愚か者は幸せを捨てた

矢野りと

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7.現在のサラ

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マキタは二年前に家を出たサラの消息を調べた。調査には時間が掛かるのを覚悟していたが、意外にもすぐに調査人からの報告が上がってきた。

その報告書によるとサラは王都にある子爵家に戻り、再婚はせずに家族と一緒に生活を送っていた。そして一歳になる男の子を育てているとあった、男の子の特徴を確認するとマキタに似ている事が窺えた。

『サラは別れた後、俺の子を一人で産んで育ててくれたのか…』

俺はその事実に嬉しさと共に罪悪感が感じていた。サラは自分の元から離れて行ったが、子供という強い繋がりがあった事実に喜びは湧き上がり止まることはない。それと同時に一緒に育てていくべき子供を無責任にも放置していた罪の意識が胸を締め付ける。

本当なら今すぐに会いに行きたかったが、二年前にあんな事をしておいて会ってくれるかどうか不安だった。なのでまずは子爵家に手紙を出し『サラに会わせて欲しい』と訴えた。公爵家から子爵家への手紙とはいえ、俺の厚顔無恥な願いなど何度かは断られる事を覚悟していたが、『予定が合う時なら会いましょう』と返事を貰えた。


『サラはまだ俺を忘れていない。きっと待っていてくれたんだ』


俺は天にも昇る心地で約束の日を今か今かと待っていた。サラと会う場所は子爵家から近いお店をこちらから指定した。もしかしたら子供も一緒に連れてくるかもしれないと期待していたのだ。子連れでは遠い場所より近い場所の方がいいだろうと。
だが当日その場所に現れたのは愛おしいサラだけだった。
『きっと子供はまだ小さいから昼寝でもしているのだろうな』と都合よく考え、まだ見ぬ我が子の寝姿を想像して幸福感に包まれていた。


俺の座っている席にサラがゆっくりと歩いてきた。久しぶりに会うサラは以前と同じで可愛いらしい女性だった。いや、以前よりも子供を産んだからか落ち着いた美しさが加わり何倍も素敵な女性になっていた。

『あぁサラ、やっと会えた。この日を待ち望んでいたんだ』

俺はサラを見て嬉しさを隠せず満面の笑みを浮かべていたが、サラはどこか困ったような表情をしていた。

「サラ、久しぶりだな。元気だったか」
「ええ、お陰様で私は元気に暮らしているわ。貴方も元気になったようで良かったわね」

そういうサラは以前と同じ穏やかな微笑みを俺に向けてくれていた、さっきの困ったような表情は消えていて俺はホッとしてた。俺はこの時まであの幸せな日々を取り戻せると信じていた。

「二年前はい愚かにも魅了に掛かり、君に酷い事をして本当に済まなかった。だがあの時は俺自身何をしているか分かっていなかったんだ。本心ではサラだけを愛していたし、今もその愛は変わることはない。
魅了が解け君と別れた事実を知った後、後悔しない日は一日たりともない。どうか俺ともう一度やり直してくれないか、サラ」



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