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振り
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「アナベラさまは、ベルフェルトさまのことを好いてらっしゃるのかと思ってました」
この子は何を言ってるんだ?
話の流れがよく分からなくて、ただ黙って首を傾げた。
「だって」
手にした菓子を口にもせずに、なにやら呟いているが、声が小さすぎて聞こえない。
「ルナフレイア嬢? よく聞こえない。悪いがもう一度言ってくれないか」
「・・・だから」
どうしてそんなに難しい顔をしているのか。
眉根を寄せて、うーん、と首を傾げている。
「スカッチ伯爵から『娘を嫁にやりたかった』って言われたって仰ってたじゃないですか。だから私、てっきりそのご令嬢は、ベルフェルトさまと結婚したかったんだろうなって、思ってたんです」
成程、そういうことか。
そういえば、その話を報告に来た時、なにやら横で驚いていたな。
「スカッチ伯からすれば、ライプニヒ家の血筋と縁を持てればどちらでも良かったのだろう。オレはリュークとも近い親戚筋だし、一応伯爵家の当主でもあるし」
「・・・おまけに美形で人気あるし?」
「はは、確かにそういう意見もあるのだろうがな。・・・まあ、アナベラ嬢はそうではなかった。縁が持てれば誰でもという訳ではなく、リュークが良かったのだろう」
「そうなんですか」
ルナフレイアの表情はどこか冴えない。
何か不満でもあるのだろうか、眉間に皺を寄せている、
「まあ、流石はアナベラ嬢、見る目がある、と褒めてやりたいところだが、残念ながらリュークは他に愛する女性を見つけてしまった。それで呆気なく失恋となり、夜会でラエラ嬢に突っかかったのだろう」
「・・・」
なんだ?
ルナフレイアの機嫌が悪そうだ。
「ルナフレイア嬢?」
「・・・きません」
小さな声で、よく聞こえず、もう一度聞き返したのだが。
「納得できません」
今度はちゃんと聞こえたが、それでもその言葉の意味はわからない。
思案しているとルナフレイアは更に言葉を継いだ。
「ベルフェルトさまではなく、リュークザインさまに好意を持ったことが、どうして見る目があるってことになるんですか?」
「・・・オレはリュークと違って遊び人で女にだらしがないと有名だし、当分、特定の相手を作るつもりも、結婚するつもりもない。だから、結婚の相手とするには不適当だろう?」
ベルフェルトは、いつもの如く、つらつらと言葉を紡いだのだが。
「でもそれ、振りをしてるだけでしょう?」
ルナフレイアは、誤魔化されなかった。
「確かにリュークザインさまはご立派な方ですよ? 真面目だし、働き者だし、何事にも一生懸命だし、優しいし、格好いいし。でも、それはベルフェルトさまだって同じじゃないですか」
「は?」
「ベルフェルトさまも、真面目で、働き者で、何事にも一生懸命で、優しいじゃないですか。なのに、どうしていつも自分だけ幸せから外れようとするんです?」
「・・・」
「また煙に撒こうとしても駄目ですよ。その遊び人っていうのも、どうせ態と流してる噂でしょう?」
「・・・噂ではない。オレは本当に女遊びが激しい男だ。・・・ほら」
すいっと手を伸ばし、ベルフェルトはルナフレイアの顎を掴んで上を向かせる。
「・・・へ」
驚いて大きく開いた瞳いっぱいに、ベルフェルトの整った顔が映り込む。
ああ、でも。
これは君にはしたくなかったな。
この振りだけは。
顔をゆっくりと近づける。
ルナフレイアの瞳は、大きく見開いたまま。
ベルフェルトは妖艶に微笑んで、それから目を伏せて。
ちゅ、と唇を寄せた。
いつもならば躊躇なく唇に合わせるけれど。
振りで君の唇を奪うのは、どうにも良心が痛むから。
顔を離して改めてルナフレイアを見やれば、彼女は頬に手を当てて、顔を真っ赤にして。
・・・やっぱり頬にしておいてよかった。
唇どころか、頬に口づけを落とされるのも初めての様子に、そんな安堵を感じたのは彼女には内緒だ。
「な、な、なにを、いきなり」
「・・・次のお相手は君にしようかと思って。君も恋人はいないだろう?」
「は、はい?」
「いやぁ、最近ひとり寝が続いて寂しいと思ってたのだよ」
そう言いながら、肩に手を回し、ぐっと抱き寄せた。
「ちょっ、待って。ベルフェルトさま、誤魔化さないで」
「誤魔化すもなにも」
そう言って、腕の中に抱きしめた。
・・・誤魔化されてくれ。
君は、素直で、可愛くて、強くて、優しい子だ。
いつかきっと、立派な紳士に巡り合う筈だから。
この任務に引き込んでおいて今更だが。
こんなところで、こんな男に引っかかってはいけない。
ほら、さっさとオレを殴って。
罵倒して出て行くといい。
「君の唇はとても柔らかくて美味しそうだ。・・・食べてもいいかい?」
ベルフェルトはそう言うと、彼女の両頬に手を当てた。
この子は何を言ってるんだ?
話の流れがよく分からなくて、ただ黙って首を傾げた。
「だって」
手にした菓子を口にもせずに、なにやら呟いているが、声が小さすぎて聞こえない。
「ルナフレイア嬢? よく聞こえない。悪いがもう一度言ってくれないか」
「・・・だから」
どうしてそんなに難しい顔をしているのか。
眉根を寄せて、うーん、と首を傾げている。
「スカッチ伯爵から『娘を嫁にやりたかった』って言われたって仰ってたじゃないですか。だから私、てっきりそのご令嬢は、ベルフェルトさまと結婚したかったんだろうなって、思ってたんです」
成程、そういうことか。
そういえば、その話を報告に来た時、なにやら横で驚いていたな。
「スカッチ伯からすれば、ライプニヒ家の血筋と縁を持てればどちらでも良かったのだろう。オレはリュークとも近い親戚筋だし、一応伯爵家の当主でもあるし」
「・・・おまけに美形で人気あるし?」
「はは、確かにそういう意見もあるのだろうがな。・・・まあ、アナベラ嬢はそうではなかった。縁が持てれば誰でもという訳ではなく、リュークが良かったのだろう」
「そうなんですか」
ルナフレイアの表情はどこか冴えない。
何か不満でもあるのだろうか、眉間に皺を寄せている、
「まあ、流石はアナベラ嬢、見る目がある、と褒めてやりたいところだが、残念ながらリュークは他に愛する女性を見つけてしまった。それで呆気なく失恋となり、夜会でラエラ嬢に突っかかったのだろう」
「・・・」
なんだ?
ルナフレイアの機嫌が悪そうだ。
「ルナフレイア嬢?」
「・・・きません」
小さな声で、よく聞こえず、もう一度聞き返したのだが。
「納得できません」
今度はちゃんと聞こえたが、それでもその言葉の意味はわからない。
思案しているとルナフレイアは更に言葉を継いだ。
「ベルフェルトさまではなく、リュークザインさまに好意を持ったことが、どうして見る目があるってことになるんですか?」
「・・・オレはリュークと違って遊び人で女にだらしがないと有名だし、当分、特定の相手を作るつもりも、結婚するつもりもない。だから、結婚の相手とするには不適当だろう?」
ベルフェルトは、いつもの如く、つらつらと言葉を紡いだのだが。
「でもそれ、振りをしてるだけでしょう?」
ルナフレイアは、誤魔化されなかった。
「確かにリュークザインさまはご立派な方ですよ? 真面目だし、働き者だし、何事にも一生懸命だし、優しいし、格好いいし。でも、それはベルフェルトさまだって同じじゃないですか」
「は?」
「ベルフェルトさまも、真面目で、働き者で、何事にも一生懸命で、優しいじゃないですか。なのに、どうしていつも自分だけ幸せから外れようとするんです?」
「・・・」
「また煙に撒こうとしても駄目ですよ。その遊び人っていうのも、どうせ態と流してる噂でしょう?」
「・・・噂ではない。オレは本当に女遊びが激しい男だ。・・・ほら」
すいっと手を伸ばし、ベルフェルトはルナフレイアの顎を掴んで上を向かせる。
「・・・へ」
驚いて大きく開いた瞳いっぱいに、ベルフェルトの整った顔が映り込む。
ああ、でも。
これは君にはしたくなかったな。
この振りだけは。
顔をゆっくりと近づける。
ルナフレイアの瞳は、大きく見開いたまま。
ベルフェルトは妖艶に微笑んで、それから目を伏せて。
ちゅ、と唇を寄せた。
いつもならば躊躇なく唇に合わせるけれど。
振りで君の唇を奪うのは、どうにも良心が痛むから。
顔を離して改めてルナフレイアを見やれば、彼女は頬に手を当てて、顔を真っ赤にして。
・・・やっぱり頬にしておいてよかった。
唇どころか、頬に口づけを落とされるのも初めての様子に、そんな安堵を感じたのは彼女には内緒だ。
「な、な、なにを、いきなり」
「・・・次のお相手は君にしようかと思って。君も恋人はいないだろう?」
「は、はい?」
「いやぁ、最近ひとり寝が続いて寂しいと思ってたのだよ」
そう言いながら、肩に手を回し、ぐっと抱き寄せた。
「ちょっ、待って。ベルフェルトさま、誤魔化さないで」
「誤魔化すもなにも」
そう言って、腕の中に抱きしめた。
・・・誤魔化されてくれ。
君は、素直で、可愛くて、強くて、優しい子だ。
いつかきっと、立派な紳士に巡り合う筈だから。
この任務に引き込んでおいて今更だが。
こんなところで、こんな男に引っかかってはいけない。
ほら、さっさとオレを殴って。
罵倒して出て行くといい。
「君の唇はとても柔らかくて美味しそうだ。・・・食べてもいいかい?」
ベルフェルトはそう言うと、彼女の両頬に手を当てた。
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