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勘
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正直、他国の動きなんぞ、どうでもよかった。
リーベンフラウン王国に関わることでないのなら。
ベイベル国が賢者くずれを欲しがろうと、それが目的で入国しようと全く構わなかった。
オレたちが調べたかったのは、そのために王家に仇為す行為を目論む不特定の輩で。
金であれ、地位であれ、名誉であれ、シャールベルム国王陛下の治世を乱さんと企む者たちを前もって把握しておくこと。
そしてその処置をすること。
それだけだ。
だから当初は、ベイベル国の者たちに国家機密情報を売り渡そうとする者たちを特定することだけを考えていたのだ。
そう、それだけだった。
「・・・権力というものは、それほどまでに人の目を曇らせるものなのだな」
寂しそうに、ミハイルシュッツ王弟殿下が呟いた。
自らの立場に満足し、兄である国王陛下を支えることに尽力してきた方からすれば、理解の範疇を超える概念なのだろう。
「一応こうして報告はしましたが、今のところは状況証拠から推測したにすぎません。あとは勘と申しますか・・・」
そうとは限らない、とリュークザインが言外に示せば、王弟殿下は寂しそうに微笑まれた。
「さて、この事はレオンハルトには伝えておくべきかどうか・・・」
国王陛下は、やはり息子の気持ちを案じておられるようで、一連の報告を聞いてまず一番にそう述べた。
今の婚約者が決まるよりも前、初恋の相手エレアーナに賢者くずれが差し向けられ、命が脅かされた時の殿下の焦燥ぶりをまだ覚えていらっしゃるのだろう。
「あの事であいつは自らエレアーナ嬢を手放してしまったからな・・・」
今の婚約者であるカトリアナに不満がある訳ではない。
寧ろ、穏やかで控えめで、しかし他者のためになら前に出ることも厭わない勇敢さは、非常に好ましかった。
エレアーナがケインバッハと婚約した時は少々がっかりしたが、レオンハルトがカトリアナを新たな婚約者候補として選んだ時には心底安堵したものだ。
「陛下が心配なさるのも分かりますが、今回はどちらかというと、猛り狂ってカトリアナ嬢を守ろうと必死になるんじゃないですかねぇ? 更に愛を深める結果になるだけだと思いますよ?」
人の好さそうな笑みを浮かべ、自信ありげにシュタインゼンが口を挟んだ。
「なにせ、リンデンベルク殿下に取られてしまうと勘違いして、慌てて現場に突っ込んで行かれたくらいの執着ぶりですからねえ」
・・・ああ、そういえば。
指摘されて一年近く前の出来事を思い出し、先ほどまでの苛立ちが少しだけ収まるのをシャールベルムは感じた。
「・・・そうだな。あいつがカトリアナ嬢を諦める筈がない」
「そうですとも。惚れぬいてらっしゃいます。溺愛と言ってもいいでしょうなぁ」
「ああ」
シュタインゼンの表現に苦笑しつつも、それは確かだ、と首肯する。
「まぁ、多少は動揺されるとは思いますが、状況理解は何よりも大切です。速やかにお知らせするべきかと」
「ではそうしよう。・・・何よりもリュークザインとベルフェルトの情報収集力は並みの能力ではない。勘などという言葉で済ませて良いものではないだろう」
その言葉と共に、優しい眼差しを二人に向ける。
「いつも済まないな。お前たちには感謝している」
「陛下・・・」
「勿体ないお言葉にございます」
二人は深く頭を垂れた。
「では、早速動いてくれ」
朝、ライナスがレオンハルトの執務室に入った時、室内の空気がいつもと違うことにまず気付いて。
それから机に座るレオンハルトと、その傍に一人の侍従が立っているのが目に入った。
「ああ、来たね、ライナス」
その言葉に応えて軽く頭を下げると、ライナスは壁近くに控える。
レオンハルトは侍従の方に顔を向け、軽く頷いて「じゃあ、それで頼むよ」と告げた。
「畏まりました」
それだけ言うと、侍従は会釈をして部屋から出ていった。
最後にちらりと意味深な視線をライナスに送ってから。
「・・・殿下。今の侍従は・・・」
「あ、気がついた? ベルフェルトだよ」
「えぁ? ベル? ・・・いや、全然気がつきませんでしたけど、そっか、奴だったか。なんか意味ありげにこっちを見てたから何だろうなって」
「ちょっとね、警護の変更とかの確認に来てたんだ」
「警護の変更、ですか?」
と、ここでようやく扉の方から殿下へと視線を戻したライナスは、初めて室内のピリピリした空気の原因を知った。
殿下の眼が全然笑っていないのだ。
笑顔は浮かべている。
いつも通りの完璧な笑顔。
なのに眼が。
氷のように冷え切っている。
うわ、なに。
これ、眼だけで人を射殺せるってやつか?
ライナスは恐々と口を開く。
「あの、殿下。何かあったんですか?」
その質問に、レオンハルトはこてんと首を傾げる。
「・・・いや、まだ何も」
仕草は可愛いのに、恐ろしく感じるのは何故なんだ?
「ええと・・・警護の変更っていうのは・・・」
「ああ、カトリアナにつける護衛を増やすんだよ」
「カトリアナ嬢・・・ですか」
予想外の人物の名前に、少し不思議そうな顔をしたライナスに、レオンが更に説明を加える。
「ほら、今は非公式とはいえシュリエラ嬢も護衛対象になってるだろ? 護衛一人に対象二人だと、有事の際にアッテンボローだけでは対応しきれないかもしれないからね。もう一人つけることになったんだ」
「はぁ、でも急な話ですね」
「そう思われないように護衛には腕の立つ女性をつける。表向きはシュリエラ嬢と同じ侍女、ということでね」
腕の立つ女性・・・。
何か嫌な予感がしたライナスは、話の先を聞くのが少し怖くなっていたのだ・・・が。
レオンハルトは、そんなライナスに構うことなく次の言葉を続けた。
「うん、そう。それでルナフレイア嬢に頼むことになったんだよね」
リーベンフラウン王国に関わることでないのなら。
ベイベル国が賢者くずれを欲しがろうと、それが目的で入国しようと全く構わなかった。
オレたちが調べたかったのは、そのために王家に仇為す行為を目論む不特定の輩で。
金であれ、地位であれ、名誉であれ、シャールベルム国王陛下の治世を乱さんと企む者たちを前もって把握しておくこと。
そしてその処置をすること。
それだけだ。
だから当初は、ベイベル国の者たちに国家機密情報を売り渡そうとする者たちを特定することだけを考えていたのだ。
そう、それだけだった。
「・・・権力というものは、それほどまでに人の目を曇らせるものなのだな」
寂しそうに、ミハイルシュッツ王弟殿下が呟いた。
自らの立場に満足し、兄である国王陛下を支えることに尽力してきた方からすれば、理解の範疇を超える概念なのだろう。
「一応こうして報告はしましたが、今のところは状況証拠から推測したにすぎません。あとは勘と申しますか・・・」
そうとは限らない、とリュークザインが言外に示せば、王弟殿下は寂しそうに微笑まれた。
「さて、この事はレオンハルトには伝えておくべきかどうか・・・」
国王陛下は、やはり息子の気持ちを案じておられるようで、一連の報告を聞いてまず一番にそう述べた。
今の婚約者が決まるよりも前、初恋の相手エレアーナに賢者くずれが差し向けられ、命が脅かされた時の殿下の焦燥ぶりをまだ覚えていらっしゃるのだろう。
「あの事であいつは自らエレアーナ嬢を手放してしまったからな・・・」
今の婚約者であるカトリアナに不満がある訳ではない。
寧ろ、穏やかで控えめで、しかし他者のためになら前に出ることも厭わない勇敢さは、非常に好ましかった。
エレアーナがケインバッハと婚約した時は少々がっかりしたが、レオンハルトがカトリアナを新たな婚約者候補として選んだ時には心底安堵したものだ。
「陛下が心配なさるのも分かりますが、今回はどちらかというと、猛り狂ってカトリアナ嬢を守ろうと必死になるんじゃないですかねぇ? 更に愛を深める結果になるだけだと思いますよ?」
人の好さそうな笑みを浮かべ、自信ありげにシュタインゼンが口を挟んだ。
「なにせ、リンデンベルク殿下に取られてしまうと勘違いして、慌てて現場に突っ込んで行かれたくらいの執着ぶりですからねえ」
・・・ああ、そういえば。
指摘されて一年近く前の出来事を思い出し、先ほどまでの苛立ちが少しだけ収まるのをシャールベルムは感じた。
「・・・そうだな。あいつがカトリアナ嬢を諦める筈がない」
「そうですとも。惚れぬいてらっしゃいます。溺愛と言ってもいいでしょうなぁ」
「ああ」
シュタインゼンの表現に苦笑しつつも、それは確かだ、と首肯する。
「まぁ、多少は動揺されるとは思いますが、状況理解は何よりも大切です。速やかにお知らせするべきかと」
「ではそうしよう。・・・何よりもリュークザインとベルフェルトの情報収集力は並みの能力ではない。勘などという言葉で済ませて良いものではないだろう」
その言葉と共に、優しい眼差しを二人に向ける。
「いつも済まないな。お前たちには感謝している」
「陛下・・・」
「勿体ないお言葉にございます」
二人は深く頭を垂れた。
「では、早速動いてくれ」
朝、ライナスがレオンハルトの執務室に入った時、室内の空気がいつもと違うことにまず気付いて。
それから机に座るレオンハルトと、その傍に一人の侍従が立っているのが目に入った。
「ああ、来たね、ライナス」
その言葉に応えて軽く頭を下げると、ライナスは壁近くに控える。
レオンハルトは侍従の方に顔を向け、軽く頷いて「じゃあ、それで頼むよ」と告げた。
「畏まりました」
それだけ言うと、侍従は会釈をして部屋から出ていった。
最後にちらりと意味深な視線をライナスに送ってから。
「・・・殿下。今の侍従は・・・」
「あ、気がついた? ベルフェルトだよ」
「えぁ? ベル? ・・・いや、全然気がつきませんでしたけど、そっか、奴だったか。なんか意味ありげにこっちを見てたから何だろうなって」
「ちょっとね、警護の変更とかの確認に来てたんだ」
「警護の変更、ですか?」
と、ここでようやく扉の方から殿下へと視線を戻したライナスは、初めて室内のピリピリした空気の原因を知った。
殿下の眼が全然笑っていないのだ。
笑顔は浮かべている。
いつも通りの完璧な笑顔。
なのに眼が。
氷のように冷え切っている。
うわ、なに。
これ、眼だけで人を射殺せるってやつか?
ライナスは恐々と口を開く。
「あの、殿下。何かあったんですか?」
その質問に、レオンハルトはこてんと首を傾げる。
「・・・いや、まだ何も」
仕草は可愛いのに、恐ろしく感じるのは何故なんだ?
「ええと・・・警護の変更っていうのは・・・」
「ああ、カトリアナにつける護衛を増やすんだよ」
「カトリアナ嬢・・・ですか」
予想外の人物の名前に、少し不思議そうな顔をしたライナスに、レオンが更に説明を加える。
「ほら、今は非公式とはいえシュリエラ嬢も護衛対象になってるだろ? 護衛一人に対象二人だと、有事の際にアッテンボローだけでは対応しきれないかもしれないからね。もう一人つけることになったんだ」
「はぁ、でも急な話ですね」
「そう思われないように護衛には腕の立つ女性をつける。表向きはシュリエラ嬢と同じ侍女、ということでね」
腕の立つ女性・・・。
何か嫌な予感がしたライナスは、話の先を聞くのが少し怖くなっていたのだ・・・が。
レオンハルトは、そんなライナスに構うことなく次の言葉を続けた。
「うん、そう。それでルナフレイア嬢に頼むことになったんだよね」
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