【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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人たらし

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庭園に向かうふたりの後ろ姿を見送った後。
リュークザインは、妹の振る舞いを謝罪しようとシュタインゼンに声をかけた・・・が。

「ダイスヒル宰相、妹が・・・」
「あ~、別に謝ったりとかいらないからね」
「・・・は・・」

先回りで断りの言葉が入る。

「シュリエラ嬢は、なんだか随分と痩せてしまったようだが。・・・彼女はまだ、ファーブライエンに刷り込まれた幻想が解けてないのかねぇ」

誰に言うともなく、小さな声で呟いたその言葉の鋭さに、その場にいた全員がぴしりと固まる。

ぼんやりしてる風を装って、そういうことを言うからタチが悪いのだよな、この男は。
おやおや、シェドラーがおろおろと、宰相の反応を伺っているぞ。

シェドラーは、絡め手に弱いからな。

まったく。
従者の格好で身を隠していなければ、はっきりと言ってやるものを。
この男は、真面目に対応すればするほど、肩すかしを食らわされるぞ、と。

そんな他愛もないことを、つらつらと考えていた、そのとき。

「まぁ、ケインなら、彼女の目を覚ましてあげられるかもしれないねぇ。多分、安心して待ってて大丈夫だろうよ」

そんなことを、さらりと予告して。
どこから湧いてくるのだと言いたくなる程の自信を、息子にお持ちのようだ。

「もう一度、サロンに戻ってお待ちになりますか?」
「うーむ、きっとそんなに時間はかからんとは思うんだが、まぁ、座って待っている方が楽かもしれないね。どれ、ちょっと戻らせてもらおうか」
「シェドラー、すぐに温かいお茶を」
「かしこまりました」

シェドラーが、ダイスヒル宰相を再びサロンへと案内する後姿を見送っていたら、リュークザインが、すっとこちらに寄って来る。
そして、妙な質問をした。

「ベル、お前・・・この邸で働いているファイという男を知っているか?」
「ファイ・・・?」

その名前に、一瞬、はて、となる。
そんな名前の奴などいたっけか? と。

だがすぐに、ああ、あの男かと思い出して。

「お前のところの御者だろう? もう10年近く働いてる奴じゃないか。その男がどうかしたのか?」

なぜお前の邸の使用人のことを、わざわざ他所の家の者であるオレに聞いてくるのだ?

オレの反応をじっと観察していたリュークは、少し思案してから、なんでもないと呟いて。

いやいや、どう見てもなんでもないようには見えないのだが。

「リューク?」
「いや。少し・・・気になっただけだ」

気になった?
使用人が?

少々気になってリュークの顔を覗き込むと、本人は至って真面目顔だ。
まぁ、オレと違って、悪ふざけでこのような事を言ったりする男ではないのは、重々承知しているが。

「・・・なにか、あったのか?」
「いや、・・・何もない。何もないから、かえって気になってしまってな」
「は?」

言ってることが、まるで謎かけだな。
リュークらしくもない、回りくどい表現。

いや、・・・これはリューク自身も測りかねている、といったところか。

「おい、リュー・・・」
「お待たせいたしました」

さらに詳しく聞こうとしたところに、ケインバッハが庭から戻ってきた。
エントランスにオレとリュークしかいないのを見て、軽く周囲を見回して。

「・・・父は?」

その問いに、ふと、思いついた悪戯。
ただ普通に答えるのも芸がないかと、その程度の。

「あー、急ぎ片付けたい仕事があるようでな・・・先に帰ると、つい先ほど」
「そうですか。そんなに長く待たせたつもりはなかったのですが・・・」

だがしかし、通じない、と。そうくるか。

・・・この男の将来が、少し心配になってきたぞ。

言った本人が窘めるのも甚だしい筋違いなのだが、少しばかり忠告しておこうかと、そんな軽い気持ちで。

「いやいやいや、ケインバッハ。どうしてそんな簡単に、人の言う事を信じてしまうんだい?」
「どうして・・・とは?」
「さっきのオレの言葉はただの冗談にすぎないが、一事が万事、人は必ず君に真実のみを告げるわけでもあるまいに。少しは疑うことを覚えないと、悪意ある噓を吹き込むような輩がいれば、君のような真っすぐすぎる男はすぐに格好の餌食にされてしまうぞ」

オレとしては、ガラにもなく、親切心からの真面目な忠告であった。
ところが、この男は。

「・・・その心配は無用かと」
「なぜ?」
「すべての人の言葉を、鵜呑みにするわけではありませんので」
「・・・は・・・?」
「信じると決めた人の言葉しか、俺は、無条件に信用することはありませんので」
「・・・」

目の端にリュークが映った。
手を口に当てて、笑みを堪えている。

なんだ? 口八丁のオレが、言葉に詰まるとは。
なんだ、・・・この感情は?

オレは・・・喜んでいるのか?
こいつの、言葉に?

「そうですか。冗談でしたか。・・・では父は中にいるということでしょうか」

そう言って、奥の方を覗いている。

こいつは、天然の人たらしか。

シュタインセンとは似ても似つかぬと、そう思っていたのだが。
・・・なるほど、血は争えぬとは、こういうことか。
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