【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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溢れる想い

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デュールの入ったグラスを手にホールで待つ彼女の元へ戻ってきたアッテンボローは、そこで耳にした言葉に何と反応したらいいのか分からずにいた。

シュリエラの前に立つ男が放った言葉は、まさに以前のアッテンボロー自身が思っていた事で。

「・・、数代前に伯爵になったばかりの成り上がりだそうじゃないか。君は歴史あるライプニヒ公爵家だぞ? 本来ならもっと格式ある家と縁を結ぶべきだろう」

それは、ずっとアッテンボローを縛り付けていた鎖だった。
ずっと、がんじがらめになっていて、勝手に傷ついて、シュリエラを諦めようとしたもので。

ようやく抜け出せた忌まわしい鎖。
それをシュリエラが、いともあっさりと引きちぎってくれた。

「兄は貴方からのお話を断ってアッテンボローさまを選ぶことにしたそうですわ。その事では、わたくしも兄にとても感謝しておりますの。我が兄ながら人を見る目があると感心いたしまして」

そう言い放つ姿は、予想を遥かに超える凛々しさで。

「貴方が馬鹿にしたんでしょう? ラエラさまを、兄を、アッテンボローさまを。・・・そしてあの方を選んだわたくしを」

ああ、君が好きだ、と。
思わず、心が震えた。

その時だった。

クラウブルとかいう男が、怒りに震えて手を振り上げた。

・・・まさか、こんな衆目のある中で手を上げる気か?

考えに耽っていた分、前に出るのが遅れた。

シュリエラが。

そう思った時。

ぴしゃ。

「あらやだ、申し訳ありません。私ったら、うっかり粗相を」

藍色の髪をきっちりと結上げた女性給仕が、クラウブルの礼服の裾にデュールを溢した。

あの声は、ルナフレイアか。

安堵したのも束の間、今度はクラウブルの怒りがルナフレイアに向かう。

「お前っ・・・! 給仕の分際でこんな無礼を・・・!」

だが、クラウブルの言葉はそこで途切れた。

「これはこれは大変失礼をいたしました。王太子殿下がお飲み物をお求めでしたので、急ぎ取りに行かせたものですから。・・・申し訳ありません、殿下。もう一度取りに行って来てもよろしいでしょうか」

ベルだ。

どうやって姿かたちを変えているのか見当もつかないが、今夜は給仕ではなく侍従で通すらしい。
昼間と同じ、水色の短髪の侍従姿だ。

そしてその少し後ろにはレオンハルト王太子殿下が。

流石に厚顔のクラウブルも、殿下の登場に臆してそろりと手を下ろした。

「お召し物が汚れてしまいましたね。どうぞあちらの休憩室においで下さい。染み抜きをさせていただきます」
「あ・・・いや・・・」
「時間が経つと落ちにくくなる。行ってくるといい、クラウブル」

少し冷えた声音で殿下が言葉を挟む。

クラウブルは、青ざめてそそくさとベルフェルトの後について会場から姿を消した。

「・・・大丈夫だったかい? シュリエラ嬢」
「わたくしは何ともありませんわ。助けて下さってありがとうございます。殿下、・・・そしてルナフレイアさま」
「この格好の人に『さま』付けはおかしいですよ、シュリエラさま」

ルナフレイアは、ふふ、と笑った。

「ではフレイア。種を撒いたわたくしが言うのもなんですが、あまり無茶はいけません。貴女が叩かれるところだったではないですか」
「ええ? 大丈夫、何とかなりますよ。逃げるとか、やり返すとか」

真面目な顔で説教を始めたシュリエラに、何故か嬉しそうな顔でルナフレイアが言葉を返す。

「また貴女はそんな・・・」
「そんなことより、シュリエラさま。さっき、もの凄い惚気てましたね?」
「は?」
「うん、惚気てたね。思いきり」
「な、何を仰いますの」

ルナとレオンに両側から挟まれて、そんな事を言われてしまったからシュリエラは堪らず顔をつんと背ける。

「照れなくていいよ、シュリエラ嬢。仲が良くて結構じゃないか」
「そうですよ、シュリエラさま。ほら、見てください。アッテンボローさまのお顔」
「え・・・?」

ルナフレイアに言われて、シュリエラが両手にグラスを持ったまま突っ立っているアッテンボローに目を向ける。

「え・・・?」

こちらの声はアッテンボローだ。

なんでルナフレイアが自分を見るようにシュリエラに言ったのか、理由が分からず漏れた声で。

でも、アッテンボローの顔を見たシュリエラは、驚いたように目を見開くと、また、ぷいっとそっぽを向いてしまった。

え、なに?

アッテンが呑気にそんな事を思ったのは一瞬で。

「ふふ、アッテンボロー。顔が真っ赤だよ?」
「あれは、よっぽど嬉しかったんでしょうねぇ」

などと二人に揶揄われるまでのほんの少しの間だけだった。
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