【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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悪戯心

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いきなり距離を詰めても驚かせるだけだ。

そう頭では分かっているのだが。

心の中では、そんな考えとは裏腹に、悪戯心がむくむくと湧いてくる。

もっと困らせたい。
もっと頬を染めてほしい。

そんな欲望のままに、手の甲に唇を押しあてた。

「ア、アッテンボローさま?」

唇を甲にあてたまま、上目遣いで表情を盗み見る。

やっぱり可愛いな。
真っ赤じゃないか。

「・・・っ! 貴方ねぇ? やる事が極端すぎますわ! これまでずっと、碌にわたくしと視線も合わせなかったくせに。何ですの? 突然お見合いにやって来たかと思ったら、急にこんな・・・」
「それは謝る。悪かった」

態度が豹変した自覚はある。もの凄くある。
だから素直に謝った。

「初めて会った時から、君の事が気になっていた。だが、俺はどうにも自分に自信が持てなくて、それ以上気持ちが育たないように抑えつけてたんだ。君に告白できるような立派な男ではない、といじけてさ」
「それで上手く言い訳したおつもりですか? いくら兄から頼まれたからって、そんな後から取ってつけたような理由なんか考えなくてもよろしくてよ」
「そんなんじゃない。本当のことだ」
「もういい加減にしてくださいませ。貴方のような立派な騎士さまが、こんなくだらない戯れを」
「シュリエラ嬢」

子どもをあやすように頬をそっと抑える。

「なんですの?」
「・・・大好きだ」
「・・・だから・・・」

シュリエラは真っ赤な顔をしながらも、きっとアッテンボローを睨みつけた。

「好きだって言えば誤魔化されると思ってらっしゃるでしょう? 演技なんて結構です。揶揄うのも止してください。わたくしはそんな簡単に騙されませんからね」

いきなりすぎて困らせたか。

今更ながら、これまでの臆病すぎた自分の態度が呪わしかった。

だが、これからだ。

これからじっくり口説けばいい。
この勝ち気で、強情で、世界一愛らしい人を。

リュークザインが腑抜けの俺に与えてくれた貴重なチャンスを、絶対に逃さない。

「困らせて悪かった。だが俺は本気だ。これまで逃げ回ってた俺がこんなことを言っても信じられないのはしょうがない。だから、これからちゃんと行動で俺の気持ちを証明してみせるから」
「・・・」
「少しだけ時間をくれ。そして俺のすることを見ててほしい」
「・・・」
「シュリエラ嬢」
「・・・勝手になさったらいいわ」
「ありがとう。勝手にやらせてもらうよ」
「だから、申し上げてますでしょう? ご勝手にどうぞ」

ふん、とそっぽを向いてしまっても、その顔はゆで上げたみたいに真っ赤だ。

今日のところはこれくらいにしとくか、と気持ちが落ち着いてきたところで、彼女の肩の向こうに、やたらニコニコと喜んでいるカトリアナ嬢が目に入った。

・・・途中までは、ちゃんと覚えてたのに。

カトリアナ嬢が一緒だった事を失念していた。

・・・しかも、もの凄く楽しそう。

その満面の笑みに引きずられるように、俺も口角を上げる。

まだ彼女の存在を忘れているシュリエラ嬢は、急に笑みを浮かべた俺をきっと睨みつける。

「もう、何がおかしいんですか?」

ええと。
これは、どうするのが正解なのか。

と、悩んだ俺をあざ笑うかのように、カトリアナ嬢が口を開く。

「アッテンボローさまは、わたくしに応えて下さっただけですわ、シュリエラさま」

おお、ここで出てくるか。
まぁ、ずっと黙ってるわけにもいかないしな。

しかし、これは。

予想通りと言おうか。
はたまた、予想以上か。

カトリアナ嬢の声を耳にした瞬間、シュリエラ嬢はぴしりと固まって。
そのまま動かないだけじゃなく、それきり何も喋らなくなったから、どうしようかとトリアナ嬢へと目を向けた。

するとカトリアナ嬢は、すすっと側に寄ってきて、そっと扇を口元に添え、俺の耳元でこんなことを囁いた。

「チャンスですわ。今のうちに唇を奪っておしまいになってはいかがです?」
「は?」
「ほら、お早く」
「え? ちょっ」

慌てる俺の横から、低めの声が響く。

「・・・カトリアナさま?」

復活したシュリエラ嬢だった。

「貴女、アッテンボローさまに何くだらない事を焚きつけてらっしゃるのです?」
「あら、聞こえてしまいましたか」
「あら、じゃありませんよ」

・・・カトリアナ嬢の素はコレなのか。
大人しく賢いだけのご令嬢ではなかったようだな。

結構ミーハーだし、年相応にふざけるところもあるようで。

シュリエラ嬢ときゃあきゃあ騒ぐ姿は、なんだか心が和む光景で、俺は思わず吹き出してしまった。
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