【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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鮮やかすぎる手並

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「・・・」

予想外の人物の登場に言葉もなく立っていたオレの視界に、店主を怒鳴りつけていたもう一人の酔っ払いが、怒りで赤黒い顔を醜く歪ませて拳を振り上げる姿が映った。

そしてその拳は、まだしゃがんだままの娘の頭上に振り下ろされる。

「あぶな・・・」

声を発するよりも早く、その娘が動く。
刹那、男は壁に吹っ飛ばされた。

「な・・・?」

ここで蹴りを入れるとは。
なんという素早い動きだ。

呆然としかけたが、転ばされていた男が起き上がってその娘に飛びかかろうとしたのに気付き、背後から羽交い絞めにして動きを封じる。

「・・・店主。自警団を呼びにやってくれ。こいつらを引き渡す」

目の前で起きた出来事に理解がついていかず呆気に取られていた店主が、オレの言葉にハッと我に返り、慌てて店の者を使いに出す。

ほどなくして現れた自警団に男らを引き渡し、店内にもようやくいつもの賑わいが戻ってきた。

「あの、なんとお礼を言ったらいいか・・・」

店主がテーブルにやって来て頭を下げる。

「オレは殆ど何もしていない。礼を言うならあの娘にだろう」

何食わぬ顔で飲食を再開している娘を顎で指す。

「はい、勿論、あちらのお嬢さんにも後で礼は致します。ですが旦那さまも助けに入ってくださいましたので、その、本当にありがとうございました。最近よくこの店に来ては騒いでいた奴らでして、ほとほと困っていたんですよ」
「そうか。今は人の出入りが激しいからな。見たところ、あちこちでちょこちょこと騒動も起きているようだ。店主も災難だったな」

店主はそれから娘の方に行き、また頭を下げていた。

その様子を何とはなしに観察する。

闘えるという事実以外は、怪しい素振りも何もないのだが。

それにしても、一体、何者なのだろうか?
動きがあまりにも闘い慣れている。

洗練された動きというよりは寧ろ、実戦で鍛え上げたかのような。

オレの測るような視線に気づいたのか、娘が顔を上げた。
視線が合い、娘はオレに笑いかける。

その屈託のない笑顔に、疑いと警戒の眼で彼女を見ていたオレは少しの後ろめたさを感じて。
そんなオレの感情を知る筈もない彼女が、席を立ってオレの席へと近づいてくる。

そしてオレの前でぴたりと足を止め、にこにこ笑いながら話しかけてきた。

「こんにちは。さっきは助けてくれてありがとう。会うのはこれで二度目だけど、貴方って強いのね」

その言葉に、オレは硬直した。

何故、分かった?
オレは変装している。
今日も、この間もだ。

「ねぇ、ここ、座ってもいい?」

人懐こそうな顔で、オレが座っていたテーブルを指で示す。

「・・・どうぞ」

こちらとしても願ったりだ。

調べなければ。
この娘、どうにも普通じゃなさすぎる。

「ねぇ、貴方。貴方って変装が趣味なの?」
「・・・」

怪しい、のだが。
どうにも直球すぎて、悪事を働く側の人間とも思い難い。

判断しかねて、まずは反応を見ようと正直に答えてみた。

「仕事中でな。相手に顏が割れると困るのだ」
「そっか。道理で、趣味にしては完璧すぎると思ったわ」
「見破られた事など、今まで一度もなかったのだがな」

事実通りなのだが、別にがっかりもしていない。
だが、いかにもそんな風を装ってそんな台詞を口にすると、相手はふふ、と笑った。

「で、変装してるのはどうしてなの? 素顔がバレると困るような悪いことを貴方がしてるから? それとも悪いことをしてるヤツらに顏を知られずに悪事を暴きたいから?」
「言ったら素直に信じてくれるのかい?」
「信じるわよ。だって、貴方、見かける度に人を助ける方向に動こうとしてるじゃない」

笑ってしまった。

なかなか面白い娘だ。
行動も言ってることもかなり無鉄砲の部類に入るのだろうが、実力が伴っているから危なげがない。

一体、どこの娘なのだろう。

気になってそちらに水を向けた。

「君は?」
「はい?」
「君はどうしてそんなに強いんだい? どこをどう見ても普通のお嬢さんには見えないが」

この娘には駆け引きは必要なさそうだ。

そう思ったから、こちらも直接聞いてみた。

オレの質問に、うーん、と首を捻る。

「育った家が普通じゃないから、かな?」
「ほう」
「うちね、もの凄く武術に煩い家系なの。闘えないと一人前とは見なしてもらえないから、色々と仕込まれちゃった。弓とか槍とかね。だから勿論、剣だって扱えるわよ」
「それはそれは」

その言葉を聞いて、思わず騎士団長の顔が浮かんだ。

カーン・ロッテングルム。
自らも王国一の剣の腕を誇りながら、決して奢らず、鍛錬を怠らず、己にも他者にも克己心と厳しさを求める男。
その息子四人全員を剣の達人に育て上げた男。

特に三男のライナスバージ・ロッテングルムの剣技は若い頃のカーンを彷彿とさせる程の腕前だ。

ロッテングルム家では、武術全般を一通り身につける事が求められるという。
似たような家訓を持つ所もあるのだな、と苦笑が漏れた。

・・・と、ここに来て、オレはロッテングルム家の特徴を思い出した。

カーンも、勿論ライナスバージにも受け継がれている茶色の髪に赤の瞳。

それから、目の前でにこにこと何やら楽しそうにしている娘に意識を戻して。
ハニーブラウンの髪、赤色の瞳。

・・・まさか。
いやいやいや、そんな筈はないだろう。

カーンの家は息子ばかり四人の筈。娘はいない。

「ああ、でもね、一応、家の中でも強い方らしいのよ? 私も」
「・・・そういえばまだ名乗っていなかったな。オレはベルフェルト・エイモスだ。ここ、王都に住んでいる者だが・・・君は?」

あれ、と目を丸くした彼女は、へへ、と照れくさそうに笑った。

「言ってなかったっけ。ごめんなさい、名前も知らないのに馴れ馴れしくしちゃって。またお父さまに令嬢失格だって怒られちゃうわ。ええと、その名前からすると貴方も貴族よね」

今、何といった?

お父さま? 令嬢?
・・・貴方も・貴族よね、だと?

「では、改めまして」

こほん、と咳払いをすると、それまでのくだけた口調ががらりと変わった。

「大変失礼いたしました。改めてご挨拶をさせていただきます」

それまでの人懐こい笑みは消え、いかにも貴族然とした微笑み、そして佇まいへと変わる。
オレは、その変化をただただ驚いていた。

「・・・初めまして、ベルフェルト・エイモスさま。わたくしはルナフレイア・ロッテングルム。王国騎士団長カーン・ロッテングルムの姪にございますわ」
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