お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ連載中

文字の大きさ
72 / 90

6 感じる視線

しおりを挟む
 駅前の繁華街に到着すると、馬車は停車した。

「フローネ、ここから先は人通りが激しい場所になるから一度馬車を降りて歩こう。御者にはここで待機しているようにつたえてあるんだ」

そしてアドニス様は扉を開けると先に降り立ち、手を差し出してきた。

「あ、あの……?」

戸惑っているとアドニス様が首を傾げる。

「どうしたんだ? 降りないのかい?」

「い、いえ。降ります」

差し出された手に掴まり、顔を熱くさせながら馬車を降りた。今までこのようなレディの扱いを受けたことなど無かったし、相手はまるで絵本の中の王子様のように素敵な男性。
ドキドキしないほうが無理も無い。

「それじゃ、プレゼントを探しに行こう。俺にはアデルにどんなプレゼントを買ってあげれば良いか分からないから、フローネが決めて貰えないかな?」

「はい。お任せ下さい」

優しい笑顔を向けてくるアドニス様。そう、これは可愛い妹のプレゼントを買うのが楽しくて笑顔なのだ。
決して私に向けてでは無い、だから……勘違いしてはいけないのだ。

こうして、私とアドニス様のショッピングが始まった――


「それにしても、凄い人ですね」

繁華街をアドニス様と歩きながら、辺りを見渡した。道幅いっぱいに人々が歩いている。

「そうだね。元々買い物客で賑わいのある通りだけど、もうすぐ大きなお祭りが開催される。かなり有名なお祭りだから、別荘を所有している貴族たちは早目に滞在しているんだよ」

「貴族……」

言われて見ると、通りを歩く誰もが皆高級そうな服を着ている。私のように粗末な身なりをしている人物は誰もいない。
こんな私と一緒に歩けば、アドニス様に迷惑をかけてしまう……。

そこで、私は少しだけ後ろに下がって歩き出すとアドニス様が振り返った。

「どうしたんだい? フローネ」

「あの、私は……」

どうしよう、何て答えればいいのだろう。

「あ、ごめん。歩くのが早かったかな? つい、アデルのプレゼントのことで気が急いてしまったようだね」

「い、いえ。違います、決してそのような意味では……!」

そのとき、背後から刺すような視線を感じた。

「え?」

振り向くも、怪しい人影は見当たらない。

「どうしたんだい? フローネ」

アドニス様が不思議そうな顔で尋ねてきた。

「い、いえ。何でもありません」

慌てて首を振りながら思った。
そうだ、きっと私が感じた視線はアドニス様に向けられたものに違いない。

「そうかい? なら行こう。初めはどの店に入ろうか?」

「そうですね……まずは雑貨屋さんへ行ってみませんか? 色々な商品が売っていますよ」

「雑貨屋か……そうだな、行ってみよう」

「はい」

こうして、私とアドニス様は再び繁華街を歩き始めた。

この町に私の知り合いはひとりもいない…‥‥。けれど、アドニス様はこの町の人で、名門侯爵家。
それに、若くて輝くような美貌を持っていらっしゃる。きっとアドニス様に憧れている女性が、たまたま私たちを見かけたのだ。
そして、まるで使用人のような身なりの私が一緒に歩いている姿を見かけて嫉妬されてしまったのかもしれない。

私は自分の中でそう結論付けた。

やっぱり、ここへ来るべきでは無かったのかもしれない。
アドニス様にプレゼントのアドバイスだけして……1人で買い物に来て貰った方が良かったのかも……。

そんなことを考えながら、私とアドニス様は色々な店を見て回った。

そして「ここへ来るべきでは無かった」という私の考えが、現実となる出来事が発生する――
しおりを挟む
感想 381

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

その結婚は、白紙にしましょう

香月まと
恋愛
リュミエール王国が姫、ミレナシア。 彼女はずっとずっと、王国騎士団の若き団長、カインのことを想っていた。 念願叶って結婚の話が決定した、その夕方のこと。 浮かれる姫を前にして、カインの口から出た言葉は「白い結婚にとさせて頂きたい」 身分とか立場とか何とか話しているが、姫は急速にその声が遠くなっていくのを感じる。 けれど、他でもない憧れの人からの嘆願だ。姫はにっこりと笑った。 「分かりました。その提案を、受け入れ──」 全然受け入れられませんけど!? 形だけの結婚を了承しつつも、心で号泣してる姫。 武骨で不器用な王国騎士団長。 二人を中心に巻き起こった、割と短い期間のお話。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

お認めください、あなたは彼に選ばれなかったのです

・めぐめぐ・
恋愛
騎士である夫アルバートは、幼馴染みであり上官であるレナータにいつも呼び出され、妻であるナディアはあまり夫婦の時間がとれていなかった。 さらにレナータは、王命で結婚したナディアとアルバートを可哀想だと言い、自分と夫がどれだけ一緒にいたか、ナディアの知らない小さい頃の彼を知っているかなどを自慢げに話してくる。 しかしナディアは全く気にしていなかった。 何故なら、どれだけアルバートがレナータに呼び出されても、必ず彼はナディアの元に戻ってくるのだから―― 偽物サバサバ女が、ちょっと天然な本物のサバサバ女にやられる話。 ※頭からっぽで ※思いつきで書き始めたので、つたない設定等はご容赦ください。 ※夫婦仲は良いです ※私がイメージするサバ女子です(笑) ※第18回恋愛小説大賞で奨励賞頂きました! 応援いただいた皆さま、お読みいただいた皆さま、ありがとうございました♪

悪役令嬢なので最初から愛されないことはわかっていましたが、これはさすがに想定外でした。

ふまさ
恋愛
 ──こうなることがわかっていれば、はじめから好きになんてならなかったのに。  彩香だったときの思いが、ふと蘇り、フェリシアはくすりと笑ってしまった。  ありがとう、前世の記憶。おかげでわたしは、クライブ殿下を好きにならずにすんだわ。  だからあるのは、呆れと、怒りだけだった。 ※『乙女ゲームのヒロインの顔が、わたしから好きな人を奪い続けた幼なじみとそっくりでした』の、ifストーリーです。重なる文章があるため、前作は非公開とさせていただきました。読んでくれたみなさま、ありがとうございました。

身代わりの恋だと思っていました〜記憶を失った私に、元婚約者が泣いて縋る理由〜

恋せよ恋
恋愛
「君を愛している。一目惚れだったんだ」 18歳の伯爵令嬢エリカは、9歳年上のリヒャルト伯爵から 情熱的な求婚を受け、幸せの絶頂にいた。 しかし、親族顔合わせの席で運命が狂い出す。 彼の視線の先にいたのは、エリカの伯母であり、 彼の学生時代の恋人で「初めての女性」だった……ミレイユ。 「あの子は私の身代わりでしょう」「私はあなただけなの」 伯母ミレイユの甘い誘惑と、裏切りの密会。 衝撃の事実を目撃したエリカは、階段から転落し、 彼と過ごした愛しくも残酷な二年間の記憶だけを失ってしまう。 「……あの、どちら様でしょうか?」 無垢な瞳で問いかけるエリカに、絶望し泣き崩れるリヒャルト。 裏切った男と、略奪を企てた伯母。 二人に待ち受けるのは、甘い報復と取り返しのつかない後悔だった。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

『悪女と呼ばれた令嬢は、親友の幸せのために婚約者を捨てた』

由香
恋愛
婚約者である王太子を、親友のために手放した令嬢リュシエンヌ。 彼女はすべての非難を一身に受け、「悪女」と呼ばれる道を選ぶ。 真実を語らぬまま、親友である騎士カイルとも距離を置き、 ただ一人、守るべきものを守り抜いた。 それは、愛する人の未来のための選択。 誤解と孤独の果てで、彼女が手にした本当の結末とは――。 悪女と呼ばれた令嬢が、自ら選び取る静かな幸福の物語。

処理中です...