【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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切ない片想い

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エレアーナは、もじもじしながらテーブルの上のカップを手に取り、こくりと喉を潤す。
自分は、沈静効果のあるハーブティーをもっと飲むようにした方がいいかもしれないわ、などと思いながら。

「ふふ、」
「?」

なにかしら。
いつもよりも、もっと、ずっと、優しい表情をなさって。

「・・・恋って、苦しいものですわね」
「・・・え?」

かちゃん。

思わず、手にしていたカップを、無造作に置いてしまって。

・・・いけない。音をたてちゃったわ。

「し、失礼・・・」
「お気になさらないで。物思いにふけるエレアーナさまも素敵ですわよ。ねぇ、恋って想像以上にエネルギーを使いますよね? その方のことを思い出すたび、苦しくて、どうしたらいいのか分からなくて、感情を持て余してしまって、それはもう大変。ねぇ、カトリアナ」
「そうですわ。でも、どれだけ苦しくても、その方のことを知らなかった頃には戻りたくないって思うのが不思議なんですけれど」
「・・・」

目の前にいるのは、目を輝かせて明るく世間の恋を語る、いつものふたりではなくて。

私と同じ、自分の気持ちを持て余して、でもその気持ちが大切で仕方ないような・・・、そんな恋を知る瞳。

「おふたりにも・・・お慕いする方が・・・?」

花のように、ふたりが微笑む。

アリエラさまは、薔薇のように華やかに。
カトリアナさまは、カトレアのように清楚に。

「もちろん、おりましてよ。・・・片想い、ですけれどね」

そしてふたりは互いの顔を見て、ふふっと笑い合った。

ああ、おふたりは、私よりもずっと先にこの感情を知っていたのね。
おふたりが想われる方って、一体、どんな男性なのかしら。

おふたりは、そんな私の考えを見透かしたかのように、人差し指を口に当てて、今はまだ内緒です、と笑った。

「エレアーナさま。わたくしたちに出来ることがありましたら、何でもおっしゃってくださいね?」
「そうですわ。悩みでも愚痴でも惚気でも、溜め込まないでおっしゃってくださいな。ただでさえ、エレアーナさまは大変な状況にあるのですから」

そう言うと、おふたりは私の手を取って真剣な眼差しでこう告げた。

「・・・よく考えて、お心をお決めになってくださいね。誰ひとり悲しまない選択が不可能だとしても。エレアーナさまは、ご自分のお心に従ってくださいませ」
「そうですわ。こればかりは、わたくしたちがお手伝い出来ることではありませんもの」

そして、私を励ますように、にっこりと微笑んで。

「殿下もケインバッハさまも立派なお方です。どちらをお選びになっても、絶対にエレアーナさまを幸せにしてくださると思いますわ。そして、エレアーナさまがどんな選択をなさっても、わたくしたちは変わらずエレアーナさまの友であり、味方ですから」

そんな優しい励ましの言葉を残して、アリエラとカトリアナは暇を告げた。

「今日は、お会い出来て嬉しかったですわ」
「ええ、本当に。また伺わせてくださいね」
「あら、いけない」

エントランスまで見送ろうと歩いていた時、アリエラが思い出したように口を開いた。

「エレアーナさまが気にしておられるかと思って、わたくしたちで先日、ジュールベーヌに行って参りましたの。そちらのご報告を忘れてましたわ」
「まぁ。ぜひ、聞かせてくださいな」
「ここのところ、急に寒くなってきましたけど、酷く調子を崩している子どもたちはいませんでしたわ。でも風邪気味の子が数人ほど」

エレアーナの頭に、ジュールベーヌの子供たちの顔が思い浮かぶ。

「そうですか。その子たちも、こじらせないといいですね」
「たぶん大丈夫だと思いますわ。何ヶ月か前に入られた先生で、薬草の知識もおありの方がおられましたでしょう? あの方が、煎じ薬を作って飲ませるとおっしゃってましたから」

ああ、確か、バークリー先生だったかしら。

今はお見舞いに行くことも叶わない身だから。
薬の知識がある人がいてくれるのは、正直、有り難い。

「ああ。手洗い用の石鹸がもう少しでなくなりそうでした。この寒さでも子どもたちは外で遊びたがるようですが、季節がら、いつもより念入りに手洗いを励行しているらしくて」
「そうですか。では使いに届けさせますわ」
「あらあら、エレアーナさまったら」

ふたりは、きゅっとエレアーナの手を握って笑いかけた。

「もちろん、わたくしたちが届けますわよ。そしてまた、こちらに報告に参ります」
「そんな・・・」
「いいえ、そうさせて下さい。そうしたら、またエレアーナさまに会いに来る口実ができますもの」

ふたりはそう言って、うふふと笑った。

そんな優しいふたりの好意にエレアーナは素直に甘え、とりあえず、エレアーナの手元にあった品を届けてもらうことになった。

気を利かせたアイスケルヒが、そそくさと出て来て、従者たちと一緒に荷物を載せるのを手伝って。

アリエラたちが馬車でブライトン邸を出発したのは、もう夕方近くだった。

この時期は日が落ちるのが早い。
馬車の窓から見える景色は、薄暗くなった家並みに、ところどころ明かりが灯る幻想的なもので。

そんな景色を眺めながら、アリエラが妹に話しかけた。

「エレアーナさまは、どちらの殿方をお選びになるのかしらね」
「・・・どちらを選ばれても、私はこれまで通りエレアーナさまを応援するだけですわ。あの方には、幸せになっていただきたいもの」
「そうね・・・カトリアナ」

少し寂しそうに笑う妹の肩を、そっと抱いて。
アリエラは、ぽそりと呟いた。

「あ~あ、片想いって、本当、切ないわね・・・」
「・・・お姉さまは望みがあると思います。身内贔屓でなく、お姉さまはとても素敵な令嬢ですもの」
「まぁ。ふふ、・・・ありがとう。あなただって、とっても素敵なご令嬢よ? 私が殿下だったら、エレアーナさまと貴女と、どちらにしようか迷うくらい」
「・・・迷います?」
「ええ、もちろんよ。どちらも素敵すぎて、きっと困ってしまうわ」

そう言って、アリエラは可愛い妹の頭を優しく撫でた。
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