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お披露目
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王太子の婚約者のお披露目とあって、参加者はかなりの人数だった。
今日の主役であるカトリアナは少し、いや、かなり緊張している。
「カトリアナ、とっても綺麗よ」
「ありがとうございます。お姉さま」
先月、アイスケルヒと婚約したアリエラは、初恋を実らせた妹の晴れ舞台に、涙を流さんばかりに喜んでいた。
眼をうるうるさせながら妹の立ち姿を確認する姿を、アイスケルヒは苦笑しながら見守っていた。
ケインバッハ、アイスケルヒ、そしてレオンハルトと、人気の殿方が次々と婚約していったため、残されたご令嬢たちの悲嘆はそれはそれは凄まじいものだった。
「貴女ね、まだ夜会デビューしていないからいいけど、来年からは覚悟しておいた方がいいわよ?」
「そ、それほどですか」
「そりゃあもう」
アリエラは大袈裟に肩を竦めてみせた。
「私もエレアーナさまも、毎回なかなか愉快な思いをさせてもらってるわ。まあ、これも勲章だと思って、頑張るしかないわね」
「勲章・・ですか」
「そうよ。貴族の家に生まれて、自分が想う方に嫁げるなんて幸運、そうそうないことですもの。多少の妬みや嫉妬なんてありがたくお受けしなくちゃ」
「・・そうですね」
「まあ、貴女の場合は、多少の妬みや嫉妬では終わらないかもしれないけどね」
「えっ?」
アリエラは、にっこりと笑いながらも、物騒な話を続けた。
「エレアーナさまがお命を狙われたこと、忘れた訳じゃないでしょう? 今は貴女が、その立場にいるのよ」
「・・・」
青ざめる妹の方に、そっと手を置いてその顔を覗き込む。
「しっかりしなさい、カトリアナ・マスカルバーノ。貴女はレオンハルト王太子殿下の婚約者となるのでしょう? ゆくゆくは王妃、そして皇后となるのですよ」
「お姉さま・・・」
「エレアーナさまのことを思い出しなさい。賢者くずれにお命を狙われ、安全のために邸に閉じこもらざるを得なかったときも、笑顔を絶やさず、愚痴一つ零さなかったあの方を」
「あ・・・」
「貴女はエレアーナさまではない。エレアーナ様のようになる必要はないのよ。貴女には貴女の良さがあるのだから。だけど、他の方の立派な特質を見倣うのは大切なことでしょう?」
真剣な瞳で語りかける姉に、カトリアナも思わず姿勢を正す。
敢えて厳しいことを言っているのだと、気づいたから。
「その通りですわね、お姉さま。ありがとうございます」
アリエラも笑みを返す。
彼女は知っているのだ。
この妹は、おっとりとしていながら、その実、一度決めたらその道を貫き通す信念の人でもあるということを。
「大丈夫よ、貴女なら。きっと立派にその務めを果たせるわ」
そう言ってから立ち上がると、アイスケルヒのもとへ戻った。
「お待たせして申し訳ありません」
「・・・いや」
アイスケルヒの表情が、心なしか綻んで見える。
アリエラが首を傾げると、アイスケルヒは、ふ、と笑みを漏らし、彼女の耳元に顔を近づけた。
「・・・惚れ直したよ」
「・・・っ!」
囁きが注ぎ込まれた瞬間、アリエラの顔が真っ赤に染まった。
「も・・・もう、揶揄わないでくださいませ」
その恥じらう姿に、更に嬉しそうな声がアイスケルヒの口から洩れる。
「お戯れも大概になさってくださいませ。そんなことを言われたら、わたくしの心臓がもちませんわ」
「それは大変だな」
肩を竦めてみせるが、反省した様子など微塵もない。
「せいぜい気をつけるとしよう。愛しい君に先立たれては、私の生きる意味がなくなってしまうからな」
「アイスケルヒさま? それ、絶対わざとやってらっしゃいますよね?」
じとっと睨みつけるような眼差しをぶつけるが、アイスケルヒには気にする様子もない。
「いいではないか、これくらい。これまで散々、君には振り回されてきたのだぞ」
「は?」
「まぁ、自覚がないのは知っていたが、それでもこちらとしては、なかなかきつかった」
きょとんとするアリエラに、アイスケルヒは苦笑しながらも言葉を続ける。
「それで、だ。式はいつにしようか?」
「はい?」
「最速で一年後になるが、それで進めても構わないかな?」」
「・・・」
「アリエラ?」
呆けたまま返事を返さないアリエラに、手をすっと伸ばし、その頬に触れる。
「どうした? そんなに隙だらけでは、今ここで私に口づけされても文句は言えないぞ?」
にやり、と笑い、ぐっと顔を近づける。
「ちょ、ちょ、ちょっとお待ちくださいませ! 聞いてます、ちゃんと聞いておりますから!」
「なんだ、つまらん」
アリエラに胸元を押し返され、すっと姿勢を戻す。
「それで、いつにする?」
「それ、今、聞くことですか? もうすぐ殿下とカトリアナのお披露目が始まるんですよ?」
「聞くに決まっているだろう。君の妹の方が早く輿入れしたらどうするんだ?」
「はあ・・・?」
よく見ると、アイスケルヒの顔もうっすらと紅潮している。
「・・・私だけなのか? 早く結婚したいと思っているのは」
アリエラの瞳が大きく開く。
口元が大きく綻ぶ。
もう、この方は。
こんな席で、何をおっしゃるのかしら。
泣いてしまうじゃない。
「・・・勿論、わたくしも早く貴方のもとに嫁ぎたいと思っておりますわ」
「ならば、問題ないだろう。・・・では、一年後ということで進めるぞ」
「はい」
ああ、大好き。
私の氷の王子さま。
もう今は解けきって、甘い笑顔を見せてくれるけれど。
その眼差しは、いつも私の心を震えさせる。
そっと手を伸ばして、隣の大好きな人の手の上に重ねる。
「よろしくお願いいたします」
「ああ」
そっぽを向いたまま、返事をして。
でも、手はぎゅっと握り返してくれる。
嬉し涙が溢れてきて。
もう片方の手でそっと拭った。
王太子殿下の婚約者お披露目の始まりを告げる声が聞こえる。
アリエラは顔を上げた。
その瞳に映るのは、会場の中央に立つ、愛する妹の幸せそうな笑顔だった。
今日の主役であるカトリアナは少し、いや、かなり緊張している。
「カトリアナ、とっても綺麗よ」
「ありがとうございます。お姉さま」
先月、アイスケルヒと婚約したアリエラは、初恋を実らせた妹の晴れ舞台に、涙を流さんばかりに喜んでいた。
眼をうるうるさせながら妹の立ち姿を確認する姿を、アイスケルヒは苦笑しながら見守っていた。
ケインバッハ、アイスケルヒ、そしてレオンハルトと、人気の殿方が次々と婚約していったため、残されたご令嬢たちの悲嘆はそれはそれは凄まじいものだった。
「貴女ね、まだ夜会デビューしていないからいいけど、来年からは覚悟しておいた方がいいわよ?」
「そ、それほどですか」
「そりゃあもう」
アリエラは大袈裟に肩を竦めてみせた。
「私もエレアーナさまも、毎回なかなか愉快な思いをさせてもらってるわ。まあ、これも勲章だと思って、頑張るしかないわね」
「勲章・・ですか」
「そうよ。貴族の家に生まれて、自分が想う方に嫁げるなんて幸運、そうそうないことですもの。多少の妬みや嫉妬なんてありがたくお受けしなくちゃ」
「・・そうですね」
「まあ、貴女の場合は、多少の妬みや嫉妬では終わらないかもしれないけどね」
「えっ?」
アリエラは、にっこりと笑いながらも、物騒な話を続けた。
「エレアーナさまがお命を狙われたこと、忘れた訳じゃないでしょう? 今は貴女が、その立場にいるのよ」
「・・・」
青ざめる妹の方に、そっと手を置いてその顔を覗き込む。
「しっかりしなさい、カトリアナ・マスカルバーノ。貴女はレオンハルト王太子殿下の婚約者となるのでしょう? ゆくゆくは王妃、そして皇后となるのですよ」
「お姉さま・・・」
「エレアーナさまのことを思い出しなさい。賢者くずれにお命を狙われ、安全のために邸に閉じこもらざるを得なかったときも、笑顔を絶やさず、愚痴一つ零さなかったあの方を」
「あ・・・」
「貴女はエレアーナさまではない。エレアーナ様のようになる必要はないのよ。貴女には貴女の良さがあるのだから。だけど、他の方の立派な特質を見倣うのは大切なことでしょう?」
真剣な瞳で語りかける姉に、カトリアナも思わず姿勢を正す。
敢えて厳しいことを言っているのだと、気づいたから。
「その通りですわね、お姉さま。ありがとうございます」
アリエラも笑みを返す。
彼女は知っているのだ。
この妹は、おっとりとしていながら、その実、一度決めたらその道を貫き通す信念の人でもあるということを。
「大丈夫よ、貴女なら。きっと立派にその務めを果たせるわ」
そう言ってから立ち上がると、アイスケルヒのもとへ戻った。
「お待たせして申し訳ありません」
「・・・いや」
アイスケルヒの表情が、心なしか綻んで見える。
アリエラが首を傾げると、アイスケルヒは、ふ、と笑みを漏らし、彼女の耳元に顔を近づけた。
「・・・惚れ直したよ」
「・・・っ!」
囁きが注ぎ込まれた瞬間、アリエラの顔が真っ赤に染まった。
「も・・・もう、揶揄わないでくださいませ」
その恥じらう姿に、更に嬉しそうな声がアイスケルヒの口から洩れる。
「お戯れも大概になさってくださいませ。そんなことを言われたら、わたくしの心臓がもちませんわ」
「それは大変だな」
肩を竦めてみせるが、反省した様子など微塵もない。
「せいぜい気をつけるとしよう。愛しい君に先立たれては、私の生きる意味がなくなってしまうからな」
「アイスケルヒさま? それ、絶対わざとやってらっしゃいますよね?」
じとっと睨みつけるような眼差しをぶつけるが、アイスケルヒには気にする様子もない。
「いいではないか、これくらい。これまで散々、君には振り回されてきたのだぞ」
「は?」
「まぁ、自覚がないのは知っていたが、それでもこちらとしては、なかなかきつかった」
きょとんとするアリエラに、アイスケルヒは苦笑しながらも言葉を続ける。
「それで、だ。式はいつにしようか?」
「はい?」
「最速で一年後になるが、それで進めても構わないかな?」」
「・・・」
「アリエラ?」
呆けたまま返事を返さないアリエラに、手をすっと伸ばし、その頬に触れる。
「どうした? そんなに隙だらけでは、今ここで私に口づけされても文句は言えないぞ?」
にやり、と笑い、ぐっと顔を近づける。
「ちょ、ちょ、ちょっとお待ちくださいませ! 聞いてます、ちゃんと聞いておりますから!」
「なんだ、つまらん」
アリエラに胸元を押し返され、すっと姿勢を戻す。
「それで、いつにする?」
「それ、今、聞くことですか? もうすぐ殿下とカトリアナのお披露目が始まるんですよ?」
「聞くに決まっているだろう。君の妹の方が早く輿入れしたらどうするんだ?」
「はあ・・・?」
よく見ると、アイスケルヒの顔もうっすらと紅潮している。
「・・・私だけなのか? 早く結婚したいと思っているのは」
アリエラの瞳が大きく開く。
口元が大きく綻ぶ。
もう、この方は。
こんな席で、何をおっしゃるのかしら。
泣いてしまうじゃない。
「・・・勿論、わたくしも早く貴方のもとに嫁ぎたいと思っておりますわ」
「ならば、問題ないだろう。・・・では、一年後ということで進めるぞ」
「はい」
ああ、大好き。
私の氷の王子さま。
もう今は解けきって、甘い笑顔を見せてくれるけれど。
その眼差しは、いつも私の心を震えさせる。
そっと手を伸ばして、隣の大好きな人の手の上に重ねる。
「よろしくお願いいたします」
「ああ」
そっぽを向いたまま、返事をして。
でも、手はぎゅっと握り返してくれる。
嬉し涙が溢れてきて。
もう片方の手でそっと拭った。
王太子殿下の婚約者お披露目の始まりを告げる声が聞こえる。
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その瞳に映るのは、会場の中央に立つ、愛する妹の幸せそうな笑顔だった。
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