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不敵な男
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カトリアナの挨拶の言葉の後、エレアーナは、ケインバッハと共に祝福を述べに行った。
「おめでとうございます。王太子殿下、そして、カトリアナさま」
幸せそうな二人の姿に、エレアーナたちも自然と笑みが溢れる。
何よりこの二人は、エレアーナが最も信頼し、最も幸せになってほしい友人でもあるのだから。
「ありがとう。まぁ、告白のきっかけは、ちょっと間抜けだったけどね」
そう言って恥ずかしそうに笑うレオンは、いつもと同じ穏やかな空気を纏っていて。
「来年には、アリエラさまがわたくしのお義姉さまになられます。そうなると、カトリアナさまとも義理の姉妹になれるのですね。大変、光栄に思っておりますわ」
そう言いながら、ちらりと会場後方で談笑している兄たちに視線を投げる。
「そうか。来年なんだ。忙しくなるね」
「そうですね。兄などは待ちきれないようで、今からそわそわしておりますわ」
そう言って苦笑する。
「ふふ、社交界でも噂になってたものね。『氷の彫像』が、愛しの婚約者の前でだけは微笑むってさ」
「そうなのですか? わたくしは笑顔の兄しか存じませんので、そちらの噂の方が信じられないのですが」
「そっか。アイスケルヒは妹の君にも随分と甘かったんだっけね。でも実際、彼の笑みはなかなかお目にかかれないものだったんだよ」
そして、ふと思い出したように付け加えた。
「なかなかお目にかかれないといえば、ケインがエレアーナ嬢にだけ見せる甘々の顔もそうだよね」
「え?」
レオンハルトが視線をケインへと移す。
「基本、無表情のケインが、エレアーナ嬢の前だと赤くなったり、照れたり、微笑んだりってころころ表情が変わるもんね」
くすくすと笑いながら揶揄うが、ケインはあまり自覚がなかったようで、きょとんとしている。
「・・・そんなに違うのか? 俺は」
「社交界のご令嬢たちがこぞって嘆くほどにはね」
そう言うと、おもむろに隣にいたカトリアナの腕を取り、その手の甲に唇を落とす。
「レ、レオンさま?」
「おかげで一部のご令嬢たちの執念が僕に向けられて、ほとほと困ってたけど、もう僕には愛しいカトリアナがいる。これからは思う存分、カトリアナとの時間を楽しむことにするよ」
「王太子殿下だって、カトリアナさまへ向ける表情は他とは全く違いましてよ?」
ふふ、と笑いながらエレアーナが指摘する。
「もともとお優しい方なのは存じ上げておりましたけれど、カトリアナさまに向ける眼差しには、他の感情も込められているようですわ。愛しさとか、熱情とか、労わりとか、独占欲とか、それはもう、いろいろと」
「まぁ、独占したいというのは確かだろうね。本音を言えば、こんなところにいるよりも、カトリアナと二人きりで過ごしたいもの」
「おやおや、こんなところとは酷い言い草ですな。ようやく射止めた愛しい婚約者のお披露目会ですのに」
脇からひょいと会話に加わったのはベルフェルトだ。
「お披露目といってもね、お前たちみたいに純粋に祝福してくれる者たちばかりでもないからね」
本音を滲ませた言葉に、その場にいた者たち全員から苦笑が漏れる。
「大丈夫ですわ、殿下。そのような者たちのためにお気を害する必要もありません。わたくしには、お二人が幸せになる未来しか見えませんもの」
「ありがとう。同じ言葉をそのまま君たちに返す。君たち二人の将来も、幸せしかない筈だよ」
こうしたやり取りに対して、ベルフェルトは大袈裟に溜息を吐きながら口を開いた。
「これはこれは。未だ婚約者もいない独り身のオレとしましては、焦燥感が募るばかりの会話にございますな」
「よく言うよ。あえて相手を選ばないくせに。叔父上が心配してたんだぞ、ベルフェルトは一向に身を固める気配がないって」
実際、ベルフェルト・エイモスは非常にモテる。
無造作に流した紫の髪と濃紺の眼が非常に印象的な美形で、背も高く、中世的な顔立ちながら色気も滲み出ていて、その色気にやられたご令嬢たちからは、遊びでもいいからお付き合い願いたいと、引きも切らずに声がかかる。
そして、ベルフェルトも敢えて選択しているのだ。
決して一人には定めない、浅く広い男女の付き合いを。
「はは、バレましたか。空を舞う蝶々の美しさは自由に愛でていたい主義なものでね。こればかりは、どれだけミハイルシュッツさまがお嘆きになろうと改めるつもりはありません。当分、自由にさせてもらいますよ」
「まったく、お前という男は・・・」
「せっかく多くの美しい蝶が私のもとに飛んできてくれるのですよ。楽しまなくては勿体ないでしょう。なぁに、結婚でしたら、別に三十や四十になってからでも遅くはありませんからね」
レオンハルトが困ったように笑う。
叔父から聞いているのだ。
エイモス家当主としての表向きの顔とは別の、諜報員としての立場故に、敢えて特別な存在を作らずにいることを。
シャルムにより負わされた怪我がようやく治りかけた頃、ブルンゲン・エイモスは地下牢に閉じ込められた賢者くずれとの接触を図ろうとし、息子ベルフェルト自身の手で処分された。
その後、当のベルフェルトからの願いで、諜報機関の表向きのトップをリュークザイン・ライプニヒに、裏の取りまとめ役としてベルフェルト・エイモスが立つことになった。
敢えて汚れ役を買って出るベルフェルトをミハイルシュッツは痛く心配しており、処遇を変えようと何度も声をかけるのだが、ベルフェルト自身が一向に耳を貸さない。
特定の相手すら決めないほどの徹底ぶりで、これではいつまでたってもベルフェルトが幸せになれない、とミハイルシュッツだけでなく、シャールベルムも気をもんでいるのだ。
「ご心配はいりません。なにも一生結婚しないとは言っておりませんよ?」
そう言って不敵に笑うベルフェルトを、相変わらず人の上をいく男だ、とレオンハルトは思うのだった。
「おめでとうございます。王太子殿下、そして、カトリアナさま」
幸せそうな二人の姿に、エレアーナたちも自然と笑みが溢れる。
何よりこの二人は、エレアーナが最も信頼し、最も幸せになってほしい友人でもあるのだから。
「ありがとう。まぁ、告白のきっかけは、ちょっと間抜けだったけどね」
そう言って恥ずかしそうに笑うレオンは、いつもと同じ穏やかな空気を纏っていて。
「来年には、アリエラさまがわたくしのお義姉さまになられます。そうなると、カトリアナさまとも義理の姉妹になれるのですね。大変、光栄に思っておりますわ」
そう言いながら、ちらりと会場後方で談笑している兄たちに視線を投げる。
「そうか。来年なんだ。忙しくなるね」
「そうですね。兄などは待ちきれないようで、今からそわそわしておりますわ」
そう言って苦笑する。
「ふふ、社交界でも噂になってたものね。『氷の彫像』が、愛しの婚約者の前でだけは微笑むってさ」
「そうなのですか? わたくしは笑顔の兄しか存じませんので、そちらの噂の方が信じられないのですが」
「そっか。アイスケルヒは妹の君にも随分と甘かったんだっけね。でも実際、彼の笑みはなかなかお目にかかれないものだったんだよ」
そして、ふと思い出したように付け加えた。
「なかなかお目にかかれないといえば、ケインがエレアーナ嬢にだけ見せる甘々の顔もそうだよね」
「え?」
レオンハルトが視線をケインへと移す。
「基本、無表情のケインが、エレアーナ嬢の前だと赤くなったり、照れたり、微笑んだりってころころ表情が変わるもんね」
くすくすと笑いながら揶揄うが、ケインはあまり自覚がなかったようで、きょとんとしている。
「・・・そんなに違うのか? 俺は」
「社交界のご令嬢たちがこぞって嘆くほどにはね」
そう言うと、おもむろに隣にいたカトリアナの腕を取り、その手の甲に唇を落とす。
「レ、レオンさま?」
「おかげで一部のご令嬢たちの執念が僕に向けられて、ほとほと困ってたけど、もう僕には愛しいカトリアナがいる。これからは思う存分、カトリアナとの時間を楽しむことにするよ」
「王太子殿下だって、カトリアナさまへ向ける表情は他とは全く違いましてよ?」
ふふ、と笑いながらエレアーナが指摘する。
「もともとお優しい方なのは存じ上げておりましたけれど、カトリアナさまに向ける眼差しには、他の感情も込められているようですわ。愛しさとか、熱情とか、労わりとか、独占欲とか、それはもう、いろいろと」
「まぁ、独占したいというのは確かだろうね。本音を言えば、こんなところにいるよりも、カトリアナと二人きりで過ごしたいもの」
「おやおや、こんなところとは酷い言い草ですな。ようやく射止めた愛しい婚約者のお披露目会ですのに」
脇からひょいと会話に加わったのはベルフェルトだ。
「お披露目といってもね、お前たちみたいに純粋に祝福してくれる者たちばかりでもないからね」
本音を滲ませた言葉に、その場にいた者たち全員から苦笑が漏れる。
「大丈夫ですわ、殿下。そのような者たちのためにお気を害する必要もありません。わたくしには、お二人が幸せになる未来しか見えませんもの」
「ありがとう。同じ言葉をそのまま君たちに返す。君たち二人の将来も、幸せしかない筈だよ」
こうしたやり取りに対して、ベルフェルトは大袈裟に溜息を吐きながら口を開いた。
「これはこれは。未だ婚約者もいない独り身のオレとしましては、焦燥感が募るばかりの会話にございますな」
「よく言うよ。あえて相手を選ばないくせに。叔父上が心配してたんだぞ、ベルフェルトは一向に身を固める気配がないって」
実際、ベルフェルト・エイモスは非常にモテる。
無造作に流した紫の髪と濃紺の眼が非常に印象的な美形で、背も高く、中世的な顔立ちながら色気も滲み出ていて、その色気にやられたご令嬢たちからは、遊びでもいいからお付き合い願いたいと、引きも切らずに声がかかる。
そして、ベルフェルトも敢えて選択しているのだ。
決して一人には定めない、浅く広い男女の付き合いを。
「はは、バレましたか。空を舞う蝶々の美しさは自由に愛でていたい主義なものでね。こればかりは、どれだけミハイルシュッツさまがお嘆きになろうと改めるつもりはありません。当分、自由にさせてもらいますよ」
「まったく、お前という男は・・・」
「せっかく多くの美しい蝶が私のもとに飛んできてくれるのですよ。楽しまなくては勿体ないでしょう。なぁに、結婚でしたら、別に三十や四十になってからでも遅くはありませんからね」
レオンハルトが困ったように笑う。
叔父から聞いているのだ。
エイモス家当主としての表向きの顔とは別の、諜報員としての立場故に、敢えて特別な存在を作らずにいることを。
シャルムにより負わされた怪我がようやく治りかけた頃、ブルンゲン・エイモスは地下牢に閉じ込められた賢者くずれとの接触を図ろうとし、息子ベルフェルト自身の手で処分された。
その後、当のベルフェルトからの願いで、諜報機関の表向きのトップをリュークザイン・ライプニヒに、裏の取りまとめ役としてベルフェルト・エイモスが立つことになった。
敢えて汚れ役を買って出るベルフェルトをミハイルシュッツは痛く心配しており、処遇を変えようと何度も声をかけるのだが、ベルフェルト自身が一向に耳を貸さない。
特定の相手すら決めないほどの徹底ぶりで、これではいつまでたってもベルフェルトが幸せになれない、とミハイルシュッツだけでなく、シャールベルムも気をもんでいるのだ。
「ご心配はいりません。なにも一生結婚しないとは言っておりませんよ?」
そう言って不敵に笑うベルフェルトを、相変わらず人の上をいく男だ、とレオンハルトは思うのだった。
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