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種明かし

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「陛下は、君とリンデンを、とお考えのようだけど」

カトリアナを抱きしめる腕に、思わず力が込もる。

「その件は心配しなくていいからね」

僕は、決意を込めてカトリアナにそう告げた。

「陛下には僕から話をしておく。必ず説得するから、だから君は安心して・・・」

そこまで言いかけて、はた、と、カトリアナがきょとんとした表情をしていることに気づく。

「・・・カトリアナ嬢?」
「はい?」
「どうしたの? 僕は何か変なことを言ったかな?」
「あ、はい。あ、いえ、そうではなく。えぇと、ちょっと仰っている意味が分からなくて」
「え?」
「説得とは、何のことでございましょう? リンデンベルク殿下と何か関係が?」
「え?」

今度は、僕の方が呆けた顔をしてしまった。

「え? だって君はリンデンと顔合わせに来てたんだよね?」
「ああ、はい。顔合わせの場には、ウイッテンハイムの付き添いで参りました」
「・・・え?」
「え?」

僕とカトリアナは、互いに訳が分からないという表情で見つめあった。




「あ、やっと戻ってきましたね、兄上」

リンデンベルクが、にこにこと二人を出迎える。

その傍には、何食わぬ顔をしてテーブルでお茶を飲むシュタインゼンと、行儀よく菓子を頬張るウィッテンハイムの姿があった。

「吃驚しましたよ。兄上ったら、突然カトリアナ嬢の手を引いて何処かに行ってしまうんだもの」

あはは、と、明るく、さりげなく責められ、レオンハルトは言葉を返せない。

「カトリアナ嬢、そういえば今日は、一番上の姉君はいらしてないのかね?」

優雅にお茶を楽しみながら、シュタインゼンが問いかける。

「来ておりますが、外務部の方に用があったらしく、すぐそちらに向かいました」
「ほうほう、外務部ねぇ。あちらも順調そうですな」
「・・・シュタインゼン。報告は明確に行ってもらえるかな?」
「はて? 一体、何のことでございましょうか? レオンハルト王太子殿下」

如何にも私は何も知りません、といった風を装って、目を丸くして問い返す。

・・・とぼけるなよ。

「顔合わせって、リンデンとウィッテンハイムとを会わせる事が目的だったって?」
「左様でございます。そろそろリンデンベルク殿下にもお側付きの者を選ばねばならぬとの陛下のご命令で」

首を傾げ、さも当然のような顔をする。

「ウィッテンハイムは生来身体が弱く、これまでは邸から出ることが難しかったのですが、ここ数年で体調が回復したようでしてね。リンデンベルク殿下と気が合うようであれば登城を願おうかと、本日、顔合わせの場を設けた次第です」
「ケインはこの事を知ってたの?」
「勿論です。レオンハルト殿下にお伝えするよう命じたのも私です」
「・・・それだけ?」

あれだけ狼狽るケインは珍しかったけど。

「ああ、ウィッテンハイムの名前は伏せるように、とは申し付けましたが」

・・・この狸親父。
ケインが演技とか出来ないのを逆手に取ったな。

「そう睨まないで頂きたいですなぁ、殿下。私も作戦要員としてこき使われた側の一人ですよ?」
「こき使われたって言うけど、シュタインゼンがやったのは、城内から中庭まで僕とゆっくり歩いて来て、わざと意味深な発言をしたくらいだよね?」
「王太子殿下を前にして演技をするというのは、非常に神経をすり減らす行為でありましてなぁ」

嘘つけ。
楽しくて仕方ないって顔してるくせに。

「それに、こうして望ましい結果が出た訳ですし、万々歳ではないですか」

僕と僕の隣に立つカトリアナを交互に見ながら、得意そうに笑う。

「そういう問題じゃ・・・って、ちょっと待って。さっき『使われた側』って言った? これ計画したのは、シュタインゼンじゃなかったのかい?」
「残念ながら」

眉を下げて、悲しそうに溜息を吐く。

「ベルフェルトの奴に先を越されてしまいました。ケインの馬鹿者め、まず私に相談してくれれば良かったものを・・・。実の父ではなく他の者に頼るなんて、あんまりじゃありませんか、ねぇ?」
「えーと、ごめん、話が見えないんだけど」
「事の発端は、ライナスバージの発言だそうですがね」
「え? オレですか?」

それまで空気に徹して、その場の会話を無責任に楽しんでいたライナスバージが、素っ頓狂な声を上げる。


その後、シュタインゼンの説明により、『コクレバ』の一言に端を発して計画、実行に至った小芝居の種明かしがなされた。
そして、脱力したレオンハルトたちは、報告のためにそのまま国王陛下の待つ広間へと追い立てられることとなった。

広間には、国王シャールベルムとロナダイアスが、満面の笑みを浮かべて待っていた。
そして勿論、扉近くには今回の立役者、ベルフェルトが。

ベルフェルトは少々人の悪そうな笑みを浮かべ、並んで入ってきた二人に声をかける。

「さてさて、この様子ですと、どうやら上手くいったようですな。レオンハルト王太子殿下、このベルフェルトめに一生感謝してくださっても構いませんよ?」
「・・・ああ、そうだね。うん、まぁ、ありがたいとは思ってるけどね?」

片頬を少し引き攣らせながら、ぞんざいに答える。
だがその時、隣に立っていたカトリアナが、くいっとレオンハルトの上着の裾を引いて、小声で囁いた。

「レオンさま、わたくしは、とっても嬉しゅうございますよ? 嬉しくて、幸せで、今もまだ夢ではないかと信じられないくらいです」

頬を朱に染め、恥ずかしそうにそう告げる姿に、レオンハルトも思わず顔が赤くなる。

「そ、そっか」
「・・・はい」
「いや、僕も、さ、ものすごく幸せなんだけどね。うん、その、なんていうか、ね」

そんな二人の様子を見守っていたシャールベルムは、苦笑いでロナダイアスに話しかけた。

「では、ロナダイアス。我が国の第一王子レオンハルトとマスカルバーノ侯爵家次女カトリアナとの婚約の話、進めさせてもらうが、それで良いな?」
「ありがたき幸せ。謹んでお受けいたします」

そう答えて深く頭を下げたロナダイアスに倣い、カトリアナも慌てて臣下の礼を取る。

そして、再び姿勢を正すと、恥ずかしそうに、でも幸せそうにレオンハルトの顔を見上げた。
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