3 / 107
1-2 逃走失敗
しおりを挟む
暖炉が赤々と燃える暖かな部屋。壁に掛けられた時計の音がカチコチと時を刻んでいる―。
ここは父の書斎である。私はあの後、有無を言わさず父に腕を掴まれ、書斎に拉致?されてしまったのだった。
そして今私はソファに座らされ、父は背を向けて窓の外に広がるルグラン家の庭を眺めていた。この部屋からは私が捕まってしまった厩舎も良く見える。まさにベストポジションの場所だ。きっと父はこの窓から外を眺め・・私が厩舎へ向かう姿を目にしたのかもしれない。その証拠に厩舎から屋敷へ向かう足跡が新雪の中に刻まれているのがチラリと目に入った。
「シルビア。」
突如父が重々しい口を開いた。
「は、はひっ!」
思わず声が上ずって妙な返事をしてしまった。
「お前・・・今日が何の日か知っているのだろう?」
父はこちらを見向きもせずに背中を向けたまま語る。
「は・・・はい・・・。1月・・1日です・・。」
今日で13回目のループなのだから嫌でも分る。何故なら毎回同じ日に死に・・同じ日に戻っているのだから。
「シルビア。お前は・・・それが分っていて・・一体何所へ行こうとしていたのだ?」
鋭い目つきで睨まれ、背中に嫌な汗が流れて来る。
「あ・・あの・・・お父様・・・。」
私は父を見上げた。栗毛色の髪に琥珀色の瞳の父は今年40歳になるが、とても若々しくまだ麗しい青年の様にも見える。そして早くに妻を亡くしていることから、親戚中から再婚話が持ち上がっているが、頑として首を縦に振らない。その父が・・・今私に対して静かに怒っている。
「何かいいわけがあるなら聞こう。これから王宮に入らなければならないから自分で馬に乗り、辺りを走らせたかったのか?」
「そう、その通りですっ!お父様っ!」
「嘘をつくなっ!」
しかし、呆気なく父に一喝されてしまった。
「この私の目がごまかせるとでも思ったのか?大体トランクケースを2つも馬に括り付けて、近場を走る人間がどこにいる?それにお前が着ている服はどう見ても外出用だ。さあ、本当はどうするつもりだったのだ?」
もうこうなっては正直に言うしかないだろう。
「お父様・・・。」
「何だ?」
「わ、私・・・城へは行きたくありませんっ!どうかこの話断って下さいっ!」
「無理だっ!」
即答する父に自分の心がくじけそうになる。しかし、ここでひいては私は無理矢理王宮へ連れて行かれ・・・最悪13回目の死を迎えてしまうかもしれないのだ。
「お願いです、お父様。私は何所にも行きたくないのです。どうかずっとこの屋敷に置いて下さいませ。もしお父様が私の意見を聞き入れて下さるなら、苦手なダンスの練習もピアノのレッスンも頑張ります。なのでどうか王宮にはやらないで下さい。」
自分の命がかかっているので両手を前に組んで必死に懇願する。
「シルビア・・・。」
すると父が眉を寄せて、ため息をついた。これは・・ひょっとして・・・?
「駄目だ、シルビア。我らは名門とうたわれたルグラン家。王室から直々にお前を寄越すように招待状が届いているのだ。」
「え・・・?招待状が・・・?」
そんな話は初耳だ。近隣諸国の年頃の貴族女性は全員有無を言わさず招集されるのだとばかり思っていたのに、まさか王室から招待状が届いていたなんて・・。
父は書斎の机に向かうと引き出しを開けて1通の手紙を取り出した。
「中を見るとよい。」
「は、はい・・・。」
私は封筒から1通の便箋を取り出し、目を通した。
『エドモンド・ルグラン』伯爵へ
帝国歴280年1月1日、貴殿の令嬢である『シルビア・ルグラン』嬢を我が国の第一王子『アンリ・ベルナール』様の妃候補としてお招き致します。必ず城にお越しいただくようお願い申し上げます。
筆頭代理人より
手紙にはそう書かれていた。
「お・・お父様・・・こ、これは一体・・?」
震えながら父を見上げた。
「分ったか?シルビアよ。お前が・・城に行かなければ、わが家紋を潰す事になるかもしれない。嫌だ、行きたくないだけでは通用しな世界なのだ。お前ももう18歳。未婚で婚約者もいないお前には・・・もはや王宮からの申し出を受け入れるしかないのだ。」
そ、そんな・・・。
13回目のループ・・目覚めてすぐに私は「逃走」という手段を失っていた―。
ここは父の書斎である。私はあの後、有無を言わさず父に腕を掴まれ、書斎に拉致?されてしまったのだった。
そして今私はソファに座らされ、父は背を向けて窓の外に広がるルグラン家の庭を眺めていた。この部屋からは私が捕まってしまった厩舎も良く見える。まさにベストポジションの場所だ。きっと父はこの窓から外を眺め・・私が厩舎へ向かう姿を目にしたのかもしれない。その証拠に厩舎から屋敷へ向かう足跡が新雪の中に刻まれているのがチラリと目に入った。
「シルビア。」
突如父が重々しい口を開いた。
「は、はひっ!」
思わず声が上ずって妙な返事をしてしまった。
「お前・・・今日が何の日か知っているのだろう?」
父はこちらを見向きもせずに背中を向けたまま語る。
「は・・・はい・・・。1月・・1日です・・。」
今日で13回目のループなのだから嫌でも分る。何故なら毎回同じ日に死に・・同じ日に戻っているのだから。
「シルビア。お前は・・・それが分っていて・・一体何所へ行こうとしていたのだ?」
鋭い目つきで睨まれ、背中に嫌な汗が流れて来る。
「あ・・あの・・・お父様・・・。」
私は父を見上げた。栗毛色の髪に琥珀色の瞳の父は今年40歳になるが、とても若々しくまだ麗しい青年の様にも見える。そして早くに妻を亡くしていることから、親戚中から再婚話が持ち上がっているが、頑として首を縦に振らない。その父が・・・今私に対して静かに怒っている。
「何かいいわけがあるなら聞こう。これから王宮に入らなければならないから自分で馬に乗り、辺りを走らせたかったのか?」
「そう、その通りですっ!お父様っ!」
「嘘をつくなっ!」
しかし、呆気なく父に一喝されてしまった。
「この私の目がごまかせるとでも思ったのか?大体トランクケースを2つも馬に括り付けて、近場を走る人間がどこにいる?それにお前が着ている服はどう見ても外出用だ。さあ、本当はどうするつもりだったのだ?」
もうこうなっては正直に言うしかないだろう。
「お父様・・・。」
「何だ?」
「わ、私・・・城へは行きたくありませんっ!どうかこの話断って下さいっ!」
「無理だっ!」
即答する父に自分の心がくじけそうになる。しかし、ここでひいては私は無理矢理王宮へ連れて行かれ・・・最悪13回目の死を迎えてしまうかもしれないのだ。
「お願いです、お父様。私は何所にも行きたくないのです。どうかずっとこの屋敷に置いて下さいませ。もしお父様が私の意見を聞き入れて下さるなら、苦手なダンスの練習もピアノのレッスンも頑張ります。なのでどうか王宮にはやらないで下さい。」
自分の命がかかっているので両手を前に組んで必死に懇願する。
「シルビア・・・。」
すると父が眉を寄せて、ため息をついた。これは・・ひょっとして・・・?
「駄目だ、シルビア。我らは名門とうたわれたルグラン家。王室から直々にお前を寄越すように招待状が届いているのだ。」
「え・・・?招待状が・・・?」
そんな話は初耳だ。近隣諸国の年頃の貴族女性は全員有無を言わさず招集されるのだとばかり思っていたのに、まさか王室から招待状が届いていたなんて・・。
父は書斎の机に向かうと引き出しを開けて1通の手紙を取り出した。
「中を見るとよい。」
「は、はい・・・。」
私は封筒から1通の便箋を取り出し、目を通した。
『エドモンド・ルグラン』伯爵へ
帝国歴280年1月1日、貴殿の令嬢である『シルビア・ルグラン』嬢を我が国の第一王子『アンリ・ベルナール』様の妃候補としてお招き致します。必ず城にお越しいただくようお願い申し上げます。
筆頭代理人より
手紙にはそう書かれていた。
「お・・お父様・・・こ、これは一体・・?」
震えながら父を見上げた。
「分ったか?シルビアよ。お前が・・城に行かなければ、わが家紋を潰す事になるかもしれない。嫌だ、行きたくないだけでは通用しな世界なのだ。お前ももう18歳。未婚で婚約者もいないお前には・・・もはや王宮からの申し出を受け入れるしかないのだ。」
そ、そんな・・・。
13回目のループ・・目覚めてすぐに私は「逃走」という手段を失っていた―。
11
あなたにおすすめの小説
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
【完結】うちの大公妃は肥満専攻です!
ariya
恋愛
ルドヴィカは一度目の人生を虚しく終える時に神に願った。
神様、私を憐れむならどうか次の生は大事な方を守れるだけの知識と力を与えてください。
そして彼女は二度目の人生を現代日本で過ごす。
内科医として充実な人生を送っていたが、不慮の事故によりあえなく命を落とす。
そして目覚めた時は一度目の生の起点となった婚約破棄の場であった。
------------------------------------
※突然イメージ画像が挿絵で出ることがあります。
※ストーリー内に出しているのはなんちゃって医学です。軽く調べて、脚色を加えているので現実と異なります。調べたい方、気になる方は該当学会HPなどで調べることをおすすめします。
※※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています
婚約破棄される前に、帰らせていただきます!
パリパリかぷちーの
恋愛
ある日、マリス王国の侯爵令嬢クロナは、王子が男爵令嬢リリィと密会し、自分を「可愛げのない女」と罵り、卒業パーティーで「婚約破棄」を言い渡そうと画策している現場を目撃してしまう。
普通なら嘆き悲しむ場面だが、クロナの反応は違った。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
断罪の準備は完璧です!国外追放が楽しみすぎてボロが出る
黒猫かの
恋愛
「ミモリ・フォン・ラングレイ! 貴様との婚約を破棄し、国外追放に処す!」
パルマ王国の卒業パーティー。第一王子アリオスから突きつけられた非情な断罪に、公爵令嬢ミモリは……内心でガッツポーズを決めていた。
(ついにきたわ! これで堅苦しい王妃教育も、無能な婚約者の世話も、全部おさらばですわ!)
結婚前夜に婚約破棄されたけど、おかげでポイントがたまって溺愛されて最高に幸せです❤
凪子
恋愛
私はローラ・クイーンズ、16歳。前世は喪女、現世はクイーンズ公爵家の公爵令嬢です。
幼いころからの婚約者・アレックス様との結婚間近……だったのだけど、従妹のアンナにあの手この手で奪われてしまい、婚約破棄になってしまいました。
でも、大丈夫。私には秘密の『ポイント帳』があるのです!
ポイントがたまると、『いいこと』がたくさん起こって……?
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる