愚か者は幸せを捨てた

矢野りと

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6.サラの記憶②

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翌日彼に執務室へと呼び出された。私は相変わらず体調が悪く、鏡に映る顔は青白く病人のようだったが、行かないという選択肢はなかった。
私はもしかしたらという希望を持ってしまったのだ。昨日決心したはずだけど、まだ諦め切れてない自分がいた。我ながら未練がましいと笑ってしまった。


コンコンコン、ノックをし扉を開けるとそこには彼だけではなく、義父母と知らない男性が待っていた。状況が分からなかったが、ソファに座り誰が話し出すのを待つことにした。


彼はいきなり私に離縁の書類への署名を迫ってきた。だがそれは違った、婚姻無効への署名だった。彼は離縁を求めていたがまさかこの結婚自体を無いことにするとは考えてもなかったので、私は愕然としてしまった。
すると知らない男性が淡々と説明を始めた、彼はどうやらマキタが雇った弁護士のようだった。

弁護士の説明によると私は婚姻届の偽造をしたことになっていた。証人までいるという、なんとそれは義父母だった。彼らには嫁として歓迎されていないのは知っていたが、まさかこんな仕打ちを受けるほど厭われているとは知らなかった…。義父母と少しは歩み寄れていると思い込んでいた私にとって、この仕打ちは耐え難いものだった。

マキタと義父母の冷たい態度でもう希望は一切ないのが分かった。
だがなかなか署名は出来なかった。もうどうしようもないのは分かっているが、彼への愛情がすべて消えたわけではない。
私は涙を浮かべ、お腹に手を当てながら彼に最後の質問した。

『きっと婚姻無効にしたことをいつか後悔をするわ。それでもいいの?』

『後悔はこの結婚自体だ、それにお前と婚姻関係が続くのが苦しみなんだ』

彼の答えは私の中にスッと入ってきた。
もういいよね…と私はお腹に語り掛けたながら、震える手で婚姻無効の書類に署名をした。
そして彼に別れの挨拶をして、侍女達に見送られながら邸宅を後にした。


婚姻無効は受理され、私とマキタの間には最初から何もなかったことにされた。
私達の間には、この先なにがあろうとなんの権利も義務も生じないのだ。

彼はいつか元に戻りこのことを後悔するのだろうか、それとも今のまま幸せに暮らすのだろうか。
私の最愛の人、彼にはいつでも幸せでいて欲しい。
でも私が貴方を幸せにすることはもうないわ。それはどんな事情があったにせよ貴方自身が選んだ道なのだから。

私は愛するこの子と生きていくわ。
『私だけの大切な子、必ず幸せにして見せる』

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