政略結婚の相手に見向きもされません

矢野りと

文字の大きさ
36 / 44

28.暗殺計画にちょっと成長がみられます?

しおりを挟む
ドッドッドッドッド!二頭立ての馬車がスピードを上げて、森の中を疾走している。その左右に護衛騎士ダイとサカトも剣を片手に構えながら併走している。

「右前方の茂みに5人ほど待ち伏せしておるの。ダイは前に出て奴らを蹴散らせ、手加減無用じゃ」
「はい!お任せください」
「サカトは馬車の後方に下がり、後方からの追手を弓で仕留めるのじゃ。行け!」
「はい、一人残らず倒します!」

トト爺が馬車を操りながら、ダイとサカトに指示を与える。二人で10人ほどを相手にするのは、多勢に無勢で無理があると普通は考えるが、彼らは普通の護衛騎士ではない。元諜報部隊のトト爺と離宮で寝食を共にしながら暗殺技術を教え込まれている最強の護衛騎士なのだ。
ダイは馬車を追い越し、前方の茂みから飛び出してきた刺客に対し、騎乗したまま速度を落とさずに切り込んでいく。スピードと強さを持ったダイの剣にまともに太刀打ち出来る者はいなかった。刺客達はあっという間に倒されていく。
サカトはスピードを落とし馬車の後方に下がると、背負っている弓と矢を両手に持ち、体を捻りながら次々と矢を放つ。いとも簡単にやっているが、猫獣人のしなやかな肉体と地獄の訓練によって得られた技術である。騎乗のまま速度を落とさずに、すべての矢を追手の体に沈めていく。

「トト爺、私も戦えるわ!馬車を止めましょう!」
「ホッホッホ。何を言っているのじゃ?このトト爺が馬車を操り、その弟子達が前後を守っているのじゃぞ。無敵以外の何物でもないの。シルビア様は出る幕なしじゃ」
「でも、ダイ達が…」
「「俺達がどうかしましたか」」

いつの間にか、ダイとサカトは馬車の左右に戻り併走していた。二人とトト爺が無事でシルビアはやっと落ち着くことが出来た、見たところ怪我もしていないようだ。だが隣に座るサーサの顔色はまだ白く、今にも倒れそうだ。
今日は財務の仕事をする為に王宮に行く途中であった。新緑に囲まれた道を進んで行くと後ろから五人ほど剣を片手に襲ってきたのだ。トト爺はすぐさまスピードを上げ、巧みに馬車を操りながら指示を飛ばした。
トト爺の的確な判断とダイ達のお陰で何とか凌ぐことが出来たのだ。

「このまま王宮まで、このスピードで行くからの。しっかり座っておるのじゃ~ホッホッホ」

トト爺の口調は戻っているが、その行動は諜報部隊にいた頃と寸分変わらないものであった。


****************************

「シルビア!怪我はないか!」
「大丈夫です、ギルア様。怪我はありません!」

無事王宮についたシルビアを抱き寄せ、どこか怪我をしていないかと身体中くまなく確認をするギルア、その顔色は襲撃されたシルビアよりも悪い。シルビアの無事を確認し終わると、ギルアはさっとお姫様抱っこしてどこかに歩いて行こうとする。慌てたシルビアは顔を真っ赤にして上目使いでギルアを睨み、硬い胸をトントンと叩いて抗議している。

「お,下ろして下さい。恥ずかしいです、みんな見ていますから」
「構わん、見せておけ。そんなことより、大変な思いをしたんだからゆっくり休め。今から俺の部屋に連れて行く」
「ギルア様、私は大丈夫です。それに今から刺客についての話し合いをするのでしょう?私も参加します!」
「駄目だ。俺に任せろ」
「いいえ、自分の身に降りかかっている火の粉は自分でも確認したいです!」

刺客の裏話など耳に入れて不快な思いをさせたくないギルアと自分に関する事は知りたいシルビア、対立する二人はお互い譲れないでいる。

「ギルア様、シルビア様にも参加していただきましょう」
「そうだな。何も知らなければ避けることも出来ん。シルビア様ならどんな話も大丈夫だろ、ワッハッハ」
「ギル坊、自分の惚れた女をよく見るのじゃ。前しか見ない豪胆な女子おなごじゃ。ホッホッホ」
「私は守られるだけではなく、ギルア様と一緒にあゆんでいきたいのです。お嫌ですか?」

みんなのもっともな意見と、お姫様抱っこをされながら上目使いで訊ねるシルビアにギルアは降参するしかなかった。耳と尻尾を下げ、しぶしぶシルビアの参加を許した。

執務室に張りつめた空気が漂うなか、ギルアが信頼出来るメンバーだけを招集し暗殺未遂に関する報告が始まった。

「最近頻発しているシルビアを狙った刺客について、分かった事を報告しろ」
「はい、シルビア様を狙った刺客はどれも部族とは絶縁している獣人でした。金に釣られて安易に暗殺を引き受けたそうです。そしてその獣人を雇った者は人族です。その人物はニギ国の王妃筋の者なのは、すでに確認済みです」
「ニギ国の王妃か…。ありえる話だがなぜ今更シルビアに刺客を送る?獣人の嫁として送り出し満足していたはずではないのか。結婚後も、こちらでのシルビアの様子を探っていたのか?」
「どうやらそうではないようじゃ。ニギ国は今国内の貴族間の争いで経済的に疲弊しておる、遠方のオーサン国の正妃の動向を探らせ続ける余裕はない。こちらからわざわざ情報を提供している者がおるのじゃ!」
「チッ、裏切り者がいたか!トト爺、ソイツを掴めているのか?」
「もちろんじゃ、裏切り者はネリー妃。あやつがシルビア様の現状をニギ国の王妃にわざわざ知らせて、王妃を煽っておるのじゃ。あそこの王妃が執念深いのを上手く利用しているの~、女狐は大したタマじゃ」

裏切り者は国王を支えるべき存在の側妃で、黒幕は同盟国であるニギ国の王妃というとんでもない事実に、その場にいる者達全員から殺気が流れ出し、廊下で控えている侍女数名は執務室から流れ出てくる殺気に耐えられずバタバタと倒れている。そんな空気のなか、シルビアが明るい口調で話し始める。

「だから私の予定を把握し、ドンピシャで刺客を送り込むことが出来たのね!王妃は私を10年間も闇雲に暗殺しようとしてたけど失敗続きで『失敗おばさん』って陰で呼ばれていたの。今回は計画的だからあの王妃にしては『成長したなぁ~』と感心していたのよ。フフフ♪」

(((イヤイヤ、成長とはそんな時に使う言葉じゃないから!どんだけ前向きに捉えんだ!))))
シルビアの『王妃、成長したなぁ~』的な能天気な発言で、場の緊張感がいい意味で和らいだ。

「黒幕と裏切り者、両方分かってんなら叩き潰すのは簡単だろ!腕が鳴るな、ワッハッハ」
「馬鹿犬は単純だの~。証拠が無ければいかんのじゃ、まだ少しばかり足らんの~」
「足りぬなら、作ってしまえ証拠品♪ワッハッハ」
(※鳴かぬなら~ふうに詠んでみよう♪)
「なかなか見所がある犬じゃの~。ギル坊の側近にしておくのは勿体ないの~ホッホッホ」
「ガロンが良い事を言いましたね。では、その方法でよろしいですか」

ガロンの軽いノリに便乗するトト爺と前向きに検討する腹黒ウサギ----これは正しい国家運営の危機である。

「ガロン達の方法も魅力的だけど、ばれた時のリスクが高いわ。オーサン国が不利になっては困るもの」

シルビアは後半はまともな意見だが、前半はかなり危ない事を言っているが誰も突っ込んでこない。『仏のトト』と『ウサギ獣人の突然変異』の汚染はかなり浸透しているのか…。

「中途半端に叩き潰して、また芽が出たら困る。完膚なきまで叩き潰す為に証拠は絶対だ!」

ギルアは賢王らしく、唯一まともな事を言ってくれた。オーサン国の正しい国家運営は、まだ首の皮一枚で繋がっているようだ。

「ではこうしましょう♪私がネリー妃に近づきます、そしたら向こうから何か仕掛けてくるでしょう。その現場を押さえましょう、いわゆる『現行犯だ逮捕するぞ♪』作戦です!」
「それは駄目だ!シルビアが危険過ぎる」
「ギルア様、私は剣術の心得もある『微笑みの王女』なのは当然ご存じでしょ?負けませんわ、どんとこい精神で行くのみです♪」

シルビアは胸を拳でドンと叩きやる気満々だ。負けないぞという心意気を見せるつもりでスカートの下に隠し持っている剣をちらりと見せるつもりが放送事故レベルまで捲れてしまい、周りをドン引かせている。だが本人は気づいていないので幸せである。
(((いつぞやのネリー妃と同レベルだからー!)))

「う、う…だが…、危険なことは…」
「では俺がシルビア様を陰から護衛しよう、これでも側近やってるんだから信用できるよな。安心して任せろ、ワッハッハ」
「ホッホッホ。かかあ天下が夫婦円満のコツじゃぞ、ギル坊。ここはシルビア様の案に乗り、ネリー妃の尻尾を掴んでもらうのじゃ~。ニギ国の王妃は儂とガーザに任せろ、太い尻尾を掴んでくるからの~」

反対一人、賛成多数でシルビアの『現行犯だ逮捕するぞ♪』案が採用される事になった。
ネーミングセンスに問題ありなので、みんなで作戦名の変更を希望したが、
「私、直感が信じます!これが勝利への鍵となるはずです!決して妥協はしませんよ」
ガルルルルと獣人でもないのに、シルビアが威嚇を始めたので、諦める真の獣人達。----獣人達よ、偽獣人に負けていいのか?

完璧なシルビアではあるが、はないのを痛感した一同であった。
(((そういえば【魅惑の当番表】も凄い名前だったな…)))





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません

藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は 愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。 夫が愛人を持つことも、 その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。 けれど―― 跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。 その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。 私は悟ったのだ。 この家では、息子を守れないと。 元々、実家との間には 「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。 ならば話は簡単だ。 役目を終えた私は、離縁を選ぶ。 息子と共に、この家を去るだけ。 後悔しているようですが―― もう、私の知るところではありません。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。 「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」 そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。 ——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。 「最近、おまえが気になるんだ」 「もっと夫婦としての時間を持たないか?」 今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。 愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。 わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。 政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ “白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!

冷遇夫がお探しの私は、隣にいます

終日ひもの干す紐
恋愛
愛人がいるなら、さっさと言ってくれればいいのに! 妻に駆け落ちされた、傷心の辺境伯ロシェのもとへ嫁いでほしい。 シャノンが王命を受け、嫁いでから一年……とんでもない場面に立ち会ってしまう。 「サフィール……またそんなふうに僕を見つめて、かわいいね」 シャノンには冷たいの夫の、甘ったるい囁き。 扉の向こうの、不貞行為。 これまでの我慢も苦労も全て無駄になり、沸々と湧き上がる怒りを、ロシェの愛猫『アンブル』に愚痴った。 まさかそれが、こんなことになるなんて! 目が覚めると『アンブル』になっていたシャノン。 猫の姿に向けられる夫からの愛情。 夫ロシェの“本当の姿”を垣間見たシャノンは……? * * * 他のサイトにも投稿しています。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

婚約破棄されたので、もう誰の役にも立たないことにしました 〜静かな公爵家で、何もしない私の本当の人生が始まります〜

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 完璧であることを求められ続けてきた令嬢エリシア。 だがある日、彼女は一方的に婚約を破棄される。 理由は簡単だった。 「君は役に立ちすぎた」から。 すべてを失ったはずの彼女が身を寄せたのは、 “静かな公爵”と呼ばれるアルトゥール・クロイツの屋敷。 そこで待っていたのは―― 期待も、役割も、努力の強要もない日々だった。 前に出なくていい。 誰かのために壊れなくていい。 何もしなくても、ここにいていい。 「第二の人生……いえ、これからが本当の人生です」 婚約破棄ざまぁのその先で描かれる、 何者にもならなくていいヒロインの再生と、 放っておく優しさに満ちた静かな溺愛。 これは、 “役に立たなくなった”令嬢が、 ようやく自分として生き始める物語。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

処理中です...