【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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けだもの

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ーー僕がケインに劣る筈がないって、言ってくれた君は、僕のどんなところを見て、そう言ってくれたの?ーー

そう聞かれて、カトリアナは俯いた。
しばらく躊躇う様子を見せていたが、ようやく顔を上げると、予想外にきっぱりとした声でこう答えた。

「・・・では、遠慮なく、申し上げさせていただきます」
「うん」
「まず、一番に申し上げたいのは、殿下の繊細なまでのお優しさです。他人が傷つくよりも、自分が傷を負うことを選ばれるような、そんな高潔なまでのお優しさを殿下はお持ちです。また、人の上に立つ意味をよく理解され、周囲の人への気配りも細やかで、我慢強く、穏やかでいらっしゃいます。そして、太陽のような温かい微笑み、耳に心地良い声、誰とも分け隔てなくお声がけする公平さ、常に成長を目指して努力を惜しむこともせず勉学に励まれ・・・」
「ちょ、ちょっと待って。もういい。もういいから・・・」
「え? もうよろしいのですか?」

まだまだ言いたいことはありますのに、と少し不満そうにして。
ふう、と息を吐きながら、レオンは呼吸を整える。

うわ、なんだこれ。
顔が熱い。
鼓動がさらに高まる。

もう、本当に。
この子は、いろいろと愉快すぎて、いつも驚かされてしまう。

憂うつな気持ちも、不安も、絶望も、嫉妬もかき消されていく。

深呼吸をして。

よし。
今度は僕の番だ。

「あのね、カトリアナ嬢。僕さ、ライナスに大見栄を切ったことがあるんだよね。前にさ、もしエレアーナ嬢がケインを選んだら、どうするつもりかって聞かれた時にさ」
「・・・何とおっしゃったのですか?」

カトリアナの眼を真っ直ぐに見つめて、言葉を継ぐ。

「その時は、他の素敵な令嬢を見つけて、誰よりも幸せになってみせるってね」

カトリアナが目を大きく瞠る。

「それでね。僕は、君がその、素敵な令嬢になってくれるといいなぁって思ってるんだけど」
「わ、わたくしにはそんな重責はとても・・・」

すっとレオンハルトの人差し指が、カトリアナの唇を塞ぐ。

「君が人前に出るのを好まないタイプだと言うことは承知してる。でも、それと同時に誰かのためなら躊躇なく飛び出して行ける人だということも知っている」

そう言って、レオンは優しく目を細めた。

「きっと君は、民のためなら前に立つことが出来る人だ。謙虚で、優しくて、強い」
「・・・」
「きっと君は、その慎ましい性格で僕の背中を優しく支えてくれるだろう。そして、もし僕が判断を誤ることがあれば全力で諫めてくれるだろう。・・・あの時のように」

思い出したのだろうか、レオンの口からふっと笑みが溢れる。

「だから、ね? どうか頷いてはくれないかい? 君は優しい人だから、こんな僕を置いて、どこかに逃げて行ったりはしないよね?」

ここでようやく、レオンハルトはそれまでカトリアナの唇を塞いでいた指を離した。
そして少し背を屈めて、カトリアナの顔を覗き込む。

「・・・殿下」
「ん?」
「本当に、わたくしでよろしいと思ってらっしゃるのですか?」

レオンハルトは、太陽のような笑みを浮かべた。

「うん。もう君じゃないと駄目みたいだ」
「・・・っ!」

カトリアナの眼に、涙が滲む。

「あ・・・」

ほら、早く言って。

「有り難き・・・幸せに、ございます。どうぞ・・・よろしくおねが・・・」

はい、よく出来ました。

カトリアナの言葉が、途中で途切れて。
レオンハルトの取った行動に、離れて見守っていたライナスが驚いて口を大きく開ける。

うん、だって、僕も吃驚だもの。
こんなに我慢が効かないなんて。

この子が、欲しくて欲しくて、堪らない。
これだけで我慢するのも精一杯なくらい。

カトリアナの頬に落ちた僕の唇がそっと離れると、カトリアナは真っ赤な顔で、ぱくぱくと口を動かしている。

「うん?」

カトリアナが言いたいことなんて、分かりきっているけど。
敢えて、首を傾げて問い返す。

「な、な、な、何を突然」
「何って、勿論、君の頬に口づけを」
「は、は、は、はしたのうございますよ? 殿下」
「嫌だなぁ、カトリアナ。レオンって呼んでくれないと、僕は悲しくなっちゃうよ」
「そ、そ、そんな・・・」
「ほら、呼んでみて?」
「いえいえいえ、無理、無理です」
「ええ~? あれ、変だな。なんか涙が・・・」
「わ、わ、わかりました!」

遠くから温い視線が突き刺さってくるけど、こんな時は護衛の抗議なんて無視するのが当たり前だろ。

僕は微笑みを浮かべながら、ただ黙ってカトリアナの言葉を待つ。

「・・・レ」

あらら、そこで止まっちゃうの?

カトリアナは両手を頬にあてて、目を泳がせて。

頑張れ。
僕のお姫さま。

「レオン・・さま・・・」

小声で、ぽそりと呟く。
そのまま俯いてしまう。

ああ、駄目だ。
やっぱり、体が勝手に動いてしまう。

気づくと、僕はカトリアナを腕の中に抱きしめていて。

「レ、レ、レオンさまっ・・・!」

声が焦ってる。
手で押し返そうとしてるけど、力が全然こもってないよ。

ねぇ、君がこんなに可愛すぎるのって、反則じゃない?

「うわぁ、殿下って意外とケダモノ・・・」

ライナスが、思わずといった風に呟いた。

今更、はっと口を押さえてもしっかり聞こえたけど。

ケダモノだって?
酷いな。

そんな筈ないだろ。

今、この瞬間に、完全に理性が吹き飛ばなかった僕は、とんでもなく立派な人間だと思うけどね。
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