【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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前を向く人、向かない人

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その場に二人を残して去っていくベルフェルトの後ろ姿を黙って見送ると、ライナスバージが頭を掻きながら「じゃあ、オレもそろそろ行くわ」と言った。

「・・・お前も仕事あるんだろ? 頑張れよ」

そう言って歩き出した従兄に「待って」と呼び止める声が背後から響く。

ゆっくりと振り向くと、まだまだ子どもだと思っていた少女が、偉そうに腕組みをしてライナスを見つめていた。

「これ以上、話をややこしくしないでよ? ライナス」
「・・・ああ」

少しの間の後に頷く。
満足そうに笑ったルナフレイアは、「じゃあね」と言って仕事場へと帰って行った。

それをぼんやりと見送っていたライナスは、やがてその後ろ姿が視界から消えると、ひとつ息を吐き、それから自分の持ち場へと戻って行った。






「おや、これはこれはエイモス卿。貴方に王城でお会いするとはなんとも珍しい」

執務棟の廊下を進んでいたベルフェルトの向かい側を歩いていた人物の一人が、笑みを浮かべながら声をかける。

「これは、カリューガ子爵、久しぶりですな。私が王城にいるのが珍しい事は認めるが、いくら道楽者の私でも、たまには当主の真似事らしき行いをするのだよ」
「これは失礼。決してそのような意味では」

下卑た笑いを浮かべるカリューガ子爵に笑みで応えると、ベルフェルトは視線を隣の男に移した。

「・・・スカッチ伯爵も久しぶりですな。伯爵も王に謁見ですかな?」
「まあ、そんなところだよ、エイモス伯爵」

立派な口ひげを蓄えたスカッチ伯爵は鷹揚に言葉を返すと、不躾な視線でベルフェルトを上から下まで眺めまわした。

「・・・なにか?」
「失礼。相変わらずの美丈夫だと感心してね」
「それはどうも」
「相変わらず派手に遊び歩いているようだな。君の浮名の流しっぷりは社交界でも有名だぞ」
「はは、今更ですよ」

肩を竦め、顔色も変えずに飄々と相槌を打つベルに、スカッチ伯は少し苛立ちの混じった表情を浮かべた。

「君がもう少し真面目な男であったならばと思わずにはいられんよ。素行さえ真面であれば娘の縁談を持っていったのだがね。・・・実に残念だ」
「ほう、伯の娘御殿と言いますとアナベラ嬢ですかな? 今さら取り返しがつくこととも思わないが、あの美女を逃すとは、私も実に惜しいことをしたものだ」

反省の色など微塵もない相変わらずの口ぶりに、スカッチ伯は大仰な溜息を吐く。

「まあいい。それももう関係のないことだ」

ぽつりと呟いたその言葉は、ベルフェルトの耳に届くか届かないかの小ささで。
恐らくスカッチ伯としては、聞こえているとも思わなかっただろう。

その後、二人は「失礼」とだけ言い残してその場を後にしたのだった。

ベルフェルトはそんな二人の後ろ姿をじっと見つめていたのだが、やがて二人が視界から消えると踵を返し、デサイファミスへと足を向けた。





「どうした、ベル。今日はエイモス領の報告で執務室へ行くんじゃなかったのか?」

突然現れた相棒に驚いて問いかけるも、ベルフェルトは「ちょっとな」と答えるだけで積み上げられた報告書を漁り始めた。

「探し物ですか?」

手伝おうと声をかけたラエラを制し、一枚、一枚とめくっては目当てのものを探す。
その様子を見ていたリュークザインは、何かに気づいたように自分の手元にあった書類を別に差し出す。

「もしや、探し物はこれか?」
「・・・」

黙って受け取り、目を通す。

「王城で何かあったのか?」

重ねて問いかけるリュークに、ベルは軽く頷き「カリューガ子爵とスカッチ伯爵に会ってな」と答えた。

何かあったか、という問いに自分の暴走を報告されるのではと聞き耳を立てていたルナフレイアは、別の人物の名前が挙がったことに安堵して、それから。

「カリューガ子爵ってベイベル国の自称商人たちが接触してきたところじゃないですか」

思ったことを衝動的に喋っていた。

「ああ、そうだな」

突然会話に割って入ったルナを窘めることもなく、ベルフェルトは首肯する。

「・・・スカッチ伯も一緒にいたのか」
「ああ。・・・まあ、一緒にいたのはただの偶然かもしれんが」
「何か引っかかることでもあったのか?」
「オレのところに嫁に出したかったと言っていた」
「はあ?」

この大声は、勿論ルナフレイアである。
ちなみにラエラも驚きの表情を浮かべてはいたのだが、淑女の彼女は声を出さなかった。

当然、リュークザインとベルフェルトはそんな外野の騒音を無視して話を進める。

「スカッチ伯がか?」
「ああ、そうだ。だが、それももういい、と」
「なに?」
「もう関係ないと言っていた」

目当ての書類を確認し終えたベルフェルトは、ぴら、とリュークザインの机の上にそれを落とす。

「これは・・・ベイベル国が賢者くずれを欲しがっている、というだけの話じゃ終わらなさそうだな」
「やはりそうか」

リュークザインはベルフェルトの言葉に眉根を寄せ、溜息を吐いた。

「・・・父の悪夢の再来か」

そう小さく呟きながら。
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