【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

文字の大きさ
55 / 256

何者

しおりを挟む
周りに人がいないか確かめてから。
リュークザインは、そっと厩舎の用具小屋から姿を現した。

シャルムがエイモス家で事件を起こしてから、一週間が経過した。

たった一週間。それでも、凄まじい忙しさで。

ファーブライエンは逃げを決め込み、仕事も放棄して邸の中に引きこもり、外部からの連絡を一切受け付けない。
シャルムは、用具小屋で最初こそ大人しくしていたが、だんだんと気も口も緩んできて、いろいろと話したがるものだから王城に報告を飛ばす回数も格段に増えて。

結果、父に代わってライプニヒ公爵家の仕事諸々をやる羽目になった挙句、兄の世話や相談相手(事情聴取)もしているため、今のリュークには時間がどれだけあっても足りないのだ。

兄は、前はあれだけ私のことを毛嫌いしていたというのに。

昔はただの愚かものにしか映らなかった兄の単純さが、ここ数日は、なんだか幼子のように可愛らしく思える時もあって。

まぁ、ここが突かれたんだろうがな、ブルンゲンに。

父に疎まれ、軽んじられて、ただただ愛情と肯定感を求めて、騒ぎ回って。

兄にとっては、たとえ怒りでも、嫌悪でも、無関心よりはマシだったのだろう。
いつの間にやら身についた、人を馬鹿にして見下す口調と尊大な態度に、ますます周囲の人は、兄から離れていく。

父が撒いて、兄自身が育てたこの悪循環の種が、ブルンゲンの手により形作られ、最悪の形で花開いてしまった。

この花は、切り落とされるのか、それとも改良が施されるのか。
それは恐らく、陛下のお心次第というよりは、兄の反省如何にかかっているのだろう。

・・・陛下は、あのようなお方だからな。

そう考えると、今のこの殺人的な忙しさも、なかなかに価値のあるもののように思えるのだ。

・・・しかし、父はやはり、予想通りといおうか。
はたまた、予想以上というか。

王城からの使いにも、エイモス家からの知らせにも、邸から一歩も出ず、具合が悪いだの、忙しいだの、なんだかんだと無視し続けて。

こんな方法が、本当に最後まで通じると思っているのだろうか、と。
もはや呆れを通り越して感心してしまいますよ、父上。

く、とリュークの口元に、自嘲の笑みが浮かぶ。

さすがは、歴史あるライプニヒ公爵家に終わりをもたらす者だけのことはある。
祖父も、あんな息子を持って、さぞや無念だったことろう。

ジルベルト・ライプニヒ。
当時、幼かったリュークザインにとってただ一人、ライプニヒ公爵家の中で話が通じた人物。

頭の回転が速くて、恐ろしいほどの皮肉屋で、でも実は真っすぐな人で。

祖父上。
貴方ほどの切れ者の息子が、あれほど愚かだったことは。
・・・本当に、本当に、残念に思っています。

せめて貴方が、あれほど早くにお亡くなりにならなければ。
そして私と貴方が、ふたりで共に尽力できていたら。
父を抑え込むことも出来たのでしょうか。

空を見上げ、どこまでも澄んだ冬の空気を吸い込む。

ライプニヒ公爵家は、終わりを迎えるべくして終わるのです。
・・・私ひとりでは、これが精一杯でした。

祈るように、呟いた。

「・・・リュークザインさま」

自分を呼ぶ声に、はっと振り返る。
短く刈り込んだ藤色の髪の使用人が、後ろに控えている。

「・・・ファイ、か」
「すみません。お邪魔でしたでしょうか」
「いや、・・・大丈夫だ。どうかしたか?」
「また王城から使いが来ております。ご当主様にはお取次ぎできませんので、こちらに・・・」
「ああ、そうか。・・・そうだな、今行く」

ファイからの知らせを受けて、自邸のエントランスへと足を向ける。

顔をきりりと引き締め、足早に立ち去るリュークザインを、ファイは頭を下げて見送る。

歩を進めながら、リュークは頭の中で考えを巡らせていた。

ここに来て、急ぎ調べを入れなければならない件が出てくるとは。

・・・くそ、この忙しいときに。

あの男。
本当にただの御者なのか?

この私が、声をかけられるまで気配を感じなかった。

・・・ファイ。
お前は、何者だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています

鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。 けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。 指示を出さない。 判断を奪わない。 必要以上に関わらない。 「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。 それなのに―― いつの間にか屋敷は落ち着き、 使用人たちは迷わなくなり、 人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。 誰かに依存しない。 誰かを支配しない。 それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。 必要とされなくてもいい。 役に立たなくてもいい。 それでも、ここにいていい。 これは、 「何もしない」ことで壊れなかった関係と、 「奪わない」ことで続いていった日常を描く、 静かでやさしい結婚生活の物語。

【完結】脇役令嬢だって死にたくない

⚪︎
恋愛
自分はただの、ヒロインとヒーローの恋愛を発展させるために呆気なく死ぬ脇役令嬢──そんな運命、納得できるわけがない。 ※ざまぁは後半

むにゃむにゃしてたら私にだけ冷たい幼馴染と結婚してました~お飾り妻のはずですが溺愛しすぎじゃないですか⁉~

景華
恋愛
「シリウス・カルバン……むにゃむにゃ……私と結婚、してぇ……むにゃむにゃ」 「……は?」 そんな寝言のせいで、すれ違っていた二人が結婚することに!? 精霊が作りし国ローザニア王国。 セレンシア・ピエラ伯爵令嬢には、国家機密扱いとなるほどの秘密があった。 【寝言の強制実行】。 彼女の寝言で発せられた言葉は絶対だ。 精霊の加護を持つ王太子ですらパシリに使ってしまうほどの強制力。 そしてそんな【寝言の強制実行】のせいで結婚してしまった相手は、彼女の幼馴染で公爵令息にして副騎士団長のシリウス・カルバン。 セレンシアを元々愛してしまったがゆえに彼女の前でだけクールに装ってしまうようになっていたシリウスは、この結婚を機に自分の本当の思いを素直に出していくことを決意し自分の思うがままに溺愛しはじめるが、セレンシアはそれを寝言のせいでおかしくなっているのだと勘違いをしたまま。 それどころか、自分の寝言のせいで結婚してしまっては申し訳ないからと、3年間白い結婚をして離縁しようとまで言い出す始末。 自分の思いを信じてもらえないシリウスは、彼女の【寝言の強制実行】の力を消し去るため、どこかにいるであろう魔法使いを探し出す──!! 大人になるにつれて離れてしまった心と身体の距離が少しずつ縮まって、絡まった糸が解けていく。 すれ違っていた二人の両片思い勘違い恋愛ファンタジー!!

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

私が行方不明の皇女です~生死を彷徨って帰国したら信じていた初恋の従者は婚約していました~

marumi
恋愛
「あら アルヴェイン公爵がドゥーカス令嬢をエスコートされていますわ」 「ご婚約されたと噂を聞きましたが、まさか本当だとは!」 私は五年前までこの国の皇女エリシアだった。 暗殺事件に巻き込まれ、幼なじみで初恋の相手だった従者――アルヴェイン公子と共に命からがら隣国、エルダールへ亡命した。 彼の「必ず迎えに来る」その言葉を信じて、隣国の地で彼を待ち続けた……。 それなのに……。 やっとの思いで帰国した帝国の華やかなパーティー会場で、一際目立っているのは、彼と、社交界の華と言われる令嬢だった――。 ※校正にAIを使用していますが、自身で考案したオリジナル小説です。 ※イメージが伝わればと思い、表紙画像をAI生成してみました。

処理中です...