186 / 256
新しい侍女(護衛)
しおりを挟む
目の前でニコニコと笑いながら挨拶をする新しい侍女の姿は、どこをどう見ても先日夜会で会った令嬢と同一人物だとは思えなくて。
・・・今更だけど、ベルフェルトさまの手にかかると、本当に別人になってしまうのね。
頼んだら私にもやってくれるかしら?
「・・・カトリアナ嬢?」
アッテンボローから訝しげに名前を呼ばれ、ハッと我にかえる。
また思考がどこかに行ってしまうところだったわ。
アッテンボローはもう慣れたようだが、新しい侍女は珍しそうに目を見開いてカトリアナを見ている。
ええと、彼女のことはアッテンボローさまもシュリエラさまもご存知なのよね。
「こちらこそよろしくお願いしますわ。貴女のことを何とお呼びしたらいいかしら」
「フレイアとお呼びくださいませ、カトリアナさま」
肩まである紫の髪をさらりと揺らし、そう彼女は答えた。
「わかりましたわ。よろしくね、フレイア。こちらが私のもう一人の侍女の方になりますわ」
「シュリエラです。この間とはまた違った姿なのね」
「どうも素顔は出さない方がいいらしくて。ベルフェルトさまにいじくられちゃいました」
そう言うと、見た目に反して相当な腕であるという少女は屈託なく笑う。
何やら新しい情報が入ったとかで、急に身辺が慌ただしくなったカトリアナだったが、まだ確証がないということで詳しい話は聞かされていなかった。
だが護衛が増やされるとは、つまりそういう事で。
エレアーナの時のこともある。
婚約式の時に姉から覚悟しておくようにと散々脅されてもいる。
だから今更、戸惑いはしない。
そんな危険をひっくるめて、レオンさまの隣にいると決めたから。
不思議と怖くはなかった。
あるのは深い、深い信頼だけ。
「頼らせていただきますわね、フレイア」
カトリアナは、可愛らしくも頼もしい護衛を前に穏やかに微笑んだ。
「・・・なんでその髪色なんだ?」
じと目で見てくる従兄に、「さあ?」と首を傾げる。
「髪色なんてどうでもいいじゃない。どうせ変装だもの。ベルフェルトさまだって適当に決めただけでしょ」
「わざわざ自分と同じ髪色にか?」
カトリアナの護衛に就くという事は、必然、レオンハルトの護衛であるライナスに出くわす場面も増えるという事で。
会うなり、ベルフェルトが変装で変えた髪の色に、いちゃもんをつけられている。
「別に深い意味なんてないでしょ」
「ないとしてもだな・・・」
ただ今、レオンハルトとカトリアナは休憩時間に恒例のお茶会をしている最中だ。
普段であればアッテンボローと二人、対極に立ち周囲を見張るものの、ルナフレイアがいると知っている今日は、まず一番にささっと側に寄ってきてブツブツ言い出す始末だ。
「なにをブツブツと面倒くさいこと言ってるの。小姑じゃあるまいし」
ボソリと呟いた一言に、少し離れたところに立っていたアッテンボローが吹きだして。
そんなアッテンボローは、カトリアナの後ろに控えていたシュリエラにじろりと睨まれる。
「小姑ってお前、分かってんのか? その例えだと、あいつがお前の旦那って事になるんだぞ?」
「ああもう。煩いな。そう言う話じゃないわよね? この間も言ったでしょ、過保護にするのもいい加減にして。また勝負を挑まれたいの?」
「う・・・。わかったよ、ごめん」
やっと大人しくなった、と思って安堵したのも束の間、レオンたちにお茶を出して後ろに下がった侍従がにやりと笑うのが見えた。
・・・そこにいたのね。
面倒が起きそうな予感に、ルナフレイアが頭を抑えると、案の定、その侍従がライナスの側を通り過ぎる時に何事かを囁いた。
「なっ、おま・・・」
ライナスは声を上げかけて、周囲の視線に気づき、口を閉じる。
・・・あーあ、また揶揄われてる。
ホント、ベルフェルトさまったら悪戯好きなんだから。
ちらりと横目で従兄を観察すれば、何か自分に言いたそうな顔をしながらも、さっき怒られたばかりなのでそれも出来ず、不満そうな表情を浮かべて立っている。
静かになりかけた水面に石を投じた当の本人はと言えば、茶器セットの側で涼しい顔をしてこちらを眺めていて。
ホント、いい性格してるわね。
面倒見が良すぎて、なのにやり方が回りくどくて、結局損をするタイプってところかしら。
少しは自分の事を構いなさいよ。
そう思ったルナフレイアは、他人の事ばかり心配するなとベルフェルトに伝えたくて、べっと舌を出した。
すると、その反応は予想外だったのか、それを見たベルフェルトは破顔して。
だけど、それはなんだか余りに無防備な笑顔で。
普段は腹の底を決して見せようとしない男がそんな表情をした事にルナフレイアは驚いて。
思わずばっと目を逸らしてしまった。
・・・今更だけど、ベルフェルトさまの手にかかると、本当に別人になってしまうのね。
頼んだら私にもやってくれるかしら?
「・・・カトリアナ嬢?」
アッテンボローから訝しげに名前を呼ばれ、ハッと我にかえる。
また思考がどこかに行ってしまうところだったわ。
アッテンボローはもう慣れたようだが、新しい侍女は珍しそうに目を見開いてカトリアナを見ている。
ええと、彼女のことはアッテンボローさまもシュリエラさまもご存知なのよね。
「こちらこそよろしくお願いしますわ。貴女のことを何とお呼びしたらいいかしら」
「フレイアとお呼びくださいませ、カトリアナさま」
肩まである紫の髪をさらりと揺らし、そう彼女は答えた。
「わかりましたわ。よろしくね、フレイア。こちらが私のもう一人の侍女の方になりますわ」
「シュリエラです。この間とはまた違った姿なのね」
「どうも素顔は出さない方がいいらしくて。ベルフェルトさまにいじくられちゃいました」
そう言うと、見た目に反して相当な腕であるという少女は屈託なく笑う。
何やら新しい情報が入ったとかで、急に身辺が慌ただしくなったカトリアナだったが、まだ確証がないということで詳しい話は聞かされていなかった。
だが護衛が増やされるとは、つまりそういう事で。
エレアーナの時のこともある。
婚約式の時に姉から覚悟しておくようにと散々脅されてもいる。
だから今更、戸惑いはしない。
そんな危険をひっくるめて、レオンさまの隣にいると決めたから。
不思議と怖くはなかった。
あるのは深い、深い信頼だけ。
「頼らせていただきますわね、フレイア」
カトリアナは、可愛らしくも頼もしい護衛を前に穏やかに微笑んだ。
「・・・なんでその髪色なんだ?」
じと目で見てくる従兄に、「さあ?」と首を傾げる。
「髪色なんてどうでもいいじゃない。どうせ変装だもの。ベルフェルトさまだって適当に決めただけでしょ」
「わざわざ自分と同じ髪色にか?」
カトリアナの護衛に就くという事は、必然、レオンハルトの護衛であるライナスに出くわす場面も増えるという事で。
会うなり、ベルフェルトが変装で変えた髪の色に、いちゃもんをつけられている。
「別に深い意味なんてないでしょ」
「ないとしてもだな・・・」
ただ今、レオンハルトとカトリアナは休憩時間に恒例のお茶会をしている最中だ。
普段であればアッテンボローと二人、対極に立ち周囲を見張るものの、ルナフレイアがいると知っている今日は、まず一番にささっと側に寄ってきてブツブツ言い出す始末だ。
「なにをブツブツと面倒くさいこと言ってるの。小姑じゃあるまいし」
ボソリと呟いた一言に、少し離れたところに立っていたアッテンボローが吹きだして。
そんなアッテンボローは、カトリアナの後ろに控えていたシュリエラにじろりと睨まれる。
「小姑ってお前、分かってんのか? その例えだと、あいつがお前の旦那って事になるんだぞ?」
「ああもう。煩いな。そう言う話じゃないわよね? この間も言ったでしょ、過保護にするのもいい加減にして。また勝負を挑まれたいの?」
「う・・・。わかったよ、ごめん」
やっと大人しくなった、と思って安堵したのも束の間、レオンたちにお茶を出して後ろに下がった侍従がにやりと笑うのが見えた。
・・・そこにいたのね。
面倒が起きそうな予感に、ルナフレイアが頭を抑えると、案の定、その侍従がライナスの側を通り過ぎる時に何事かを囁いた。
「なっ、おま・・・」
ライナスは声を上げかけて、周囲の視線に気づき、口を閉じる。
・・・あーあ、また揶揄われてる。
ホント、ベルフェルトさまったら悪戯好きなんだから。
ちらりと横目で従兄を観察すれば、何か自分に言いたそうな顔をしながらも、さっき怒られたばかりなのでそれも出来ず、不満そうな表情を浮かべて立っている。
静かになりかけた水面に石を投じた当の本人はと言えば、茶器セットの側で涼しい顔をしてこちらを眺めていて。
ホント、いい性格してるわね。
面倒見が良すぎて、なのにやり方が回りくどくて、結局損をするタイプってところかしら。
少しは自分の事を構いなさいよ。
そう思ったルナフレイアは、他人の事ばかり心配するなとベルフェルトに伝えたくて、べっと舌を出した。
すると、その反応は予想外だったのか、それを見たベルフェルトは破顔して。
だけど、それはなんだか余りに無防備な笑顔で。
普段は腹の底を決して見せようとしない男がそんな表情をした事にルナフレイアは驚いて。
思わずばっと目を逸らしてしまった。
29
あなたにおすすめの小説
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
むにゃむにゃしてたら私にだけ冷たい幼馴染と結婚してました~お飾り妻のはずですが溺愛しすぎじゃないですか⁉~
景華
恋愛
「シリウス・カルバン……むにゃむにゃ……私と結婚、してぇ……むにゃむにゃ」
「……は?」
そんな寝言のせいで、すれ違っていた二人が結婚することに!?
精霊が作りし国ローザニア王国。
セレンシア・ピエラ伯爵令嬢には、国家機密扱いとなるほどの秘密があった。
【寝言の強制実行】。
彼女の寝言で発せられた言葉は絶対だ。
精霊の加護を持つ王太子ですらパシリに使ってしまうほどの強制力。
そしてそんな【寝言の強制実行】のせいで結婚してしまった相手は、彼女の幼馴染で公爵令息にして副騎士団長のシリウス・カルバン。
セレンシアを元々愛してしまったがゆえに彼女の前でだけクールに装ってしまうようになっていたシリウスは、この結婚を機に自分の本当の思いを素直に出していくことを決意し自分の思うがままに溺愛しはじめるが、セレンシアはそれを寝言のせいでおかしくなっているのだと勘違いをしたまま。
それどころか、自分の寝言のせいで結婚してしまっては申し訳ないからと、3年間白い結婚をして離縁しようとまで言い出す始末。
自分の思いを信じてもらえないシリウスは、彼女の【寝言の強制実行】の力を消し去るため、どこかにいるであろう魔法使いを探し出す──!!
大人になるにつれて離れてしまった心と身体の距離が少しずつ縮まって、絡まった糸が解けていく。
すれ違っていた二人の両片思い勘違い恋愛ファンタジー!!
【完結】彼を幸せにする十の方法
玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。
フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。
婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。
しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。
婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。
婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる