身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
278 / 376

15-8 波乱の夜会 6

しおりを挟む
「いえ、別に1人で来たわけではありません。今私の代わりにワインを取りに行って下さっているのです」

アリアドネは素直に答える。

「そうなのですか?ですが、代わりにワインを取りに行ってくれているということは一緒にいらした方は男性ですね?」

「はい、そうです」

「その男性は親しい方なのですか?」

親しい……。
その質問にアリアドネは困ってしまった。自分とエルウィンの関係をどう説明すれば良いのか分からなかったからだ。

「親しい……と言っていいものかどうか……」

考え込むアリアドネに再び男性は尋ねる。

「ひょっとすると、婚姻されているのでしょうか?」

「いいえ、まさか!」

慌ててアリアドネは首を振った。

(私とエルウィン様が婚姻なんて……とんでもない話だわ。あの方は私のような者が本当は傍にいてはいけない方なのだから……)

アリアドネの反応が嬉しかったのか、男性は口元に笑みを浮かべた。

「良かった。その様子では貴女とお相手の方は特別な関係では無さそうですね?」

「ええ、その通りです。私は‥‥…」

そこまで言いかけてアリアドネは自分に話しかけている相手のことが気になり、じっと見つめた。

「何でしょうか?」

「いえ、何故そのようなマスクをされているのかと思いまして」

「ああ、これですか?実は……人にあまり顔を見られたくなかったからです。それで目立たない壁際にいたのですが、やはり人目を避けるかのようにしていた貴女を見かけたので、似たようなものを感じ、お声を掛けさせて頂きました」

「そうだったのですか……」

(ひょっとして、この方は顔に酷い傷でも負っていらっしゃるのかもしれないわ。それでマスクを着けているのかも……)

アリアドネは男性に少しだけ同情心を寄せ始めていた――。



****

 一方、その頃エルウィンはミレーユを前にしていた。

「何だって?お前……今、なんと名乗った?」

エルウィンは内心の動揺を隠しながら、ミレーユを見た。

「はい、アリアドネ・ステニウスです」

何も知らないミレーユはあろうことか、エルウィンの前で堂々と嘘を吐いた。

「アリアドネ……」

(そうか……。この女がアリアドネの姉のミレーユだな?確かにアリアドネに似ているが……)

エルウィンは眉間にしわを寄せた。
外見は似ているものの、アリアドネとミレーユは雰囲気が全く違った。アリアドネは清楚な女性で好感を持てるが、ミレーユは男を誘惑する娼婦その者にしか見えない。エルウィンにとって、軽蔑の存在でしかなかった。

(この女……よくも俺の前で自分がアリアドネだと名乗ることが出来るな)

エルウィンはミレーユを侮蔑の眼差しで見ているが、肝心の本人はエルウィンの視線を心地よく感じていた。

「あの、もしよろしければ少し……バルコニーでお話しませんか?」

ミレーユが妖艶に笑った。

「あぁ、いいだろう。そこへ行って話をしようじゃないか?」

エルウィンも不敵に笑う。
この頃にはエルウィンはアリアドネの存在をすっかり忘れていた。今は目の前にいるミレーユの化けの皮をはがす事だけしか念頭に無かったのであった――。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

政略結婚が恋愛結婚に変わる時。

美桜羅
恋愛
きみのことなんてしらないよ 関係ないし、興味もないな。 ただ一つ言えるのは 君と僕は一生一緒にいなくちゃならない事だけだ。

【完結】恋につける薬は、なし

ちよのまつこ
恋愛
異世界の田舎の村に転移して五年、十八歳のエマは王都へ行くことに。 着いた王都は春の大祭前、庶民も参加できる城の催しでの出来事がきっかけで出会った青年貴族にエマはいきなり嫌悪を向けられ…

赤貧令嬢の借金返済契約

夏菜しの
恋愛
 大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。  いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。  クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。  王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。  彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。  それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。  赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。

処理中です...