【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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王の処遇

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シェドラーは、顎に手を当てて、考え込んでいた。

「ファイ・・・ですか? 腕の良い御者ですし、仕事ぶりも至って真面目です。もう10年以上、当家に仕えている信頼のおける男ですが、彼が何か?」

10年以上・・・。

「いや、何でもない。それより、王城からの使者が来ていると聞いたが・・・」
「サロンにて、お待ちいただいています」
「そうか、わかった」

サロンに向かいながら、先ほどのシェドラーの返答について考える。

長く当家に仕えているようだし、シェドラーの信用も厚いようだ。
気配がなかったのは気になるが、考えすぎか・・・?

サロンに入り、王城からの使いに挨拶をしようとして、リュークザインは目を見張った。
そこに居たのは、シュタインゼン・ダイスヒル宰相とその息子、ケインバッハ・ダイスヒル。

そして、よくよく見れば、側に控える従者は、ベルフェルトではないか。

従者服に完璧に馴染んでいるベルフェルトは、どんな方法を使ったのか、外見を徹底的に地味にまとめあげていて。
恐らく、出迎えた邸の者は誰ひとり、ベルフェルトの存在に気づかなかっただろう。

・・・いつもながら、見事に姿を変えるものだ。

まあ、王城からの使いと共に、従者として直接ここに乗り込めば、手間も時間も省けるのはわかるが。

軽く咳払いをして、形式的な挨拶を交わす。
国王より、ライプニヒ公爵家の当面の処遇が決まったとのことで、まず人払いをして。

事情を知る者のみになったところで、シュタインゼンは口を開いた。

「おやおや。少々、やつれたんじゃないのかい? リュークザイン」
「致し方ありません。少々忙しすぎますので」

まぁ、それはそうだよね、と明るく笑うシュタインゼンは、相変わらずのタヌキ親父で。
これがどうにも憎めないから、羨ましい性格だとつくづく思う。

「・・・それでね、リュークザインが過労で倒れたら大変だ、ということで、少々調整を入れることになったんだよ」

そう言って、陛下からの指示を伝え始めた。

「まず一つ。エイモス家からの訴えを受け止める形で、シャルムを自邸謹慎とする。君、彼に相当、時間取られてるだろう? 邸に戻して、召使いたちからの世話を受けられるようにした方がいいだろう、という陛下のご判断だ。まぁ、馬番とか召使いあたりから潜伏先がバレたとか何とか、適当に理由つけて、邸に戻してくれるかい?」
「承知しました」

正直、これはとても助かる。
シェドラーと私のふたりでは、兄の要望に応えるのも限界が来ていたから。

「ただね、これはあくまで当面の措置ということで話を通しておいてくれるかい? 最終的な処遇は、彼の態度を今しばらく観察してからになるから」

当然だろう、とリュークザインは頷いた。

「そして、二つ目だ。ファーブライエン・ライプニヒに賢者くずれによる混乱および害悪の責任を問い、ライプニヒ公爵家の爵位を剥奪する」

リュークの肩が、一瞬、ぴくりと反応する。

「・・・なお、長男シャルムを廃嫡し次男リュークザインを後継とする場合に限り、爵位剥奪を猶予し、名誉回復の機会を当家に与えるものとする」

・・・は?

シュタインゼンの眼が、きらりと光る。

「なんだい? その顔は」
「いえ・・・」

シュタインゼンが満面の笑みで会話を続ける。

「どうせ彼、もう引きこもってるんだろう? 役目も全部、君が代行してると聞いてるよ。それならもう、爵位もついでに取り上げてしまいなさい。仕事ばかり押し付けられて、肝心の爵位だけお預けなんて、おかしすぎる話だろう」
「・・・まぁ」
「はい。ここに、陛下の認印付きの正式な書状もあるから。これをファーブライエンに突きつけてやりなさい」
「は・・」
「どうしたんだい? 君が後継にならないと、ライプニヒ家は永久に爵位を失うよ」

・・・いや、そういうことでは、なく。

ライプニヒ家は。
ライプニヒの家門が、残るということか・・・?

隅に控えているベルフェルトが、ふっと笑むのが見える。

まさか。

ベルフェルトが、一歩、進み出た。

「我が友、そして次期ライプニヒ公爵リュークザイン。本日は、こんなナリで誠に失礼ではあるが、ひとつ、ご挨拶をさせていただこう。・・・これからも、よろしくお頼み申し上げる、とね」
「あー、そうそう。言い忘れてたけど、こちらの従者もね、エイモス伯爵家の次期当主として務めることが決定したからね。若き当主同士、仲良く頑張って」

ぱちり、と宰相が片目を瞑って、悪戯っぽく笑う。

「宰相のお言葉通りだ。・・・まぁ、お互い、不祥事を起こした家の次期当主となるわけだな。共に研鑽を積み、汚名返上に力を注ごうではないか」
「・・・そ、れは・・・」

何故だろう。
脳裏に祖父の顔が浮かんで。

「誠に・・・ありがたき幸せに、ございます」
「・・・陛下も、王弟殿下も、君たちのことを高く評価して下さっていたことは知ってるよね。そして、大事に思ってることも」
「・・・存じております」
「だが、ここで気を抜かないでおくれよ。ファーブライエンが大人しく沙汰に服するかどうかも定かではないし、なにより、賢者くずれという未だ詳細も掴めていない敵が、いつ現れるか分からない大事な局面にあるからね」

ソファの背もたれに寄りかかりながら、重々しい口調でそう言って。

「まぁ、賢者くずれの責任を、と言ってもねぇ。この件に関して、ファーブライエンを問い詰めたって、私たちが既に得た情報以上のものは持っていない事はわかりきってるからね。それなら、このまま邸内に閉じ込めておいた方がいいだろうという事になったんだよ。爵位も失ったことだし、お望み通り、好きなだけ引きこもってもらおうじゃないか」

シュタインゼンは珍しく、少々意地の悪い笑みを浮かべた。
恐らくは彼も、あの自己愛甚だしい父の、見事なまでの職務怠慢と徹底的な責任放棄ぶりに腹を据えかねていた一人なのだろう。

髭を右手で撫でながら、シュタインゼンは言葉を続ける。

「陛下は、事が済んだ暁には、ハトたちにもそれぞれ報賞を与えるおつもりでいるからね。そちらの方も安心して大丈夫だよ」

・・・器の違いとは、こういうことか。

などと、珍しく素直に感じ入っていたら、とどめの一発を頂いた。

「あ、そうそう。これからは、表舞台での活躍も見せてくれとの仰せだ。期待してるよ、陛下ご自慢の臣下たち」

「・・・言われずとも」

深く頭を垂れる。

・・・ええ、もう参りましたよ、陛下。
どこまでもお供させていただきますとも。
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