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違和感
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「式ももう間近だと言うのに、こうも仕事場に入り浸っていていいのか、お前たちは?」
自身の結婚式を一週間後に控えていながら、連日デサィファミスの執務室に籠もって仕事をするリュークザインに、ベルフェルトは呆れを通り越して感嘆まじりの声を上げた。
「問題ない」
「そうですわ。準備は万端、全て整っております」
こんな時まで息がぴったりのリュークとラエラは、ベルフェルトの心配を事もなげに却下する。
「そうは言ってもな、結婚式は一生に一度のものではないか。確かに任務は火急のものではあるが、式の前後くらいは少しくらい余裕を持っても・・・」
「そうも言っていられないようなのですわ」
そう言ったラエラは、酷く真面目な顔をしている。
「・・・何かあったのか?」
ラエラがリュークザインに視線を送り、リュークが頷く。
「先日の夜会、覚えているか?」
突然の話題転換にベルフェルトは片眉を上げるが、そのまま話の流れに乗って答えを返す。
「シュリエラが叩かれそうになった、あの夜会のことか?」
リュークはそれに頷くと、ラエラをちら、と見てから再び口を開いた。
「あの夜、ラエラに接触を図ってきた人物がいてな」
「ほう」
ベルフェルトが興味ありげに相槌を打つ。
「お前でもなく、オレでもなく、ラエラ嬢にか。して、それは?」
「アナベラ嬢だ」
その答えに、ベルフェルトは目を見開く。
「アナベラ・・・スカッチ伯爵令嬢か?」
「ああ」
「アナベラ嬢が何故君に? 彼女は何と言ってきたのだ?」
ベルフェルトの視線はラエラへと移る。
ラエラは少し思案してから、ベルフェルトを真っ直ぐに見つめた。
「そのご報告の前に、お話ししたい事があります。・・・ベルフェルトさま。わたくしと貴方さまが初めてお会いした夜会のことを覚えてらっしゃいますか?」
「? ああ。君がこいつと見合いをした頃のことだろう?」
話が見えない。
そう思ったが、ラエラの真剣な表情を見て、茶々を入れずに素直に答えた。
「ええ、そうですわ。あの時、化粧室でわたくしに絡んできたご令嬢方の顔を覚えてらして?」
「・・・あれは、三人だったか。確か・・・」
そこでベルフェルトはハッと目を瞠り、ラエラの顔を見る。
「そうですわ。その中にアナベラ・スカッチ伯爵令嬢がいらっしゃいました」
「ああ、・・・確かに」
「・・・前に、ベルフェルトさまが領主としてのお仕事で王城に来られた際、スカッチ伯爵に会われたと仰いましたでしょう? 娘と縁談を組みたかった、でももう関係ない、そう仰られたと」
ベルフェルトは無言で頷く。
「わたくし、その話を聞いて少し違和感がありましたの。ベルフェルトさまたちがお感じになったものとは別の違和感ですわ」
「・・・それは?」
「アナベラ嬢は、リュークさまと婚約したわたくしに嫉妬してデュールをかけようとされたのです。アナベラさまにとって縁談を組みたかった相手はリュークさまの筈ですわ。なのにスカッチ伯爵はそうではなかった」
アナベラが好きなのはベルフェルトではない、男のプライドを傷つけそうな指摘だが、もとよりカモフラージュで浮名を流しているベルにとっては、そんな事はどうでもいい。
寧ろ、対象外となるのは願ったり叶ったりだ。
「つまり、歴史あるライプニヒの血筋に当たる者と縁を結びたかった訳だな、スカッチ伯の方は。だが、それを何故、その時はまだ決まった相手のいなかったリュークにしなかったかと言うと」
ここで一旦、言葉を切り、それからゆっくりと確かめるように言葉を継ぐ。
「リュークはデサィファミスの統括責任者として名が知られているから・・・か」
「その通りです。対してベルフェルトさまは影に徹しておられる。暗部の統括として、リュークさまと同じ力と立場をお持ちですが、お名前は決して表には出てきません」
「探られて困るような何かを抱えている身としては、たとえ娘が願っていようと縁談は持っていけない。そういう事か」
「恐らくは」
アナベラにとっては全く以て気の毒な話だが。
もとより望みのない話だから仕方のないことなのだろう。
「ですが、そこまでして結びたかった縁も、今は違うと伯爵は仰った。・・・それは何故なのか、リュークさまもベルフェルトさまも推測なさいましたね」
「ああ」
「その事で確証が得られるかもしれません。アナベラさまがわたくしに伝えたい事があるそうです。正確に言えば、わたくしを通してリュークさまにお話ししたい事が。そのための場を設けて欲しいと」
悪い話ではない。
だが。
「罠では? もしくはリュークへの気持ちを打ち明けたいだけとか」
それに対してラエラは頭を振った。
「王国に関わる話だと仰いましたわ。人の目につかないような形で場を用意してくれ、とも」
「成程」
深く頷いたベルフェルトに向かって、リュークザインが疲れた表情を見せる。
「理解してもらえたかな? 私たちの一生に一度の結婚式が一週間前に迫っているというのに、ここでこうして仕事漬けになっている理由が」
幸せに浸りたい、なのにそれをしてしまう自分は許せない。
その複雑な表情に思わずぷっと吹き出して。
「真面目すぎる性格というのも難儀なものだな」
気の毒だとは思いながらも大笑いしてしまった。
自身の結婚式を一週間後に控えていながら、連日デサィファミスの執務室に籠もって仕事をするリュークザインに、ベルフェルトは呆れを通り越して感嘆まじりの声を上げた。
「問題ない」
「そうですわ。準備は万端、全て整っております」
こんな時まで息がぴったりのリュークとラエラは、ベルフェルトの心配を事もなげに却下する。
「そうは言ってもな、結婚式は一生に一度のものではないか。確かに任務は火急のものではあるが、式の前後くらいは少しくらい余裕を持っても・・・」
「そうも言っていられないようなのですわ」
そう言ったラエラは、酷く真面目な顔をしている。
「・・・何かあったのか?」
ラエラがリュークザインに視線を送り、リュークが頷く。
「先日の夜会、覚えているか?」
突然の話題転換にベルフェルトは片眉を上げるが、そのまま話の流れに乗って答えを返す。
「シュリエラが叩かれそうになった、あの夜会のことか?」
リュークはそれに頷くと、ラエラをちら、と見てから再び口を開いた。
「あの夜、ラエラに接触を図ってきた人物がいてな」
「ほう」
ベルフェルトが興味ありげに相槌を打つ。
「お前でもなく、オレでもなく、ラエラ嬢にか。して、それは?」
「アナベラ嬢だ」
その答えに、ベルフェルトは目を見開く。
「アナベラ・・・スカッチ伯爵令嬢か?」
「ああ」
「アナベラ嬢が何故君に? 彼女は何と言ってきたのだ?」
ベルフェルトの視線はラエラへと移る。
ラエラは少し思案してから、ベルフェルトを真っ直ぐに見つめた。
「そのご報告の前に、お話ししたい事があります。・・・ベルフェルトさま。わたくしと貴方さまが初めてお会いした夜会のことを覚えてらっしゃいますか?」
「? ああ。君がこいつと見合いをした頃のことだろう?」
話が見えない。
そう思ったが、ラエラの真剣な表情を見て、茶々を入れずに素直に答えた。
「ええ、そうですわ。あの時、化粧室でわたくしに絡んできたご令嬢方の顔を覚えてらして?」
「・・・あれは、三人だったか。確か・・・」
そこでベルフェルトはハッと目を瞠り、ラエラの顔を見る。
「そうですわ。その中にアナベラ・スカッチ伯爵令嬢がいらっしゃいました」
「ああ、・・・確かに」
「・・・前に、ベルフェルトさまが領主としてのお仕事で王城に来られた際、スカッチ伯爵に会われたと仰いましたでしょう? 娘と縁談を組みたかった、でももう関係ない、そう仰られたと」
ベルフェルトは無言で頷く。
「わたくし、その話を聞いて少し違和感がありましたの。ベルフェルトさまたちがお感じになったものとは別の違和感ですわ」
「・・・それは?」
「アナベラ嬢は、リュークさまと婚約したわたくしに嫉妬してデュールをかけようとされたのです。アナベラさまにとって縁談を組みたかった相手はリュークさまの筈ですわ。なのにスカッチ伯爵はそうではなかった」
アナベラが好きなのはベルフェルトではない、男のプライドを傷つけそうな指摘だが、もとよりカモフラージュで浮名を流しているベルにとっては、そんな事はどうでもいい。
寧ろ、対象外となるのは願ったり叶ったりだ。
「つまり、歴史あるライプニヒの血筋に当たる者と縁を結びたかった訳だな、スカッチ伯の方は。だが、それを何故、その時はまだ決まった相手のいなかったリュークにしなかったかと言うと」
ここで一旦、言葉を切り、それからゆっくりと確かめるように言葉を継ぐ。
「リュークはデサィファミスの統括責任者として名が知られているから・・・か」
「その通りです。対してベルフェルトさまは影に徹しておられる。暗部の統括として、リュークさまと同じ力と立場をお持ちですが、お名前は決して表には出てきません」
「探られて困るような何かを抱えている身としては、たとえ娘が願っていようと縁談は持っていけない。そういう事か」
「恐らくは」
アナベラにとっては全く以て気の毒な話だが。
もとより望みのない話だから仕方のないことなのだろう。
「ですが、そこまでして結びたかった縁も、今は違うと伯爵は仰った。・・・それは何故なのか、リュークさまもベルフェルトさまも推測なさいましたね」
「ああ」
「その事で確証が得られるかもしれません。アナベラさまがわたくしに伝えたい事があるそうです。正確に言えば、わたくしを通してリュークさまにお話ししたい事が。そのための場を設けて欲しいと」
悪い話ではない。
だが。
「罠では? もしくはリュークへの気持ちを打ち明けたいだけとか」
それに対してラエラは頭を振った。
「王国に関わる話だと仰いましたわ。人の目につかないような形で場を用意してくれ、とも」
「成程」
深く頷いたベルフェルトに向かって、リュークザインが疲れた表情を見せる。
「理解してもらえたかな? 私たちの一生に一度の結婚式が一週間前に迫っているというのに、ここでこうして仕事漬けになっている理由が」
幸せに浸りたい、なのにそれをしてしまう自分は許せない。
その複雑な表情に思わずぷっと吹き出して。
「真面目すぎる性格というのも難儀なものだな」
気の毒だとは思いながらも大笑いしてしまった。
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