【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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君がそう言ってくれたのは

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カトリアナ嬢が戸惑っているのがわかる。
どうしたのかと僕に問う声に、それが表れている。

きっと彼女は、今日ここに招ばれた理由をよく分かっているのだろう。

僕は彼女の問いに答えようともせず、ただ黙ってその手を取ったまま歩き続けた。

リンデンベルクとの顔合わせのためのお茶会。

・・・そう言われて意図が分からない人間など、きっといない。
そして、それはきっと、君も。

唇をぐっと噛んだ。

陛下がお招びになった、そうシュタインゼンは言っていた。
ならば、僕が今こうして彼女を他所へと連れ出すのは間違っている。

そんなこと、よく分かってるけど。

でも、僕の足は止まらない。
カトリアナ嬢の手も離せない。

・・・離してたまるか。

この子のデビュタントでファーストダンスを踊るのは、僕なんだ。
約束、したんだから。

お茶会の場所からだいぶ離れたところで、ようやく僕の足が止まる。

ゆっくりとカトリアナ嬢の方へと振り向いた。

少し離れて、ライナスが付いてきているのが見えた。

うん、・・・まあ、そうしないとまずいもんね。

自分のしたことだけど、思わず苦笑してしまう。

何を聞いても僕がずっと答えないから、カトリアナ嬢はすごく心配そうな顔で僕を見上げている。

心配なのは僕? それとも・・・。

そんなことを考えたら、なんだか泣きたくなってきた。

よほど情けない顔をしていたのだろう。
おずおずとカトリアナ嬢が口を開いた。

「あの・・・お身体の調子でもお悪いのですか? お顔の色が優れないようですが・・・」
「僕のことより、自分の心配をしなくていいの?」
「え?」
「お茶会、抜けさせちゃったし・・・」

僕の言葉に軽く首を傾げたけど、「お茶会」という言葉で何を言いたいのか分かったようでああ、と頷く。

「大丈夫ですよ。ちょっとくらい抜けても」

そう言って、ふふ、と笑う。

ちょっと抜けるだけの筈ないでしょ。
分かってないな。

君をあそこに帰すつもりなんて、ある訳ないだろ。

「・・・リンデンとお茶会だったんだよね」
「? ええ」
「僕と飲もうよ」
「え?」
「お茶会、僕としてよ」
「え? ええと、はい。では、今度ぜひ」
「・・・」

駄目だ。
全然、意味がわかってない。

僕のことなんて眼中にないからかい?

「ねぇ、カトリアナ嬢」

だけど。
だけど、なんでかな。

「はい?」

エレアーナ嬢は、自分から手離すことが出来たのに。
君のことは、とてもじゃないけどそんなことは出来そうもない。

「リンデンのところに戻らないで」

君が嫌がっても、僕のことが好きじゃなくても、どうしても君を僕のところに繋ぎ止めておきたい。

「え?」

お願い。
リンデンじゃなく、僕を選んで。

「僕は、君がいい」

君じゃなきゃ、嫌なんだ。

「えっと・・・レオンハルト殿下?」

小首を傾げてきょとんとしてる。

可愛い。
可愛いけどさ。

あー、もう。
ケインのこと、笑えないや。

好きな子を前にして、口が上手く回らなくなるなんて。

「ええと、だからね。カトリアナ嬢」
「はい」
「大事な話があるんだ。君に聞いてほしい。今、ここで」
「今、ここで?」

僕の言葉に、少し考えて。

「分かりました」

笑って頷いてくれた。

爽やかな風が、庭の花々を揺らしながら吹き抜けていく。
日射しは暖かく、柔らかく、僕たちを照らして。

彼女の美しい紺の髪が、光をまとってさらさらと風に揺れている。

ああ、綺麗だな。

僕が話し始めるのを待ってくれているのに、僕ときたらついうっかりと彼女に見惚れてしまって、せっかくの時間が静かに流れていく。

しっかりしろ。

「・・・あの、さ」

気まずさを隠して、声をかける。

「はい」

にっこりと微笑みながら、続く言葉を待っている。

どうしよう。

そういえば、彼女は僕がエレアーナ嬢を好きだったことを知ってるんだよな。
というか、頑張れ、と応援までしてくれたっけ。

あれ?
これって、よく考えてみなくても、脈ナシってことか?

嘘だろ、どうしたらいいんだ?

待て待て、落ち着け。
とにかく、気持ちを伝えるんだ。

えーと、まず、どこから話せばいいんだろ。

動揺して頭の中でぐるぐると考えを巡らせている間、律儀なカトリアナは静かにレオンハルトの言葉を待っている。

「あ、あのさ、カトリアナ嬢」
「はい」
「・・・君は、覚えてるかな。前に君が僕に話してくれたこと」
「前に、ですか?」

首を傾げて思案する。

「うん」
「いつの話のことでございましょう?」
「君が僕の背中を押してくれた時だよ。エレアーナへの気持ちを否定するなって怒ってくれた時」
「あ・・・」

あの時の事を思い出したのか、一瞬で顔が赤く染まる。

「あ、あの時は、殿下に大変失礼なことを・・・」
「ああ、違うんだ。謝ってほしい訳じゃない」

申し訳なさそうに謝ろうとしたので、慌てて説明を加える。

「あの時、ケインに引け目を感じていた僕に、君はこんな風に言ってくれたんだよ。ケインは確かに立派な人だけど、僕があいつに劣る筈はないって」
「あ・・・」
「思い出した?」

カトリアナがこくりと頷くのを見て、ふ、と笑みが零れる。

「よかった。それでね、君に聞きたいと思ったんだ」
「・・・何をでしょう?」
「僕がケインに劣らないって、君が思った理由」
「え?」

レオンハルトの言葉に驚いて目を丸くしたカトリアナの手を、そっと握る。

「レ、レオンハルト殿下」
「ねぇ、教えてくれないかな。僕がケインに劣る筈がないって言ってくれた君は・・・僕のどんなところを見て、そう言ってくれたの?」
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