109 / 256
種明かし
しおりを挟む
「陛下は、君とリンデンを、とお考えのようだけど」
カトリアナを抱きしめる腕に、思わず力が込もる。
「その件は心配しなくていいからね」
僕は、決意を込めてカトリアナにそう告げた。
「陛下には僕から話をしておく。必ず説得するから、だから君は安心して・・・」
そこまで言いかけて、はた、と、カトリアナがきょとんとした表情をしていることに気づく。
「・・・カトリアナ嬢?」
「はい?」
「どうしたの? 僕は何か変なことを言ったかな?」
「あ、はい。あ、いえ、そうではなく。えぇと、ちょっと仰っている意味が分からなくて」
「え?」
「説得とは、何のことでございましょう? リンデンベルク殿下と何か関係が?」
「え?」
今度は、僕の方が呆けた顔をしてしまった。
「え? だって君はリンデンと顔合わせに来てたんだよね?」
「ああ、はい。顔合わせの場には、ウイッテンハイムの付き添いで参りました」
「・・・え?」
「え?」
僕とカトリアナは、互いに訳が分からないという表情で見つめあった。
「あ、やっと戻ってきましたね、兄上」
リンデンベルクが、にこにこと二人を出迎える。
その傍には、何食わぬ顔をしてテーブルでお茶を飲むシュタインゼンと、行儀よく菓子を頬張るウィッテンハイムの姿があった。
「吃驚しましたよ。兄上ったら、突然カトリアナ嬢の手を引いて何処かに行ってしまうんだもの」
あはは、と、明るく、さりげなく責められ、レオンハルトは言葉を返せない。
「カトリアナ嬢、そういえば今日は、一番上の姉君はいらしてないのかね?」
優雅にお茶を楽しみながら、シュタインゼンが問いかける。
「来ておりますが、外務部の方に用があったらしく、すぐそちらに向かいました」
「ほうほう、外務部ねぇ。あちらも順調そうですな」
「・・・シュタインゼン。報告は明確に行ってもらえるかな?」
「はて? 一体、何のことでございましょうか? レオンハルト王太子殿下」
如何にも私は何も知りません、といった風を装って、目を丸くして問い返す。
・・・とぼけるなよ。
「顔合わせって、リンデンとウィッテンハイムとを会わせる事が目的だったって?」
「左様でございます。そろそろリンデンベルク殿下にもお側付きの者を選ばねばならぬとの陛下のご命令で」
首を傾げ、さも当然のような顔をする。
「ウィッテンハイムは生来身体が弱く、これまでは邸から出ることが難しかったのですが、ここ数年で体調が回復したようでしてね。リンデンベルク殿下と気が合うようであれば登城を願おうかと、本日、顔合わせの場を設けた次第です」
「ケインはこの事を知ってたの?」
「勿論です。レオンハルト殿下にお伝えするよう命じたのも私です」
「・・・それだけ?」
あれだけ狼狽るケインは珍しかったけど。
「ああ、ウィッテンハイムの名前は伏せるように、とは申し付けましたが」
・・・この狸親父。
ケインが演技とか出来ないのを逆手に取ったな。
「そう睨まないで頂きたいですなぁ、殿下。私も作戦要員としてこき使われた側の一人ですよ?」
「こき使われたって言うけど、シュタインゼンがやったのは、城内から中庭まで僕とゆっくり歩いて来て、わざと意味深な発言をしたくらいだよね?」
「王太子殿下を前にして演技をするというのは、非常に神経をすり減らす行為でありましてなぁ」
嘘つけ。
楽しくて仕方ないって顔してるくせに。
「それに、こうして望ましい結果が出た訳ですし、万々歳ではないですか」
僕と僕の隣に立つカトリアナを交互に見ながら、得意そうに笑う。
「そういう問題じゃ・・・って、ちょっと待って。さっき『使われた側』って言った? これ計画したのは、シュタインゼンじゃなかったのかい?」
「残念ながら」
眉を下げて、悲しそうに溜息を吐く。
「ベルフェルトの奴に先を越されてしまいました。ケインの馬鹿者め、まず私に相談してくれれば良かったものを・・・。実の父ではなく他の者に頼るなんて、あんまりじゃありませんか、ねぇ?」
「えーと、ごめん、話が見えないんだけど」
「事の発端は、ライナスバージの発言だそうですがね」
「え? オレですか?」
それまで空気に徹して、その場の会話を無責任に楽しんでいたライナスバージが、素っ頓狂な声を上げる。
その後、シュタインゼンの説明により、『コクレバ』の一言に端を発して計画、実行に至った小芝居の種明かしがなされた。
そして、脱力したレオンハルトたちは、報告のためにそのまま国王陛下の待つ広間へと追い立てられることとなった。
広間には、国王シャールベルムとロナダイアスが、満面の笑みを浮かべて待っていた。
そして勿論、扉近くには今回の立役者、ベルフェルトが。
ベルフェルトは少々人の悪そうな笑みを浮かべ、並んで入ってきた二人に声をかける。
「さてさて、この様子ですと、どうやら上手くいったようですな。レオンハルト王太子殿下、このベルフェルトめに一生感謝してくださっても構いませんよ?」
「・・・ああ、そうだね。うん、まぁ、ありがたいとは思ってるけどね?」
片頬を少し引き攣らせながら、ぞんざいに答える。
だがその時、隣に立っていたカトリアナが、くいっとレオンハルトの上着の裾を引いて、小声で囁いた。
「レオンさま、わたくしは、とっても嬉しゅうございますよ? 嬉しくて、幸せで、今もまだ夢ではないかと信じられないくらいです」
頬を朱に染め、恥ずかしそうにそう告げる姿に、レオンハルトも思わず顔が赤くなる。
「そ、そっか」
「・・・はい」
「いや、僕も、さ、ものすごく幸せなんだけどね。うん、その、なんていうか、ね」
そんな二人の様子を見守っていたシャールベルムは、苦笑いでロナダイアスに話しかけた。
「では、ロナダイアス。我が国の第一王子レオンハルトとマスカルバーノ侯爵家次女カトリアナとの婚約の話、進めさせてもらうが、それで良いな?」
「ありがたき幸せ。謹んでお受けいたします」
そう答えて深く頭を下げたロナダイアスに倣い、カトリアナも慌てて臣下の礼を取る。
そして、再び姿勢を正すと、恥ずかしそうに、でも幸せそうにレオンハルトの顔を見上げた。
カトリアナを抱きしめる腕に、思わず力が込もる。
「その件は心配しなくていいからね」
僕は、決意を込めてカトリアナにそう告げた。
「陛下には僕から話をしておく。必ず説得するから、だから君は安心して・・・」
そこまで言いかけて、はた、と、カトリアナがきょとんとした表情をしていることに気づく。
「・・・カトリアナ嬢?」
「はい?」
「どうしたの? 僕は何か変なことを言ったかな?」
「あ、はい。あ、いえ、そうではなく。えぇと、ちょっと仰っている意味が分からなくて」
「え?」
「説得とは、何のことでございましょう? リンデンベルク殿下と何か関係が?」
「え?」
今度は、僕の方が呆けた顔をしてしまった。
「え? だって君はリンデンと顔合わせに来てたんだよね?」
「ああ、はい。顔合わせの場には、ウイッテンハイムの付き添いで参りました」
「・・・え?」
「え?」
僕とカトリアナは、互いに訳が分からないという表情で見つめあった。
「あ、やっと戻ってきましたね、兄上」
リンデンベルクが、にこにこと二人を出迎える。
その傍には、何食わぬ顔をしてテーブルでお茶を飲むシュタインゼンと、行儀よく菓子を頬張るウィッテンハイムの姿があった。
「吃驚しましたよ。兄上ったら、突然カトリアナ嬢の手を引いて何処かに行ってしまうんだもの」
あはは、と、明るく、さりげなく責められ、レオンハルトは言葉を返せない。
「カトリアナ嬢、そういえば今日は、一番上の姉君はいらしてないのかね?」
優雅にお茶を楽しみながら、シュタインゼンが問いかける。
「来ておりますが、外務部の方に用があったらしく、すぐそちらに向かいました」
「ほうほう、外務部ねぇ。あちらも順調そうですな」
「・・・シュタインゼン。報告は明確に行ってもらえるかな?」
「はて? 一体、何のことでございましょうか? レオンハルト王太子殿下」
如何にも私は何も知りません、といった風を装って、目を丸くして問い返す。
・・・とぼけるなよ。
「顔合わせって、リンデンとウィッテンハイムとを会わせる事が目的だったって?」
「左様でございます。そろそろリンデンベルク殿下にもお側付きの者を選ばねばならぬとの陛下のご命令で」
首を傾げ、さも当然のような顔をする。
「ウィッテンハイムは生来身体が弱く、これまでは邸から出ることが難しかったのですが、ここ数年で体調が回復したようでしてね。リンデンベルク殿下と気が合うようであれば登城を願おうかと、本日、顔合わせの場を設けた次第です」
「ケインはこの事を知ってたの?」
「勿論です。レオンハルト殿下にお伝えするよう命じたのも私です」
「・・・それだけ?」
あれだけ狼狽るケインは珍しかったけど。
「ああ、ウィッテンハイムの名前は伏せるように、とは申し付けましたが」
・・・この狸親父。
ケインが演技とか出来ないのを逆手に取ったな。
「そう睨まないで頂きたいですなぁ、殿下。私も作戦要員としてこき使われた側の一人ですよ?」
「こき使われたって言うけど、シュタインゼンがやったのは、城内から中庭まで僕とゆっくり歩いて来て、わざと意味深な発言をしたくらいだよね?」
「王太子殿下を前にして演技をするというのは、非常に神経をすり減らす行為でありましてなぁ」
嘘つけ。
楽しくて仕方ないって顔してるくせに。
「それに、こうして望ましい結果が出た訳ですし、万々歳ではないですか」
僕と僕の隣に立つカトリアナを交互に見ながら、得意そうに笑う。
「そういう問題じゃ・・・って、ちょっと待って。さっき『使われた側』って言った? これ計画したのは、シュタインゼンじゃなかったのかい?」
「残念ながら」
眉を下げて、悲しそうに溜息を吐く。
「ベルフェルトの奴に先を越されてしまいました。ケインの馬鹿者め、まず私に相談してくれれば良かったものを・・・。実の父ではなく他の者に頼るなんて、あんまりじゃありませんか、ねぇ?」
「えーと、ごめん、話が見えないんだけど」
「事の発端は、ライナスバージの発言だそうですがね」
「え? オレですか?」
それまで空気に徹して、その場の会話を無責任に楽しんでいたライナスバージが、素っ頓狂な声を上げる。
その後、シュタインゼンの説明により、『コクレバ』の一言に端を発して計画、実行に至った小芝居の種明かしがなされた。
そして、脱力したレオンハルトたちは、報告のためにそのまま国王陛下の待つ広間へと追い立てられることとなった。
広間には、国王シャールベルムとロナダイアスが、満面の笑みを浮かべて待っていた。
そして勿論、扉近くには今回の立役者、ベルフェルトが。
ベルフェルトは少々人の悪そうな笑みを浮かべ、並んで入ってきた二人に声をかける。
「さてさて、この様子ですと、どうやら上手くいったようですな。レオンハルト王太子殿下、このベルフェルトめに一生感謝してくださっても構いませんよ?」
「・・・ああ、そうだね。うん、まぁ、ありがたいとは思ってるけどね?」
片頬を少し引き攣らせながら、ぞんざいに答える。
だがその時、隣に立っていたカトリアナが、くいっとレオンハルトの上着の裾を引いて、小声で囁いた。
「レオンさま、わたくしは、とっても嬉しゅうございますよ? 嬉しくて、幸せで、今もまだ夢ではないかと信じられないくらいです」
頬を朱に染め、恥ずかしそうにそう告げる姿に、レオンハルトも思わず顔が赤くなる。
「そ、そっか」
「・・・はい」
「いや、僕も、さ、ものすごく幸せなんだけどね。うん、その、なんていうか、ね」
そんな二人の様子を見守っていたシャールベルムは、苦笑いでロナダイアスに話しかけた。
「では、ロナダイアス。我が国の第一王子レオンハルトとマスカルバーノ侯爵家次女カトリアナとの婚約の話、進めさせてもらうが、それで良いな?」
「ありがたき幸せ。謹んでお受けいたします」
そう答えて深く頭を下げたロナダイアスに倣い、カトリアナも慌てて臣下の礼を取る。
そして、再び姿勢を正すと、恥ずかしそうに、でも幸せそうにレオンハルトの顔を見上げた。
24
あなたにおすすめの小説
何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています
鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。
指示を出さない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。
それなのに――
いつの間にか屋敷は落ち着き、
使用人たちは迷わなくなり、
人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。
誰かに依存しない。
誰かを支配しない。
それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。
必要とされなくてもいい。
役に立たなくてもいい。
それでも、ここにいていい。
これは、
「何もしない」ことで壊れなかった関係と、
「奪わない」ことで続いていった日常を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
むにゃむにゃしてたら私にだけ冷たい幼馴染と結婚してました~お飾り妻のはずですが溺愛しすぎじゃないですか⁉~
景華
恋愛
「シリウス・カルバン……むにゃむにゃ……私と結婚、してぇ……むにゃむにゃ」
「……は?」
そんな寝言のせいで、すれ違っていた二人が結婚することに!?
精霊が作りし国ローザニア王国。
セレンシア・ピエラ伯爵令嬢には、国家機密扱いとなるほどの秘密があった。
【寝言の強制実行】。
彼女の寝言で発せられた言葉は絶対だ。
精霊の加護を持つ王太子ですらパシリに使ってしまうほどの強制力。
そしてそんな【寝言の強制実行】のせいで結婚してしまった相手は、彼女の幼馴染で公爵令息にして副騎士団長のシリウス・カルバン。
セレンシアを元々愛してしまったがゆえに彼女の前でだけクールに装ってしまうようになっていたシリウスは、この結婚を機に自分の本当の思いを素直に出していくことを決意し自分の思うがままに溺愛しはじめるが、セレンシアはそれを寝言のせいでおかしくなっているのだと勘違いをしたまま。
それどころか、自分の寝言のせいで結婚してしまっては申し訳ないからと、3年間白い結婚をして離縁しようとまで言い出す始末。
自分の思いを信じてもらえないシリウスは、彼女の【寝言の強制実行】の力を消し去るため、どこかにいるであろう魔法使いを探し出す──!!
大人になるにつれて離れてしまった心と身体の距離が少しずつ縮まって、絡まった糸が解けていく。
すれ違っていた二人の両片思い勘違い恋愛ファンタジー!!
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
私が行方不明の皇女です~生死を彷徨って帰国したら信じていた初恋の従者は婚約していました~
marumi
恋愛
「あら アルヴェイン公爵がドゥーカス令嬢をエスコートされていますわ」
「ご婚約されたと噂を聞きましたが、まさか本当だとは!」
私は五年前までこの国の皇女エリシアだった。
暗殺事件に巻き込まれ、幼なじみで初恋の相手だった従者――アルヴェイン公子と共に命からがら隣国、エルダールへ亡命した。
彼の「必ず迎えに来る」その言葉を信じて、隣国の地で彼を待ち続けた……。
それなのに……。
やっとの思いで帰国した帝国の華やかなパーティー会場で、一際目立っているのは、彼と、社交界の華と言われる令嬢だった――。
※校正にAIを使用していますが、自身で考案したオリジナル小説です。
※イメージが伝わればと思い、表紙画像をAI生成してみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる