【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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傷だらけの指先

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早朝の鍛錬場。
剣が風を切る音が響く。

カン、という少し高めの音と共にはじかれた模造剣を素早く構え直し、アッテンボローは再び距離を詰める。

「おっと」

軽い掛け声を出しながら、それを難なく躱すのはライナスバージ。
二人共、額には汗が滲んでいる。

「・・・成程な。それで、昨日カトリアナ嬢の側に侍女姿のシュリエラ嬢がいた訳か」

考え込むように話していても、剣筋は鈍ることなく打ち込んでくる。

「それにしても、お前がシュリエラ嬢と見合いねぇ」

揶揄うような口ぶりに、思わず剣を振り上げた腕に力が籠る。

「文句、ある、かっ!」

打ち込みながら、問い返す。

「別に、ねー、よっ!」

それら全てを軽快に打ち返す。

間が空いて、しばし剣を肩に置いて息を整える。

「むしろ、よくやったって感じ?」

にかっと笑みを浮かべながら、ライナスは言葉を続けた。

「今、王都は人で溢れてるからな。今のところは下らない小競り合い程度のものばかりだけど、もしリュークザイン絡みで危ない目に遭う可能性があるんなら、お前が付いててくれたら安心だもんな」
「そうか」
「それに、どさくさに紛れて告白できたようだし?」
「・・・」

不敵な笑みで余計な一言を付け加える。

「ははっ、そんな睨むなよ。それで? 最初のお見合いは、どんな時間を過ごしたんだよ?」
「・・・刺繍」
「は?」
「だから刺繍を、やらされたんだよ」
「・・・マジかよ? うわ、さすがシュリエラ嬢」
「作業が細かすぎて死ぬかと思った」
「ああ、だから指先そんなになってんのか」

傷だらけの指を見ながら、けらけらと笑う。

くそ、他人事だと思って。

汗を拭きながら、心の中で毒づいた。

手拭いを肩にかけ、筒から水を飲む。
朝の澄み切った空を見上げていたら、ライナスバージは俺の顔をじっと見て、口を開いた。

「でもさ、マジで今、王都に人が集まってるからなぁ、確かにそんな風に頼んでおかないと眼が行き届かないかもしれないぜ。家んとこも、今、忙しくて大変なんだよ。領地から親戚一同が物見遊山で来ちゃっててさ。この忙しいのに、従妹とか街を案内しろって煩くて煩くて。もう恐ろしくて家なんか寄りつけないもん」
「従妹って、前に言ってた縁談が持ち上がりかけたっていう・・・」
「そうそう、そいつ。いや、もの凄いじゃじゃ馬でさ、無鉄砲で、気が強くて、しかも腕っぷしもなかなか強いの。そんなのと一緒にいたら、絶対何かに巻き込まれるに決まってるだろ? あれは近寄らないに限る」
「そうか。それはなんか・・・凄そうだな」

両手で自分の身体を抱え込むようにして身震いする姿に、興味半分、呆れ半分の笑みが浮かぶ。

「お前もな、そいつ見かけても絶対近寄んない方がいいぞ」
「いや、顏知らんし、そもそも俺、シュリエラ嬢に引っ付いてる予定だし」
「だよなぁ。ここで良いとこ見せなきゃ、捨てられちまうわな」

嫌なこと言うなよ。
ずっと拗らせて、やっと進み始めたばかりの恋なんだから。

とは言わない。
拗らせたのは、自分の勝手な思い込みのせいだから。

だから、これはちゃんと自分で始末つけないとな。

告白を疑わせるようなことをしたのは自分だ。
だから、証明するのも自分。

あの裏表のない真っすぐすぎる女性ひとには、正攻法で気持ちを表し続けていくしかない。

「・・・そろそろ行くか」
「ああ、そうだな。お前は朝から愛しのシュリエラ嬢の顔が見れるんだっけ。役得じゃんか」
「・・・煩い」
「まぁ、王城で何かあるとは思わないけど、頑張れよ、護衛」
「・・・そっちもな」

身体を拭いて身支度を整えるため、一旦、騎士寮に戻る。
針で刺しまくった指先が水にしみて地味に痛い。

でも、今まではこんなことで痛がることも出来なかった。
ただ遠くから見てただけの恋だったから。

だから、こんな痛みも彼女に一歩近づけた印のようで。
ようやく勇気を出せた証のようで。

なんだか嬉しくてしょうがなかった。

・・・でも次に会う時は、刺繍は勘弁してほしい、かな。
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