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素朴な疑問
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「ちょっといいか?」
休憩の後、カトリアナが授業を受けるための移動の最中に、アッテンボローが新しく仲間となったルナフレイアに首を捻りながら聞いてきた。
「なんでしょうか?」
「ライナスの奴が前に言ってたんだけど、君とあいつって縁談が持ち上がってたんだろ? それがお流れになったって聞いたんだが」
「そうですね」
この男は腹芸が苦手である。
故に直球で聞いてきた。
「それは、君があいつを振ったってことか?」
何の下心も揶揄もない、ただ疑問に思ったからこそ口から出た真っ直ぐな問いに、ルナフレイアは思わず笑みを漏らした。
「うーん、どうなんでしょう。お互いがお互いを振ったという方がより正しいような気がしますが」
首を傾げながら、上手く説明できないのですが、と付け加えられ、よく意味が分からなかったアッテンは更に問いを重ねる。
「互いが互いを振る、とはつまり・・・互いに嫌がったという事か?」
「嫌がったというよりは、都合が良かったので、ライナスの思惑にこちらも乗っかったという感じでしょうか」
ルナはそう答えたが、アッテンボローは余り納得出来ていなかった。
「だが、あいつは君のことを随分と気にかけているように見えるが」
その問いに、ルナフレイアは少し眉を顰める。
「あれはですね、ただのすり替えですよ」
「・・・は?」
「ああやって自分の気持ちを誤魔化しているんです」
「はあ・・・」
何だか、分かったような分からないような。
それでも、互いに恋愛感情はないというのは本当のようで。
どうもよく分からん仲だな、と思って頭を掻いていると、ルナフレイアがぽつりと呟いた。
「ライナス兄さまには、ちゃんと好きな人がいらっしゃるんですよ」
「・・・」
あいつに、好きな人。
初耳だった。
「何だか格好つけて、色々理屈こね回して、認めようとしないんですけどね、あのお馬鹿は」
「・・・」
口調に振り幅があるのは何故なんだろう。
そんな事を考えた時、前方から射抜くような視線が飛んできた。
「他の方の恋話に首を突っ込む前に、もう少しご自分がしゃんとなさったらいかがですの? アッテンボローさま」
心当たりがありすぎる発言に、少し動揺して。
「・・・そうだな」
ごもっとも。
そう返すしかなかった。
俺とシュリエラ嬢の関係をまだ知らないらしいルナフレイアが、彼女の発言に目を丸くしている。
一応知らせておこうと思い、口を開いた。
「彼女は俺の婚約者だ」
「まぁ」
そう一言、呟いて。
それから何か勘付いたようで更に一言。
「それはつまり、アッテンボローさまも何か誤魔化していたという事ですね?」
そう聞かれた。
流石、この仕事に抜擢されただけの事はある。
冷や汗ものの鋭さだ。
「はは・・・」
とりあえずその場は笑って話を流す事にした。
それから2日後。
ある貴族の邸で夜会が催され、シュリエラたちもそこに出席した時のことだ。
「やあ、久しぶり、シュリエラ嬢。君は相変わらず美しいな」
シュリエラに声をかけてきた一人の男がいた。
その時、ちょうどアッテンボローはホール端に設置されていたスペースに飲み物を取りに行っていて側におらず、シュリエラは一人だった。
「お久しぶりでございます。クラウブルさま」
クラウブルと呼ばれたその男は、美しくカーテシーを取るシュリエラを目を細めて見つめる。
「婚約したと聞いた。・・・喜ぶべきなのだろうが、素直に祝福はできないな。相手は数代前に伯爵になったばかりの成り上がりだそうじゃないか」
「・・・何か問題でも?」
「問題だらけだ」
会うなり嫌味ったらしい事を言い出したクラウブルに、冷ややかな言葉を返したシュリエラだったが、そんな事ではめげない様子で更に言葉を続けた。
「君は歴史あるライプニヒ公爵家だぞ? 本来ならもっと格式ある家と縁を結ぶべきだろう。高位貴族の自覚が足りないと専らの噂だぞ」
「それを自覚と呼ぶのでしたら、随分と下らないものですのね、高位貴族の自覚とやらは」
「なっ?」
「他の誰かに頼らなければ保てないような自覚など、持つ意味がありませんわ」
辱めようとした相手から逆に馬鹿にされ、クラウブルの頬が羞恥でさっと赤くなる。
衝動的に口を開いて何かを言いかけるも、ぐっと堪えて声を低めた。
「まったく。君の兄のリュークザインの婚約だって相当可笑しな話だったんだ。当代で子爵になったばかりの平民くさい娘を選ぶなんてな」
その顔には薄ら笑いが浮かんでいる。
「兄妹揃って禄でもない縁談しか結べないとは、ライプニヒ家もいよいよ終わりが近いんじゃないか?」
嘲るような視線をシュリエラは真っ直ぐに見返した。
「わたくしは禄でもない縁談だとは思いませんわ。・・・そうですわね、少なくとも貴方との縁談をいただくより余程いいお話だと思っておりますわ」
「はあ?」
思わず大きな声を上げたクラウブルに構うことなく、シュリエラは言葉を続ける。
「ああ、そういえば貴方も申し込んでくださっていたそうですわね、兄から聞きましたわ」
シュリエラの切り返しに、クラウブルの肩がびくりと揺れる。
「ですが兄は貴方からのお話を断ってアッテンボローさまを選ぶことにしたそうですわ。その事では、わたくしも兄にとても感謝しておりますの。我が兄ながら人を見る目があると感心いたしまして」
華やかな微笑みと共に、そう語る。
「・・・俺を馬鹿にする気か?」
ギラリと怒りを宿した瞳に睨まれるが、シュリエラは怯まない。
「何を仰いますの? 貴方が馬鹿にしたんでしょう? ラエラさまを、兄を、アッテンボローさまを。・・・そしてあの方を選んだわたくしを」
休憩の後、カトリアナが授業を受けるための移動の最中に、アッテンボローが新しく仲間となったルナフレイアに首を捻りながら聞いてきた。
「なんでしょうか?」
「ライナスの奴が前に言ってたんだけど、君とあいつって縁談が持ち上がってたんだろ? それがお流れになったって聞いたんだが」
「そうですね」
この男は腹芸が苦手である。
故に直球で聞いてきた。
「それは、君があいつを振ったってことか?」
何の下心も揶揄もない、ただ疑問に思ったからこそ口から出た真っ直ぐな問いに、ルナフレイアは思わず笑みを漏らした。
「うーん、どうなんでしょう。お互いがお互いを振ったという方がより正しいような気がしますが」
首を傾げながら、上手く説明できないのですが、と付け加えられ、よく意味が分からなかったアッテンは更に問いを重ねる。
「互いが互いを振る、とはつまり・・・互いに嫌がったという事か?」
「嫌がったというよりは、都合が良かったので、ライナスの思惑にこちらも乗っかったという感じでしょうか」
ルナはそう答えたが、アッテンボローは余り納得出来ていなかった。
「だが、あいつは君のことを随分と気にかけているように見えるが」
その問いに、ルナフレイアは少し眉を顰める。
「あれはですね、ただのすり替えですよ」
「・・・は?」
「ああやって自分の気持ちを誤魔化しているんです」
「はあ・・・」
何だか、分かったような分からないような。
それでも、互いに恋愛感情はないというのは本当のようで。
どうもよく分からん仲だな、と思って頭を掻いていると、ルナフレイアがぽつりと呟いた。
「ライナス兄さまには、ちゃんと好きな人がいらっしゃるんですよ」
「・・・」
あいつに、好きな人。
初耳だった。
「何だか格好つけて、色々理屈こね回して、認めようとしないんですけどね、あのお馬鹿は」
「・・・」
口調に振り幅があるのは何故なんだろう。
そんな事を考えた時、前方から射抜くような視線が飛んできた。
「他の方の恋話に首を突っ込む前に、もう少しご自分がしゃんとなさったらいかがですの? アッテンボローさま」
心当たりがありすぎる発言に、少し動揺して。
「・・・そうだな」
ごもっとも。
そう返すしかなかった。
俺とシュリエラ嬢の関係をまだ知らないらしいルナフレイアが、彼女の発言に目を丸くしている。
一応知らせておこうと思い、口を開いた。
「彼女は俺の婚約者だ」
「まぁ」
そう一言、呟いて。
それから何か勘付いたようで更に一言。
「それはつまり、アッテンボローさまも何か誤魔化していたという事ですね?」
そう聞かれた。
流石、この仕事に抜擢されただけの事はある。
冷や汗ものの鋭さだ。
「はは・・・」
とりあえずその場は笑って話を流す事にした。
それから2日後。
ある貴族の邸で夜会が催され、シュリエラたちもそこに出席した時のことだ。
「やあ、久しぶり、シュリエラ嬢。君は相変わらず美しいな」
シュリエラに声をかけてきた一人の男がいた。
その時、ちょうどアッテンボローはホール端に設置されていたスペースに飲み物を取りに行っていて側におらず、シュリエラは一人だった。
「お久しぶりでございます。クラウブルさま」
クラウブルと呼ばれたその男は、美しくカーテシーを取るシュリエラを目を細めて見つめる。
「婚約したと聞いた。・・・喜ぶべきなのだろうが、素直に祝福はできないな。相手は数代前に伯爵になったばかりの成り上がりだそうじゃないか」
「・・・何か問題でも?」
「問題だらけだ」
会うなり嫌味ったらしい事を言い出したクラウブルに、冷ややかな言葉を返したシュリエラだったが、そんな事ではめげない様子で更に言葉を続けた。
「君は歴史あるライプニヒ公爵家だぞ? 本来ならもっと格式ある家と縁を結ぶべきだろう。高位貴族の自覚が足りないと専らの噂だぞ」
「それを自覚と呼ぶのでしたら、随分と下らないものですのね、高位貴族の自覚とやらは」
「なっ?」
「他の誰かに頼らなければ保てないような自覚など、持つ意味がありませんわ」
辱めようとした相手から逆に馬鹿にされ、クラウブルの頬が羞恥でさっと赤くなる。
衝動的に口を開いて何かを言いかけるも、ぐっと堪えて声を低めた。
「まったく。君の兄のリュークザインの婚約だって相当可笑しな話だったんだ。当代で子爵になったばかりの平民くさい娘を選ぶなんてな」
その顔には薄ら笑いが浮かんでいる。
「兄妹揃って禄でもない縁談しか結べないとは、ライプニヒ家もいよいよ終わりが近いんじゃないか?」
嘲るような視線をシュリエラは真っ直ぐに見返した。
「わたくしは禄でもない縁談だとは思いませんわ。・・・そうですわね、少なくとも貴方との縁談をいただくより余程いいお話だと思っておりますわ」
「はあ?」
思わず大きな声を上げたクラウブルに構うことなく、シュリエラは言葉を続ける。
「ああ、そういえば貴方も申し込んでくださっていたそうですわね、兄から聞きましたわ」
シュリエラの切り返しに、クラウブルの肩がびくりと揺れる。
「ですが兄は貴方からのお話を断ってアッテンボローさまを選ぶことにしたそうですわ。その事では、わたくしも兄にとても感謝しておりますの。我が兄ながら人を見る目があると感心いたしまして」
華やかな微笑みと共に、そう語る。
「・・・俺を馬鹿にする気か?」
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