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視線の先にいる人は
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「殿下、妹を庇ってくださってありがとうございました。大丈夫だったか? シュリエラ」
ラエラとの結婚式が近づいている上に、最近、仕事がますます忙しくなった兄が、慌ててシュリエラの元にやってきた。
どうやら、つい先ほど会場に到着したようで、ホールに入って早々、激昂するクラウブルの声を耳にしたようだった。
「わたくしは大丈夫ですわ。皆さまに助けていただきましたので」
「間に合ってよかったよ。まさか夜会会場で、ご令嬢に手を上げようとする程の馬鹿だったとはね。ベルが慌てる訳だ」
「・・・慌ててらっしゃいました?」
レオンハルトの言葉に、シュリエラが改めて先程の出来事を思い返す。
いつものように余裕綽々の笑みを浮かべていたけど。
ベルフェルトは、シュリエラにとってはもう一人の兄のような存在だ。
親戚筋ということもあり、幼い頃から顔をあわせる機会もそれなりにあった。
それでも、シュリエラ自身が父の色にどっぷりと染まっていた時期が長く、父と距離を置いていたベルフェルトとは、結局よそよそしい付き合いの時期の方が長いような気がするのだが。
「・・・」
あら? でもちょっと待って。
慌てたのはわたくしを心配してではなくて・・・。
考え事を始めたせいで静かになっただけなのだが、そんな事を知らないラエラは、心配そうにシュリエラの顔を覗き込む。
「シュリエラさま、大丈夫ですか? ご気分でもお悪いのでは?」
「あ、いえ。なんでもありませんわ」
見れば、レオンハルトもアッテンボローもシュリエラの様子を伺っている。
だからシュリエラは、にこりと笑ってみせた。
「あの、そういえばルナフレイアさまは?」
「ああ、仕事に戻ったようだよ。ほら、あそこ」
レオンが手で示す先に、空いたグラスを片付けているルナフレイアの姿が見えた。
昼間の侍女姿とはまた変わっていて、印象が全く違う。
最初に見かけた時は夜会のドレス姿だったが、最早、その時の印象は殆ど残っていない。
シュリエラは首を傾げ、不思議そうに目を細めた。
「毎日お会いしますけれど、まだ慣れませんわ。どのお姿が本当のルナフレイアさまなのか分からなくなってしまいますの」
「まぁ、彼女と知り合ったのもつい最近だしね」
「辺境伯領に籠もっているのは勿体ないですね。このまま王都に残ってくれると私としても助かるのですが」
「こちらで縁談でもまとまれば、そうなる可能性もあるかもしれないけど。どうだろうね」
デサイファミスにこのまま残ってもらいたいリュークザインが思わず漏らした本音に、レオンハルトは、ふ、と笑んでそんな言葉を返した。
「殿下、今日はカトリアナ嬢はどちらに?」
「ああ」
カトリアナの身辺をこれまで以上に気遣っているレオンが、今は彼女の側にいない事実を不思議に思ったリュークザインが尋ねる。
「彼女もここのところ忙しかったからね。今日はお休み」
妃教育もいよいよ佳境に入り、今のカトリアナは王城に毎日通い詰めている状態だ。
そのうえ結婚式の準備も重なり、少し疲労がたまっているのだという。
そんな会話をレオンハルトが兄としている様子を、シュリエラは側で黙って聞いていたのだが。
ふと視界の端に、先ほどクラウブルを連れ出してくれたベルフェルトの姿が映り、会場に戻ったのね、などと考えていた。
ベルフェルトは何かを探すように少し視線を巡らし、目当てのものを見つけたのかある方向へと真っ直ぐに歩いて行く。
「・・・シュリエラ嬢? どうかしたのか、ぼんやりしているみたいだが」
デュールの入ったグラスを差し出しながら、アッテンボローが気づかわしげに問うてきた。
「何でもありませんわ。これ、いただきますわね」
グラスを受け取り、一口、口に含む。
デュールの芳醇な香りが口の中に広がるのを感じながら、シュリエラは目線を上げてアッテンボローの顔を見た。
「貴方こそ大丈夫ですの?」
「え?」
「あの馬鹿がやたらと大きな声で話していましたから、聞こえたのでしょう?」
そこでようやく、シュリエラが言っているのはさっきのクラウブルとやらの吐いた戯言のことだと気付いた。
「家柄しか威張れる所のない能無しの言う事なんて耳を貸す価値もありませんわよ?」
「・・・そうだな」
つん、と顔を背けて辛らつな言葉を吐いているが、その言葉の底にある真意を思うとただただ可愛らしいとしか思えなくて。
「別に気にしていない。というか、あれは実際に俺が思っていた事でもあったし」
「・・・」
「君のことが気になりながらも、ずっと遠巻きにしていたのはそのせいだったから」
「・・・馬鹿馬鹿しい考えですわね」
ふん、と呆れたように息を吐かれてしまい、苦笑を返す。
「確かに馬鹿馬鹿しい考えだった。そのせいで、君とこうして過ごせる時間を長く逃してしまったんだからな」
「反省しているのならよろしいですけれど」
「反省してるし、一生かけて償いたいと思ってる」
アッテンボローの言葉に、シュリエラは驚いて目を瞠った。
「・・・何を大げさな・・・」
「大げさじゃない」
「・・・」
「君を一生大事にしたいんだ」
ぽかんと口を開けたままアッテンボローを見つめるシュリエラは、つい先ほどまで考えていたベルフェルトの視線の先にある人物のことなどすっかり抜け落ちていた。
ラエラとの結婚式が近づいている上に、最近、仕事がますます忙しくなった兄が、慌ててシュリエラの元にやってきた。
どうやら、つい先ほど会場に到着したようで、ホールに入って早々、激昂するクラウブルの声を耳にしたようだった。
「わたくしは大丈夫ですわ。皆さまに助けていただきましたので」
「間に合ってよかったよ。まさか夜会会場で、ご令嬢に手を上げようとする程の馬鹿だったとはね。ベルが慌てる訳だ」
「・・・慌ててらっしゃいました?」
レオンハルトの言葉に、シュリエラが改めて先程の出来事を思い返す。
いつものように余裕綽々の笑みを浮かべていたけど。
ベルフェルトは、シュリエラにとってはもう一人の兄のような存在だ。
親戚筋ということもあり、幼い頃から顔をあわせる機会もそれなりにあった。
それでも、シュリエラ自身が父の色にどっぷりと染まっていた時期が長く、父と距離を置いていたベルフェルトとは、結局よそよそしい付き合いの時期の方が長いような気がするのだが。
「・・・」
あら? でもちょっと待って。
慌てたのはわたくしを心配してではなくて・・・。
考え事を始めたせいで静かになっただけなのだが、そんな事を知らないラエラは、心配そうにシュリエラの顔を覗き込む。
「シュリエラさま、大丈夫ですか? ご気分でもお悪いのでは?」
「あ、いえ。なんでもありませんわ」
見れば、レオンハルトもアッテンボローもシュリエラの様子を伺っている。
だからシュリエラは、にこりと笑ってみせた。
「あの、そういえばルナフレイアさまは?」
「ああ、仕事に戻ったようだよ。ほら、あそこ」
レオンが手で示す先に、空いたグラスを片付けているルナフレイアの姿が見えた。
昼間の侍女姿とはまた変わっていて、印象が全く違う。
最初に見かけた時は夜会のドレス姿だったが、最早、その時の印象は殆ど残っていない。
シュリエラは首を傾げ、不思議そうに目を細めた。
「毎日お会いしますけれど、まだ慣れませんわ。どのお姿が本当のルナフレイアさまなのか分からなくなってしまいますの」
「まぁ、彼女と知り合ったのもつい最近だしね」
「辺境伯領に籠もっているのは勿体ないですね。このまま王都に残ってくれると私としても助かるのですが」
「こちらで縁談でもまとまれば、そうなる可能性もあるかもしれないけど。どうだろうね」
デサイファミスにこのまま残ってもらいたいリュークザインが思わず漏らした本音に、レオンハルトは、ふ、と笑んでそんな言葉を返した。
「殿下、今日はカトリアナ嬢はどちらに?」
「ああ」
カトリアナの身辺をこれまで以上に気遣っているレオンが、今は彼女の側にいない事実を不思議に思ったリュークザインが尋ねる。
「彼女もここのところ忙しかったからね。今日はお休み」
妃教育もいよいよ佳境に入り、今のカトリアナは王城に毎日通い詰めている状態だ。
そのうえ結婚式の準備も重なり、少し疲労がたまっているのだという。
そんな会話をレオンハルトが兄としている様子を、シュリエラは側で黙って聞いていたのだが。
ふと視界の端に、先ほどクラウブルを連れ出してくれたベルフェルトの姿が映り、会場に戻ったのね、などと考えていた。
ベルフェルトは何かを探すように少し視線を巡らし、目当てのものを見つけたのかある方向へと真っ直ぐに歩いて行く。
「・・・シュリエラ嬢? どうかしたのか、ぼんやりしているみたいだが」
デュールの入ったグラスを差し出しながら、アッテンボローが気づかわしげに問うてきた。
「何でもありませんわ。これ、いただきますわね」
グラスを受け取り、一口、口に含む。
デュールの芳醇な香りが口の中に広がるのを感じながら、シュリエラは目線を上げてアッテンボローの顔を見た。
「貴方こそ大丈夫ですの?」
「え?」
「あの馬鹿がやたらと大きな声で話していましたから、聞こえたのでしょう?」
そこでようやく、シュリエラが言っているのはさっきのクラウブルとやらの吐いた戯言のことだと気付いた。
「家柄しか威張れる所のない能無しの言う事なんて耳を貸す価値もありませんわよ?」
「・・・そうだな」
つん、と顔を背けて辛らつな言葉を吐いているが、その言葉の底にある真意を思うとただただ可愛らしいとしか思えなくて。
「別に気にしていない。というか、あれは実際に俺が思っていた事でもあったし」
「・・・」
「君のことが気になりながらも、ずっと遠巻きにしていたのはそのせいだったから」
「・・・馬鹿馬鹿しい考えですわね」
ふん、と呆れたように息を吐かれてしまい、苦笑を返す。
「確かに馬鹿馬鹿しい考えだった。そのせいで、君とこうして過ごせる時間を長く逃してしまったんだからな」
「反省しているのならよろしいですけれど」
「反省してるし、一生かけて償いたいと思ってる」
アッテンボローの言葉に、シュリエラは驚いて目を瞠った。
「・・・何を大げさな・・・」
「大げさじゃない」
「・・・」
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