お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので

第44話 パメラとパメラの母登場

　その後の父の行動は早かった。父は農園組合の組合長に連絡するように兄に命じ、ウッド氏の農園で働いている労働者たちを全員建物の前に集めて、リーダー達からの聞き取り調査を始めた。
一方、ウッド氏は特権を乱用したと言う疑惑で、農園の運営権限を父によって一時的に奪われてしまった。そして現在…父が聞き取り調査を進めている様子を悔し気に見つめている。

フフフ…何ていい気味なのだろう。今までさんざん労働者たちを苦しめて来たのだ。それ相応の対価を彼には支払って貰わなければ。

私は父とパメラの父親の対照的な様子を少し離れたところから見守っていた。恐らくもうじき兄が農園組合の組合長達をここに連れて来るだろう。そうすればきっとただでは済まないはずだ。


その時―。


「ちょっと！こ、これは…一体何の騒ぎなのっ！」

近くで大声で騒ぐ女性の声が聞こえた。声の方向を振り向くと最近町で流行の高級そうなドレスを着た女性が慌てた様子でこちらに向かって駆けて来る。ひょっとするとあの人物はウッド氏の妻なのかもしれない。そして、その後ろにはパメラも一緒だ。

何てタイミングが良いのだろう。恐らく何処かで自分達の農園が大変な状況に陥っている事を耳にして、慌てて駆けつけて来たのだろう。

「あなたっ！これは一体どういう事なの！」

女性は労働者たちから聞き取捜査をしている父を恨めしそうに見つめているウッド氏のもとに駆け寄り、声を荒げた。

「お父さんっ！誰よ！あの人は！早く追い払って頂戴っ！」

愚かなパメラは今、何が行われているのか全く理解出来ていないのだろう。あろう事か私の父を指さして、とんでもない事を言って来た。

「う、うるさい！お前たち！私だって何が何だか分らないんだっ！」

ウッド氏は妻と娘のパメラを一喝すると、頭を抱えてしまった。

「…」

その様子を少し離れた場所で見守る私。一方、母親とパメラは頭を抱えた父親を激しく問い詰めている。

「何よっ！説明しなさいよ！」
「ええ！そうよ！どうして私たちの農園が他人に乗っ取られているのよ！」

その煩い事…。仕方ない。ここは聞き取り調査で忙しい父に代わって娘の私が説明してあげよう。

私はウッドファミリーに背後から近付くと声を掛けた。

「こんにちは、パメラ」

「えっ？！」

興奮しまくっていたパメラは私の方を振り向き、目を見開いた。

「え…アンジェラさん？な、何で貴女がここにいるのよっ！」

「誰なの？パメラ。お前の友達かい？」

パメラの母は首をかしげて私を見た。

「違うわよっ！彼女は同じ学園の生徒よ！一体何しにここへ来たのよ？あ、ひょっとして…ニコラスがここに来ているかと思ったのかしら？」

「いいえ、そんな用事でここへ来たわけじゃないわ」

「馬鹿っ！パメラッ！この方にそんな口を叩くなっ！」

ウッド氏がパメラを注意する。

「あ、お父さんはこの人が誰か知らないのね？彼女はアンジェラさんと言う方でニコラスの婚約者よ。顔は初めて見るだろうけど彼女の事は知ってるでしょう？」

「ああ…貴女だったのね？ニコラス様に少しも相手にされていな可哀相な子爵家の御令嬢とは…いつも娘がお世話になっております」

パメラの母が何故か勝ち誇ったように私に挨拶してきた。

「おい！お前たち…口を慎めっ！」

ウッド氏はますます顔が青ざめている。

「お父さんたら…何もそんなにビクビクする事無いわよ。だってニコラスの恋人の私の方がいずれ立場は上になるんだから」

「そうね。数年後には…貴女は伯爵夫人になるのだから」

「ええ。そうよ。子爵家の人間なんか恐れるに足りないわよ」

２人の会話を聞いて私は呆れてしまった。全く、何と言う馬鹿な母娘なのだろう。どうもこの２人は大きな勘違いをしているようだ。ここは自分達の立場を分らせた方がいだろう。

「あの…お言葉を返すようですが…」

私が口を開きかけた時…。

「こ、この馬鹿者どもがっ！いい加減にしろっ！！」

ウッド氏が大声で叫んだ―。