憶がないのは自分に関することだけのようだな。名前、家族、年齢、職業、友人などがポッカリと抜け落ちている」
…記憶喪失だって?
そんなことって……あるのか…?
自分の身にそんな事が起こるなんて考えたこともなかった。いいや、実際には以前の自分を覚えていないのだから、考えたことはないと思う…が正しいのかもしれないが。
診断には驚いたが間違っているとは思わなかった。だって現実に俺は記憶がないのだから。
「先生っ、どうすればいいんですか?薬を飲めば治りますか?」
何も分からないままではいたくない。
「…記憶喪失といっても症状は様々で治療法も確立されておらん。時間とともに自然と思い出すことも多いようだが、何らかのきっかけで一気に思い出すこともあるみたいだ。だが一生思い出さないままもあるらしい。
これの厄介なところは、症状も様々なら記憶の戻り方も様々で、一概にこうだと言えんところなんだ。
兎に角、今は記憶のことより身体を治すことを優先させたほうがいいだろう」
そんなことを言われても納得など出来るはずもなく、不安から『なんとかなりませんかっ!』と声を荒げると、宥めるように話しかけてくる。
「男爵家でも町の方にお前さんのことを問い合わせている。話した感じではお前さんはある程度の家柄なんだと思う。だから家族の方もお前さんを心配して探しているだろうから、記憶が戻らなくてもすぐに誰だか判明するだろう、焦る必要はない。
それに記憶と取り戻そうと考えれば考えるほど、何も思い出せない自分を追い詰めることになり精神的にまいってしまうぞ。そのほうが良くない、身体にも障るからな」
「……はい、分かりました」
記憶がない苛立ちから不安が増していくが、何もできない自分はそう言うしかなかった。
『一体俺は誰なんだ…』と頭のなかで自問自答を繰り返す。焦るなと言われたが、考えずにいるなんて無理だった。
得体のしれない喪失感が恐ろしくて堪らない。
えっ…なんで出てこないんだ。
では家は…家族は…。
いくら考えても名前も住んでいた場所も家族のことも出てこない。そもそも家族がいたのかすら自分では分からなかった。
必死になって思い出そうとするが一文字も浮かんでこない。
まるで真っ白なキャンパスから無い色を無理矢理見つけ出そうとしているみたいだ。
だが求められている答えを持たない人間はいないはず、誰だって名無しのまま生きてはいない。
それなのに名すら分からない今の俺は異常だ。
不安と混乱からか胸が苦しくなり言い表せない恐怖に襲われる。だが何が怖いのかさえ分からない。
頭を掻きむしりながら『俺は…俺は……』と何度も呟く。その先を続けられないのがこんなにも苦しいなんて。
しっかりしろっ。
早く思い出すんだ、ないはずなんてないんだから。
どうして、どうして…。
わからないんだっーーーーー!
『うあぁぁああ…』と唸るような叫び声が漏れる。
視力の欠如が何も分からない恐怖に拍車を掛け、正常な判断が奪われていく。
これが…これがいけないんだっ、こんなものっ!
目に巻かれている包帯を取れば何かが変わるのではないかと思えた。
焦る気持ちのままに包帯をむしり取ろうとすると、その俺の手は柔らかい2つの手に止められた。
「これを取っては絶対にだめですからっ!」
「離してくれっ!何も分からないんだ、自分のことなのにっ!きっとこの包帯を取って何かを見れば思い出せるはずだっ。邪魔しないでくれ!」
暴れる俺を必死で止めようとする手を乱暴に振り払った。『ドンッ』という鈍い音とともに『痛っ…』という声が聞こえる。俺が振り払ったせいで倒れてしまったのだろう。
そんなつもりはなかったのに、人を傷つけてしまったことで少しだけ冷静さを取り戻す。
「…す、すまない……」
「いいえ、大丈夫ですから気にしないでください。それよりあなた、記憶が…。マイク先生、これってどういうことですか?」
女性がそう言うと、『ふむ、これは…』と言ったあとマイクという医者は俺に様々なことを訊ねてきた。
名前・年齢・住んでいる場所・両親・家族・川に流された経緯・国王の名前・道具の名前・料理など。
なんでこんなおかしなことを聞くんだと思うようなことまで質問してくる。
だが疑問をぶつけるより、早くこの状況をどうにかしたくて真面目に答えていく。
どれくらいの時間を掛けたか分からないほど長時間話していたと思う。
そして医者が出した結論は驚きべきものだった。
「お前さんは記憶を失っているようだ。原因は分からん。激流に揉まれている時に頭を強打したせいなのか、心因性のものなのか、それとも誰かに殴られたのか…。
だがすべての記憶を失っているわけではない。こうして医者という職業は理解しているし、計算や教養や風呂や言葉や食事など生活に関わることや貴族や平民といった社会の仕組みもだいたい分かっておるようだ。
記憶がないのは自分に関することだけのようだな。名前、家族、年齢、職業、友人などがポッカリと抜け落ちている」
…記憶喪失だって?
そんなことって……あるのか…?
自分の身にそんな事が起こるなんて考えたこともなかった。いいや、実際には以前の自分を覚えていないのだから、考えたことはないと思う…が正しいのかもしれないが。
診断には驚いたが間違っているとは思わなかった。だって現実に俺は記憶がないのだから。
「先生っ、どうすればいいんですか?薬を飲めば治りますか?」
何も分からないままではいたくない。
「…記憶喪失といっても症状は様々で治療法も確立されておらん。時間とともに自然と思い出すことも多いようだが、何らかのきっかけで一気に思い出すこともあるみたいだ。だが一生思い出さないままもあるらしい。
これの厄介なところは、症状も様々なら記憶の戻り方も様々で、一概にこうだと言えんところなんだ。
兎に角、今は記憶のことより身体を治すことを優先させたほうがいいだろう」
そんなことを言われても納得など出来るはずもなく、不安から『なんとかなりませんかっ!』と声を荒げると、宥めるように話しかけてくる。
「男爵家でも町の方にお前さんのことを問い合わせている。話した感じではお前さんはある程度の家柄なんだと思う。だから家族の方もお前さんを心配して探しているだろうから、記憶が戻らなくてもすぐに誰だか判明するだろう、焦る必要はない。
それに記憶と取り戻そうと考えれば考えるほど、何も思い出せない自分を追い詰めることになり精神的にまいってしまうぞ。そのほうが良くない、身体にも障るからな」
「……はい、分かりました」
記憶がない苛立ちから不安が増していくが、何もできない自分はそう言うしかなかった。
『一体俺は誰なんだ…』と頭のなかで自問自答を繰り返す。焦るなと言われたが、考えずにいるなんて無理だった。
得体のしれない喪失感が恐ろしくて堪らない。
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